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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
2 救済

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残響-3

「あー、その。悠堂くん。すっごく図々しいお願いであることはわかってるんだけどさ」

「……なんですか」


 長い前髪越しにでもわかるぐらいに目元を赤く染めた少年が、ぶっきらぼうに返す。この言葉が悠堂にとって、受け入れがたいものであろうことは餡条械だって理解している。しかし、餡条にだって立場はあるのだ。この機会を逃したらいつになるかわからないし、言っておきたい。


「俺の過去のことは、誰にも言わないでもらえるかな。勿論俺も、君について言いふらす気はないよ」

「……言いふらすも何も、俺のことなんか知らないでしょ」

「うっ……そこを突かれると何も言い返せないなあ」


 実際問題、餡条は悠堂とどこで出会ったのかすら、全く思い出せないのだ。こんな場所で、己の存在を知っている人間がいるとは思っていなかった、なんて言い訳を抜きにしたとしても、心当たりがまるでない。

 しかし、自分で言っておいて微妙にダメージを受けたような素振りを見せるとは。なるほどこの少年に対して、自分は思っていた以上に多大なる影響力を持っているらしい。こちらは全くもって記憶していないというのに──哀れなことだ。


「わかりました。アンタについては何も言いません」

「ありがとう。まあ、どの口で言ってんだって感じなんだけどね」

「ただ、一つだけ交換条件を出しても?」

「……うん?ええ、と。いい、けど」


 何かしら条件が出されること自体はなんら不思議ではない。だがそれにしたって、一体彼は何を自分に要求するのだろうか。困惑している素振りを見せる餡条に、悠堂はきっぱりと、強い語調で言い切った。


「俺にアンタの無様なサマを見せろ」


 きっと前髪の下で、何もかもを見透かす目にギラギラと鈍い輝をたたえているのだろう。短い言葉には、それだけの意思が込められていた。

 要は彼の要望は、いけ好かない相手の情けない姿を見て留飲を下げたい、といったところらしい。ある意味、至極単純な憎悪による行動原理だ。


「アンタが疲労を溜めて、ぶっ倒れる寸前になったら。公衆の目前で疲れてますよ、どうしたんですか?って優しく指摘してやります。そんで、取り繕えないぐらい、ぐじゃぐじゃになったアンタをしっかり──覚ってやりますから」


 掻き上げられた前髪と指の隙間から覗いた、黒く染まった白目と血のような赤眼が、何もかもを見透かすかのように見ている。やはりその視線は幻想生命化の異能者らしく異質で、恐ろしい。理解不能の存在に対する恐怖が一瞬過るも、すぐに抑え込んだ。

 押し殺す。何もかもを、消し尽くす。覚られないように、サトられないように。『餡条械』を作り上げた。


「まー仕方ないかー。全面的に俺が悪いし、仕方ないよねー」


 それでもやはり、足りなかったらしい。赤い眼が、あからさまに歪んだ。そして。


「だからアンタは、主人公をやめられないんすよ……そういうところが、本当に嫌いだ」

「そうかもね。でも、わからないよりはマシじゃない?」

「失礼な。いいんですよ独りよがりで」


『悠堂の出した条件は、悠堂ただ一人以外に他者に気絶などという醜態を晒さずに済み、、自分にメリットしかないのでは?』


 それに対して悠堂は独りよがりでも良いと言ってのけたのだから。きっと、悠堂自身気が付いていないのだろうけど。餡条自身はこの手のどろどろとした奇怪で複雑な感情を抱くことは無くても、向けられたことはごまんとある。悠堂が不可解と称すのであろう感情の実態ぐらいは把握しているのだ。


 ──それは、紛れもない、餡条械に対する執着心だろう?


 だから餡条は、自身の歪さを指摘した人間の、ちっぽけで人間じみた願いを、少しぐらいは叶えてやったっていいと思ったのだ。あまりにも無様で、哀れで、終わっていたから。……勿論、自分自身も含めて。










「……」


 隣には、穏やかに寝息をたてるイケメンが1人。無骨なバイザーが取り払われた顔面の破壊力は相変わらずである。


 餡条は悠堂游がどこまで覚っていると思っているのか定かではないが、悠堂と接する際は覚られる前提で会話してくる当たり、本当にタチが悪い。最初から全部知られているのなら仕方がない、と開き直っている事がこれでもかと伝わってくる。

 しかし自分の中の自尊心が、本来なら雲の上の野郎が、自分みたいな凡人を頼っていることに喜びを感じている事もまた事実である。


 ……ここまで来ると、自分はどれだけあいつに人格を歪められたのかと、我ながら呆れてしまう。遥か過去の青春に置いてきたと思っていた天才への憧憬は、まだまだ現役だったのかと。


「……」


 現在の悠堂は異能を発動している状態──とどのつまり額の眼を晒しているわけなのだが。餡条が非常にリラックスした状態であることを覚ってしまい、苛立ちが募る。寝てる間に異能を無意識に使ってしまう程警戒心が高い奴から、それなりの信頼感を得られていることがわかってしまって、怒りと優越感がぐちゃぐちゃになって、耐えられそうになくて。


 無防備なイケメンの顔面を全力で殴りたい衝動に駆られながら、現実から逃げるように悠堂は端末内のゲームに意識を逸らした。

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