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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
2 救済

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少女願いて曰く-5

 ある意味予想の範疇だろうと言われてしまえばそれまでなのだが、人間、名付けとはそんな簡単に行うものでは無い。ペットの名前でも悩む者が多そうな昨今において、人への名付けなど一瞬で終わるわけがなく。


「いーやーでーすー!帰りたくないです!ワテクシはかあさまのとこにいるですー!まだ、名前もらってないですー!」


 昼食を挟んで、形式上の授業が終わっても。勿論名前など思いつかなかった湖上に、少女はひっついてじたばたとしていた。


「あの……どうにか、ならない?」

「無理ね」


 意を決してS2の教室を訪ねてみれば、運良くいてくれた有明にそう問いかけているのだが。無慈悲にもバッサリと切り捨てられてしまう。もう少し躊躇とか見せて欲しかった。


「力ずくってのも出来なくはないけれど、他に人呼んで来る必要があるし、なにより引き剥がしたところでこいつ絶対引かないわよ」

「そうです!ワテクシは引かないです!」


 えっへん!と少女が胸を張る。そんな少女に、有明が半眼を向けた。


「あなたのかあさまが迷惑してるのに?」

「……で、でも感動の親子の再会です!一緒にいたいのは当たり前です!後名前欲しいです!」

「あんた、それ自分で言うもんじゃないわよ」

「事実を言っちゃだめです?」


 相変わらずズレた言葉を口にする少女に、有明が冷静に突っ込みを入れるも当の少女は首をひねっている。その様子を眺めながら、湖上は思考する。


 ……妙なところで知識があるくせに、妙なところは単純で純粋。そして人間では通常有り得ない身体能力。これが■■が願った形か──結局、どこまで行っても不器用だな、と。これでは、変わるのは過程だけだろうに。出る杭が打たれるというのは、分野を問わないなんて簡単なことを忘れてしまったのだろう。それよりもコミニュケーション能力とかを願った方がまだマシな気がする。

 それでもアレな八方美人を錬成しそうな辺りが、■■が■■たる所以というか。


「……おねーちゃん、どうしたの?なんか怖い顔してるよ?」

「えっ、あー……ちょっと、考え事してて」

「ワテクシの名前です!?」

「いやたしかに君のことを考えてたっちゃあ考えてたけど……」


 例によって桐子も湖上にべったりくっついている物とする。つまり湖上は、自分より(外見上含む)年下の、何故か小競り合いを繰り返し自分を取り合う少女二人を連れながらここまで来たのだ。

 まあなんというか絵面が最悪なのだ。大多数には女同士で戯れている平和な光景に見えるとしても、実情はそうではないのだから。


「見事なまでの両手に花ね」

「やめてよ……」

「気持ちはわかるから、恨んでるわけじゃないわよ。ただなんか微妙な気持ちになるだけで」

「えぇ……助けてくれないの?」

「無理。てか、早く連れ帰ってようるさいから」

「ひどいです!」

「何被害者ぶってんのよ元凶」

「痛いです!」


 ばちん、と有明が少女の額にデコピンを一発当てて。面倒くさそうに、少女が湖上を見る。


「もう一晩ぐらい泊めてやりなさいよ。どうせ一人部屋でしょ?」

「めっちゃくちゃ投げやりだね!?」

「投げやりにもなるわよ。知ってる?S2ってSの中では一番末期って有名なのよ?つまりロクでもないやつしかいないってわけ。そんなとこの始番号なんてトラブル対処に追われてるに決まってるでしょ」

「そ、そっかあ……」

「後私が始番号やってんのだって、あの連中の中で一番まともなのが私だったってだけよ」


 ちょこちょこズレた返答が目立つこの人が、S2の中では一番まとも、と。今更ながら、やはりこの監獄と呼称される場所はやばい所なのでは?と湖上は若干引いていた。


「た、大変だねー」

「これ言うと大体のやつがドン引きして放置してくれるから、楽でいいのよね」

「楽ですー!」

「……桐子ちゃん、思うんだけど。多分楽でいいよねーで流しちゃだめだと思うのそれ」


 桐子の発言に湖上も全面的に同意である。なるほどこんな人がS2で一番まとも?N6並に近づきたくない。そもそもノリが軽いお化けとかいる時点でどうなってるんだ?と思っていたがこれはダメだ。


「……あのー有明さん。その、俺、一応男なんだけどなーって」


 たしかに湖上は常日頃から女装している。周囲の反応を見るに、かなり女の子らしく受け取られているようなので忘れられていそうだが。普通に年頃の男子なので、色々とあるのだ。何がとは言わないのだけど。


「逆に聞くけどあなた、自分のことかあさまとか呼んでくるやつに欲情する趣味とかあるの?だとしたら引くんだけど」

「よくっ!?」

「ヨクジョー?ってなんです?」

「桐子ちゃんもわかんない」


 何故そう、色々と免疫がない男子に向けてそんなことを言えてしまうのか!?内容がかなり酷いことはわかっているが、それでも下ネタという時点で湖上には厳しいと言うのに。


「何、何かおかしなこと言った?それともマジでいけるの?」

「むっ、無理無理無理!無理だから!」


 勿論それを指摘できたら湖上はこうなっていない訳で。首を傾げる灯乃に対し、全力で否定する言葉を叫ぶことぐらいしかできない。自分のことを母親と呼ぶ少女に対して特別どうこう思う程、湖上は特殊な嗜好を持っていないのだ。


「そう、じゃあお願い」


 なんだか体良く了承の返事をさせられたような気がするのだが。はて?


「佐藤、良いってよ」

「やったです!灯乃ありがとです!」

「ちゃんと着替えとかは持っていきなさいよ」

「勿論です!」


 湖上を他所に話がトントン拍子で決まっていく。なるほど──嵌められたな!?

 しかし、それだけでは終わらなかった。まあ少し考えればわかったのだろうけど、現状の処理で手一杯な湖上の頭はそこまで回るわけもなく。


「と、桐子ちゃんもおねーちゃんのお部屋にお泊まりする!」


 そして事態は想像できる限りの最悪のパターンへと転がっていく。勘弁してほしいと叫びたくなったが、勿論そんなことを言うことができるわけもなく。

包帯の下の赤い瞳が、湖上をしっかりと射抜いている。どうしてそう、少女に対抗したいのだ。


「と、桐子ちゃん?いくら俺達がI配属だからって、三人も泊まれるほど部屋広く無いんだけどー?」

「そっちの子は良くて、桐子ちゃんはだめなの?」

「いや、そもそも俺としては……ていうか、布団無いよ?いいの?」

「床で寝るです」

「床で寝ないで!?」

「?じゃあかあさまと一緒にベッドで寝るです」

「いやそれはもっとだめかなあ!?」

「なら床で寝るです」

「堂々巡り!」

「……」


 宣言の後、暫く端末を見つめ黙りこくっていた桐子が、しょんぼりとした様子でこちらを見てきた。……十中八九、怒られたのだろう。あげは辺りに。


「あげはが……お風呂入る時包帯どうすんのって……後、寝てる時包帯ずれたらどうすんのって……」

「あー……」


 現実的な問題が、状況の悪化を引き留めてくれた。そう言えば、見慣れてしまったが故に忘れていたが桐子の全身を覆う包帯は異能封じの一種なのだ。当然ずれたり外したりしてしまえば、彼女の異能範囲無効化が発動してしまう訳で。入浴や就寝時には追加で措置がある方がむしろ不思議じゃないのだ。

 つまり湖上からすれば、割と同情の余地がある制止であった。なにせ湖上も自分が全く悪くない理由で、友達の家に泊まるという経験はした事がないので。……いやまあ、桐子がこれをどう捉えているのかと思うとアレなのだが。


「だったらお風呂とか入るまで、ギリギリまで俺の部屋にいる?」

「……ほんとに!?いいの!?」


 故に、桐子を哀れに思った湖上は助け舟を出したのだ。湖上にとってはよろしくない展開だが、だとしても桐子の現状は湖上の良心が少し痛むものだったので。

そんな湖上の対応は桐子にとって予想外だったらしく、目を大きく見開きながらも、瞳を輝かせた。早速、とあげはに対してその提案を伝えているのであろう。端末を操作し始める。


「おねーちゃん!おっけーだって!」

「え、マジでこのちっこいのも来るです?」

「来ちゃだめなの?」

「……かあさまを独り占めできない、という意味では嫌です。ただ、ワテクシが言いたいのはそういうことでは無いです」


 言外に少女は、湖上に問うていた。本当に、桐子を部屋に呼んでいいのかと。

 彼女の言いたいことはわかるが、この場で聞かなくてもよいだろうとため息をつきたくなる。現実は、そんなことを考慮してはくれないらしい。負の感情を抑え、湖上は取り繕う。


「どうしたの?桐子ちゃんが来たいって言ってるなら、俺は良いと思うけど」

「そうです?わかったです!」


 何も考えていないのか何もかもを考えているのか、相変わらず読めない。が、今の彼女に言ったところで意味は無いので、どうすることも出来ないのだ。ある意味、桐子や沢谷鏡香以上に対処が困難な相手である。


「話が纏まったのなら、こいつとっとと連れてってくんない?こっちだってそろそろ夕飯なのよ」

「うん、わかっ……あ゛」


 有明がしっしと手を振るジェスチャーをし始めた所で。湖上は、割と重要なことに気がついてしまった。


 さしもの湖上でも、寝る時まで女装している訳では無いということに。

 当たり前だが化粧も取る。ついでにいつもの赤いリボンだって外す。この時点で問題しかない。ない、が──それ以上に人間としてやばい物が、あるのだ。

 湖上は、まともな部屋着を持っていないのである。一日の大半はちゃんとした服を着ているのだから、何だっていいだろうという精神で生きているのだ。ある意味これは、布団の有無以上に重大な問題なのではなかろうか。


「ごめん、有明さん。ちょっと待っててもらってもいい?桐子ちゃんとあの子を引き止めておいて」

「……はあ」

「俺、ダッシュで購買行ってくるから」

「そう。よくわかんないけど、早くしてね」


 至極面倒くさそうに、有明に促される。そしてそのまま、湖上は速やかに購買へと走り去る。

 ──正直レディースのものは求めていない。いやあるに越したことはないのだが、最悪なんかこうよくあるパジャマ的なやつで良いのだ。それでさえも湖上の普段の部屋着よりは数千倍マシだ。何せ、湖上の部屋着とはとどのつまり長袖のTシャツにトランクスのみなので!

S配属始番号経緯

S1→先代始番号からの指名

S2→先代始番号からの指名(消去法)

S3→立候補

S4→消去法+じゃんけん

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