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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
2 救済

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過保護

「いいじゃねーかー!なんか禁止されてるわけでもねーのによー!」

『危ないからだめー!』


 桐子と松太郎が些細なことで言い争っているよりかは、見かけない光景ではあるが。それでも、松太郎と静が騒いでいるのは珍しくはない。……ある意味、「騒いで」いるのは松太郎だけではあるのだが。


「だったら静はどうなるんだよ!?」

『お、俺はいいんだよ!』

「なんで静がはよくて俺はだめなんだよー!」


 具体的に、彼らが何について言い争っているのかはよく分からないが。何となく、静が相変わらずな対応を取ってそれに松太郎が反抗しているのだろうということは分かる。主に過保護的な意味で。


「松太郎たち、何してるんだろー」

「なんだろうねえ」


 たまたま隣に座っていた桐子が話しかけてくる。どうやら、桐子もこの主語の抜けた争いの原因を知りたいらしい。


「これ仲裁した方がいいのかな」

「うーん、桐子ちゃんがやったらもっと大変なことになっちゃいそう」

「あー…‥」


 そのように、二人で話していたのだが。


「静くんも松太郎ちゃんも、一旦落ち着いて。それじゃあいつまで経っても何も変わらないわ」


 ばん、と軽く机が叩かれる。湖上たちが話しかける前に、初が仲裁に入ったようだった。突然現れた第三者に、一旦二人は口を閉じる。が、すぐに口論を再開した。


「だって静が!」

『松太郎が』

「……とりあえず、経緯を聞いてもいいかしら?」


 穏やかに、初が二人に問う。そうして語られた内容は以下の通りである。

 静はピアスを大量に開けている。身近な人物が着けていることにより、松太郎もつけてみたいと思ったらしい。それを静に伝えたら、静が猛反対したと。


「別に、松太郎がピアス開けるのに静の許可いらないよね?」

「そうだねー。でも多分、松太郎は自分でやれないから、静がやることになっちゃうんだと思う。だから、静が許してくれないと無理なんじゃないかな」

「あー、えっと、なんかピアス開けるやつがあるんだっけ。それができないの?」

「松太郎ビビリだから」

「あー……」


 松太郎がピアスを開けようとして怖がり、最終的に静がピアスを開ける様子、なるほど想像に難くない。


「おいそこ聞こえてるからな!」

「桐子ちゃん嘘は言ってないもん」

「お前だってやれないくせに!」

「桐子ちゃんはビビってるわけじゃないもーん!」

「ビビりじゃないから良いってもんじゃねーだろ!」


 外野で好き勝手話していたら、松太郎が文句を飛ばしてくる。そして、ある意味いつも通りの光景が始まってしまった。


『ほらー!松太郎は怖がりなんだから、無理してやんない方がいいと思うよ!』

「こ、ここ怖がりじゃねーし!」

「ふーん!桐子ちゃんは怖がりじゃないもーん!」

「いやあんたはあんたでぶきっちょすぎてやれないでしょ」

「……うぐっ」


 我関せずを貫いていたあげはが投げた指摘に、桐子が表情を歪める。なるほどたしかに、と湖上は普段シュークリームを頬張る桐子を思い描いた。大体いつも、クリームで手をべたべたにしているので。


『それに、俺は松太郎に身体を傷つけて欲しくないんだって』

「俺似たようなこと静が初めてピアス開ける時に言った気がするんだけど」

『……ま、まああの時はーなんと言うか、お年頃だったというか、こう、ありとあらゆるものに歯向かって生きてくとかいうアヴァンギャルドをかっこいいと思ってたというか』

「この前メカ野郎が言ってたけどよ、それチューニビョウ?って言うらしいぜ」

「……ッ」


 一応話は聞いていたらしい樹懸が的確に静を突っつく。チューニビョウ、とやらが何なのかは湖上にはわからないが、少なくとも静を呻かせる程度には破壊力のある言葉らしい。


「とーにーかーくー!静がやってんなら俺がやったっていいだろー!初だってそう思うだろ!?」

『俺は松太郎に痛いことして欲しくないんだよ!初だって、松太郎痛いの無理だと思うでしょ』

「いや俺痛いのはそんなもごっ!?」

「私、ピアス開けれないからわからないのだけど。あげは、大丈夫だと思う?」

「それあたしに振る?」


 何か言ってはいけないことを言いかけたらしい松太郎が静に口を塞がれる。いや、今のは単に静にとって都合が悪かっただけな気がするが。初から話を振られたあげはが、面倒くさそうな顔をしながらも渋々答える。


「普通に耳たぶにピアッサーでやる分には、よっぽどやらかさない限り大して痛くないわよ。そこのクッソピアス開けまくってる男みたいなことし始めると保証できないけど。ねえ、静」

『ノーコメント』

「静……」

「てか、あたしよりよっぽど静のが詳しいでしょ。あたしほっとんど開けてないし」


 そう言ってあげはが自分の耳たぶに触れる。そこには、何の変哲もないオレンジ色のピアスがついていた。


「別にいいと思うけどなー。松太郎がただビビるだけだもん」

「ただビビるだけってなんだよ!?」

「……俺も、松太郎がいいならいいんじゃない?って思うけど」

『むー……』


 詳しくないので、無責任な同意しかできないが。阻害する動機も無いので、適当に場の流れに従っておく方が良いだろう。


「ほらー!みんなもこう言ってるしいいだろー!」

『(#`皿´)』


 静に詰め寄った松太郎に。静も何か思うところがあったのか言葉を表示するのとは別の端末を取り出し、操作し始める。素早く動かされる指は、しばらく動き続けたがすぐにぱたり、と止まった。


『( ・ὢ・ ; )』

「それどういう意味だ……?」

『有識者に聞いてみたけど、別にいいんじゃないって、言われた…‥』

「じゃあいいだろ!?」


 松太郎の視線に耐えられなかったらしい。たしかに松太郎に対して静は過保護なのだろうけど、同時にすこぶる甘いのだろう。まだここに来て時間の経っていない湖上にも何となく想像がつく程度には、わかりやすく。静は、渋々と言った様子で端末に言葉を表示した。


『いいよ』

「……!本当にか!?」


 松太郎が目をきらきらと輝かせる。しかし、静は釘をさすのも忘れていないようで。


『いいけど!ピアッサーとかファーストピアスとか俺が全部選ぶし、開けるのも俺がやるからね!変なとこに開けないからね!』

「唇とか舌とか首とかに開けてるやつが言うと説得力が」

『ちょーっと静かにしようかあげは!』


 ……以前、少しだけ聞いた時にも思ったが。一体どれだけの数のピアスを彼は身に着けているのか。気になるような、気にならないような。微妙な気持ちになりながら、湖上は事の成り行きを眺めていた。

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