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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
2 救済

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少女願いて曰く-6

 湖上が購買に走ったり、桐子と少女三人で夕食を摂ったり、あげはからトークアプリで苦情が来ておりどこかで埋め合わせをしようと記憶に留めておいたりした後。入浴の為桐子とは一旦別れ、湖上と少女二人で湖上の部屋へと来ていた。


「お風呂気持ちよかったです!」

「そっかー……よかったねー……」


 湖上が入った後に少女が入浴したのだが。少女が風呂から上がりルームウェアに着替えた頃には、湖上は既に力尽きて床に転がっていた。

 よくある凡ミスと言えなくもない、脱衣所に着替えを持ち込み忘れるという事態が発生したのである。そこまでは仕方ないで済ませられたのだが、羞恥心という概念が無さそうな少女が裸のままシャワールームから出てきてしまったのだ。いくら何故か母と呼び慕われていようとも、湖上だって健全な青少年であることには変わりないのであり。目に毒もいいところだった。


「かあさま、どうしたです?」

「ちょっと、疲れた」

「大変です!?それならあのちっこいの追い返すです?」

「だからなんでそう排除方向に行っちゃうかなあ……」


 もう少し敵意を抑えられないのだろうか?湖上が床に転がりながらそんなことを考えていると、インターホンが鳴った。


「おねーちゃーん!」


 察しがついていたので特に躊躇せず扉を開けると、初めて見るゆったりとした白いワンピースを身につけた桐子が部屋に飛び込んでくる。


「おねーちゃんどうかなー?かわいいかなー?」

「かわいいよ」

「やったー!」


 この手のことを問われたらなんか褒めておけ、ということは身をもって知っているので取り敢えず褒めておく。


「かあさまワテクシは褒めないです!?」

「えっ……まあ、似合ってると思うけど」

「かわいいじゃないです!?」

「か、かわいいと思う、よ?」


 何故か少女に詰め寄られてしまったので、明らかに付け足した感あふれるとはいえ一応口にしておく。シンプルなシャツにハーフパンツ、というある意味至極一般的な装いは、少女には意外と似合っていたので。


「で、こういう時って何するです?」

「聞いちゃうかあ……それ初手で聞いちゃうかあ」

「……」


 さしもの桐子も気まずいのか、黙って明後日の方向へ顔を向けている。記憶喪失な1人と経験値が足りない2人がそろっても、文殊の知恵もクソもないのだ。揃って床に座り込んで、首をひねらざるを得ない。


「二人とも、わからないです?」

「うーん」

「ネットで調べてみる?」

「桐子ちゃん……多分これ、調べるようなやつじゃない」


 経験値の少なさが如実に出てしまっている。いや本当に、あげはとかに聞けば一発で答えが返ってくるのだろうが。流石にそんなことをしてしまったら貸ひとつでは済まなさそうなのだ。リスクヘッジは慎重に管理すべきである。


「ワテクシ、思い出したです!」

「ほんとに?」

「ワテクシを信用しろです。……こういう時はコイバナするです!」

「げほっごほっ」


 なんつー記憶をピンポイントで残しやがって!という言葉を飲み込めた湖上を褒めて欲しい。いや本当に、どうしてそんな答えに辿り着いてしまったのだ!?よりによってこの顔ぶれで。そんなことを話したって火種にしかなり得ないだろうに。


「でもワテクシ、コイバナってなんなのかわかんないです。鯉の話でもするです?」

「なんか別物に置き換えられてることはわかった……!よーしその話やめよう!」

「と、桐子ちゃんもやめた方がいいと思うー!」


 再三言うが記憶喪失1人と人間関係経験値が足りない2人で開催すべき話題では無いのだ。少なくとも湖上には話題のわの字すらない。というかこの場所で色恋沙汰をやれている夜宮とかがおかしいと思うのだが?……いや、逆か。どうせ死ぬならというやつか?


「じゃあ何話すですー?つまんないですー!」

「……今からでもトランプとか買ってきてみる?適当に服着替えればいいし」

「おねーちゃん、お風呂入ったのにまだ化粧してるもんね」

「だってすっぴんとか見せられないし」


 何故か微妙にこちらを責めるような口調で桐子が話しかけてくる。が、湖上としては先程の言葉が全てである。それ以上でもそれ以下でもない。だと、言うのに。


「そんなに、嫌?」


 桐子が、問う。ぐるぐる巻きの包帯の下、赤い瞳が湖上を射抜いていた。それは、幼子が持っていて良い眼光とは到底言えないもので。湖上がたじろぐのも仕方が無いと言えるレベルであったが。


「えっ、ま、まあ……」

「何を言ってるですちっこいの、かあさまは──もごっ!?」


 少女がほぼ確実にいらんことを口にしかけた為、強制的に黙ってもらう。正直ここまで彼女が反応するあたり、湖上の最悪の想定はあながち間違いでもないのかもしれない。どうしてこう針のむしろは加速するのだか。


「何か知ってるの?」

「もごっ!もごもごごご……ぷはっ!ひどいです!どうしてこんなことするです!?」

「俺だって人間だからね……知られたくないことぐらいあるの!」

「やっぱり何か知ってるんでしょー!?」


 厳密には知られたくない事と言うより知られたらなんか面倒だし黙っとこって事ではあるが。まあ誤差である。


「むう。かあさまが嫌ならワテクシは言えないです」

「桐子ちゃんが知らないことこの子が知ってるのむーかーつーくー!」

「だ、大丈夫だよ桐子ちゃん。ここに来てからのことは桐子ちゃんの方が知ってるから」

「……それってつまり、監獄に来る前の事はこいつの方が詳しいってこと?」

「そ、そんなことないよー」


 露骨に目を泳がせる。……桐子の発言は、的を射ていたが故に。湖上にはそうすることぐらいしかできない。というか、それぐらいの方が。


「かあさまのことが知りたいです?ならワテクシが──」

「わー!ちょ、それだけはやめて!」

「じゃあどうすればいいです?……あ、ワテクシとちっこいのがかあさまに質問するです!そしたらもっとかあさまのことわかるです!」


 名案!と目を輝かせる少女には悪いが。どうしてか、話が奇妙な方向へと転がってきていると認識しているのは湖上だけだろうか?間違っても友人の部屋でお泊まりをするというシチュエーションにおいて、うち1名を尋問するような催しはなかったと思うのだが。


「……桐子ちゃんもさんせーい!」

「なんで!?俺なんかのこと聞いてもなんも楽しくないよ!?」

「ワテクシは楽しいです」

「桐子ちゃんも楽しいよ?」


 悲しいかな、この世は多数派が強いものである。少女二人はこんな時ばかり気を合わせて、質問を口にし始める。


「おねーちゃんの好きな食べ物って何ー?」

「かあさまはいつ頃ここに来たです?」

「えっ」

「それは桐子ちゃん知ってるよー」

「ワテクシはかあさまから聞きたいです」

「お、俺を置いてけぼりにしないでくれる!?」


 湖上の叫びも虚しく、少女達は笑っていた。

2022/06/10

第一話を大幅に修正しました。多分こういうことしてるから更新頻度が遅いんだと思います。

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