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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
2 救済

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予知

 指定制服の下にベストまで着込んで。シャツにネクタイをきっちりと締めたいかにも真面目といった風貌の青年、識檻唯継(しきおりただつぐ)は額に青筋を浮かべていた。そこまでして彼が相対するのは、明らかに寝起きの童女である。指定制服をどういう訳だか寝巻きにしか見えないアレンジをして、極めつけにはナイトキャップを装備している。


「宵姫!何故私は毎回貴方の予知夢に巻き込まれているのですか!?」

「知らないよ」


 識檻の懇願は眠たげな童女、眠原(ねむりばら)宵姫(よいひめ)にばっさりと却下された。それどころか、のんびりと欠伸をしてすらいる。


「その話聞かなきゃだめ?眠いから寝たいんだけど」

「知ってますか?私は任務の関係であなたがレム睡眠を行っている間ずっと起きていなくてはならないのですよ!今貴方に眠られてしまうと私が眠れないのですが!」

「知ってる。大変だよね、N配属って」

「~~~~ッ!」


 ケープを捲りあげ、S配属の証である校章を識檻に見せびらかしてくる。相手が自分よりもはるかに年下でなければ拳が出ていた。危ないところである。


「そ!れ!で!何故私が毎度予知夢に巻き込まれるのかという件についてですが。予知夢が現実になるように動くなど、はっきりいって契約外なのですが」

「だからわたしにはどうしようもできないって。寝てるだけなんだから」

「少しは明晰夢を身につけてみようとか、夢を覚えられるようにしようとか思わないんですか!?」

「夢日記ってやつ?あれ危ないって本に書いてあったよ」

「そうですけど!」

「子供に危ないこと勧めるの、大人としてどうかと思う」


 相変わらずすました子供である。そんな子供と同レベルで口論を交わしている自分という存在にも、自己嫌悪が嵩んで仕方が無い。


「ま~たやってんの?仲良しだねぇ」

「……私と宵姫が友好的に見えるのでしたら、眼科への受診をおすすめしますが」

「あっはは!私のこと知ってる識檻君が、眼科行けってそれはもうジョークでしかないでしょ!」


 何が楽しいのか、ニヤニヤと笑いながら観数七世が入ってきた。相変わらず煙草を片手に持ちながら、である。いくら自分達が特殊とはいえ、流石にどうかと思うのだが。辞める気はさらさらないらしい。


「観数。識檻がうるさいんだけど」

「実験免除してあげてんだからいいじゃーん。これ以上何を望むっての」

「予知夢の遂行は契約外でしょう」


 元々観数から持ち込まれたこの任務は、監獄内でも変わり種と呼べるものだった。投薬実験の結果既に身体にだいぶガタがきていたが、N配属内で見れば少し珍しい異能を持つ識檻に持ち込まれたそれは。引き受けた場合今後一切の実験を免除するという、はっきりいって拒否権はまるでないものであった。

 任務内容は、S-3-7、眠原宵姫が見る予知夢を異能で知覚すること。通常夢というものは細部までこと細やかに記憶することは不可能である。故に、宵姫の予知夢にもいくらかの穴があったらしい。そこで、他者の夢を知覚する異能【識夢】を持つ識檻に白羽の矢が立ったというわけである。識檻ならば、起きている時と同等程度の記憶力と理解力を持って夢を知覚できるのでは、と監獄は予測したらしい。実際それは正しく、任務は継続となったのだ。


 ……が、問題が起きた。宵姫の無意識下でなにか変化があったのか、予知夢を見た事を前提として識檻と宵姫が予知夢を遂行する予知夢を見るようになってしまったのだ。そうなってしまえば、予知夢の通りに行動するしかない。何せ彼女のそれは、どう足掻こうと最終的な結末は同じになってしまうものなのだから。ならば自ら行動した方がまだ予測がつくという判断である。予知夢を止めれば良いのでは?と識檻は思ったが、異能封じのコスト問題で厳しいらしい。全く、世の中というものはつくづく金で回っている。


「それ言っちゃうー?」

「貴方の権限を用いれば、たかがN配属1人逃す程度、赤子の手をひねるよりも容易いことだと思うのですが」


 観数が煙を吐く。広がった煙の奥で、彼女は口角を釣りあげた。

 観数。代々上峰の研究に携わる家の一つ。何故か必ず一世代につき一人生まれる「女」が絶対的な権力を握る、世間的に見ても異端な家系。目の前にいるのは、件の「観数の女」そのものだ。


「私のことを買い被りすぎだよ識檻君。そんな権限は、それこそ上峰本家の人間が持ってるかなー?レベルさ」

「外から見るより、あなたの立ち位置は上位のように見えていたのですが。気のせいでしょうか?」

「んー……まあそれは気のせいじゃないんじゃない?てかぶっちゃけ、私交渉場には全然出ないから、他所様が何考えてるかなんて知らないっての」


 ……ある意味、最後の返答への予測はついた。識檻が得られる情報では、「観数の女」は眉唾物扱いを受けていた。根本的に「観数の女」は、代々表舞台に立とうとしないのだろう。もしくはできない、のか。


「識檻、ここから出ていって行く宛てあるの?」

「……静かにしてて貰えますか?」

「質問に答えてよ」

「逆に聞きますけど、貴方はあると思いますか?」

「無いでしょ。だってわたしも無いし」

「私が記憶している限りでは、貴方には弟がいたはずなのですが。条件が違います。それでは意味が通りません」

「識檻だって、なんか生えてたじゃん」

「絶対アレそのうち相続で揉めますよ」


 宵姫の言う、生えてきたものを思い浮かべる。隠し子以外の何者でも無いだろうに、と。それならば、自分が返り咲く場所程度は残っているはずだ。家庭内不和を抱えていたらしい宵姫の家よりかは、希望がある。


「というか、弟も結局弟だから。わたしよりはマシかもしれないけど、結局居場所はないよ」

「わーお世知辛っ」

「他人を思いやるとか無いんですか?貴方」

「宵姫ちゃん、私に思いやられたい?」

「全く」

「ほらー」


 観数と宵姫に結託されてしまえばこちらに勝てる筋道はない。宵姫が内心どう思っていようとも、彼女は識檻を弄るほうを優先するらしいのだから。


「……で、わたし眠いんだけど。寝ていい?」

「奇遇ですね、私も眠いんですよ」

「はいはーい宵姫ちゃんはぐっすりおやすみコースで構わないよ。識檻君は起きててもらおうかっ!」

「……」


 識檻にもう少し自制心が無ければ右ストレートが炸裂していた所だった。我ながら忍耐力が強いと思う。

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