少女願いて曰く-3
「多分俺……あの子流に言うなら、あの子のかあさまに。ここに来る前、会ったことあるんだよ」
「え!?」
「珍しっ」
「……あいつの、かあさま?はあなたじゃないの?」
「いや俺産めないからね?」
なんだか少しズレた疑問と共に、有明が反応を返す。他の面々の反応がまともに見えてくるほどだ。最初に名を名乗った時に、男だと説明していたはずなのだが。
『おーやっぱたまにそゆことあるんだな~!』
なお手帳にホラー調の文字を書いている化野は呑気である。全体の人口に対する異能者の比率を考えれば、そこまで多く発生する事例とは言えないと思うのだが。彼は前例を見た事があるのだろうか。
「あくまで予測だよ?あの子、俺の知人と顔がまるきり同じなんだ。勿論その人は黒髪だしあんな変な口調で喋ってなかったけど。背格好が違うのは多分、俺が知ってる彼女より身長が伸びてたんじゃないかな。」
「……それだと、その子がかあさまっていうあなたの予測とは食い違わない?まるでその子自身があいつになったような」
「まあ、ある意味それも正しいのかも」
「どういうことかしら?」
……さて、これについて湖上はどこまで発言していいのだろうか?まあ、責任は件のかあさまたる少女に押し付けてしまっても構わないだろう。最早確認しようがない事なのだし。開き直って、そこそこ語ってしまおうか。初の疑問に、口を開く。
「知人の異能は、まあ雑に言うと自分自身の命を代償に、単性生殖する異能だったんだよ。あの佐藤ちゃんって呼ばれてる子を見た感じ、ある程度異能者の願望が反映されるんだろうね」
「そう。でもそれなら、あいつが記憶喪失なのは何故?」
「……そうなんだ。具体的に、どんな感じなの?」
有明は知らないのだから当たり前なのだが。こちらが言いにくことをズカズカと聞いてくる。……記憶、喪失。薄々勘づいてはいたが、やはりそうだったか。あの少女が彼女の被造物であると予測してしまった時点で、その可能性も視野に入れていたが。実際そう断言されてしまうと、なんともやりきれない。
「小説みたいな記憶喪失ね。言語能力やら人間としての基礎知識は残ってんのに、思い出とか知識に対する実感がまるで無いの」
「……」
「てか、あいつは名前無いから精々佐藤とかしか呼べないけど。あいつのかあさまは多分、普通の人間でしょ?名前あるんじゃないの」
いや本当に、いっそ清々しいまでに言いにくいことを尋ねてくる。ここまで来ると一種の才能では?とまで思ってしまうが。ここで口ごもったら余計なことを聞かれかねないのだから。腹を括って、口を開くしかない。
「■■■■」
「……は?なんて言ったの?」
「女装野郎、言語的な言葉を話せよ」
「もー1回!」
──嗚呼、やはり。彼女の名前は、もう呼べなかった。彼女ならそういうことをするってことは、分かりきっていたことじゃないか。しかしこれで、彼女がもうどこにもいないことも、水色の瞳を輝かせる少女こそが彼女の忘れ形見であることも確定してしまった。
もう、二度と会えないのだ。
「……そんな気はしてたけど、やっぱりあの子の名前は言えないみたい」
「そんな気はしてた、って」
「そういう子、だったんだよ。自分の存在を残したくなかったんだと思う」
「どうして?」
「……さあ。俺にも、正確なところはわからないや」
嘘だ。ほぼ確実に彼女は、学校内でのいじめを苦にした自殺として、異能を使ったのだろうから。正確なところはわからないという言葉は、湖上のそうであって欲しいという願いでしかない。まあ、この様子だと尽く予想は的中してしまうようだけど。
「ねえねえ、おねーちゃん。その子、おねーちゃんのお友達?」
……なんだか、妙な圧を感じるのは気のせいだろうか。
「うーん、どうだろ。俺としては学校の後輩って思ってたけど、あの子には単に知り合いって思われてそう」
というか、確実に恨まれているので彼女の中での認識は下手したら知り合い以下かもしれないが。まああの被造物がそれについて言及できるとも思えないので、都合よく話しておく。
「あんたが、学校……?」
「ひどくない!?俺だってここに来るまでは普通に学生やってたんだけど!?」
「あんま想像つかねえな。なんか浮いてそう」
「うっぐ」
どうして樹懸は時々かなり酷めの図星を突いてくるのか!やめてほしい、湖上にだって指摘されたら心に傷を負う真実ぐらいはあるのだ。そしてあげはも何故そんな衝撃の事実、みたいな表情をしている。余程の事がない限り、この国にいれば義務教育は受けているだろうに。
「桐子ちゃん、学校行ったことないからなあ。よくわかんないや」
「私も行ったこと無い。面白いのかな」
「俺は多分初等で終わってるぞ」
『俺も俺も~!初等の真ん中ぐらいから記憶無え~』
そういえばこの場にいる者の大半がその余程に属していてもおかしくないのだった。いや桐子はそう言われてもぶっちゃけ納得できる、できるが。有明もそちら側の人種とは。助けを求めるように初に視線を向ければ、初も苦笑いを浮かべていた。
「私は……中等で終わっているわね。まあ、ここに来る殆どの子達は中等までで終わってるんじゃないかしら?大学まで行ってる子はあまり見た事ないもの」
「つか、初等で終わってたり初等すら行ってないやつがゴロゴロいたらやばいっての」
実際湖上も最終学歴(?)に換算すれば中等までになってしまうので、何の否定もできない。そも初の言う通り大学まで進学できるほど、この場所に捕捉されずに済むとは思えないのだし。かと言って誰も彼もが初等校の内に異能に目覚めているわけでもなく。つまり平均値である。
「……でも結局、なんであなたがあいつにそこまで好かれているかは謎ね」
「うん、それは俺にもわかんない」
「本当に、ただの後輩だったの?」
「そうだよ。一応面識はあるかな、ぐらいの」
有明が訝しげにこちらを見てくるが、こればかりは湖上の心情的に口にしたくない部分である。それ以外の理由があるならばもう少し検討したのだが、そんなことはないのだから。
……まあ、本当に彼女に慕われている理由はわからないのだが。かと言って本人に聞いて満足な答えが得られるかどうか。
「……まあいいわ。どうせ、S-2-6がなんなのか知りたがってんのは監獄だし。私はどうでもいいのよ」
『教えてやる義理もねーしなー!』
「それはそう」
たしかにS2の二人の言う通り、あの少女の出自を気にするのはこの場所の運営母体だけであろう。湖上からすれば、意味のある行いとは思えないのだが。それすら──
「それより、湖上だっけ?あなた早くあいつのとこに行ってくれない?通知がうるさい」
「桐子ちゃんも着いてくー!」
「あはは……」
有明が大量に通知の溜まったチャットルームを見せてくる。妙な対抗心を見せている桐子を連れ、湖上は佐藤とあだ名されるあの少女の元へ向かうこととなった。




