以上をもって、贈物とする
「あら……来客、かしら。随分と久しぶりのように感じますわね」
その部屋には、雑に寝台へと放られ、点滴に繋げられた少女がいた。喪服じみた美しいドレスだったのだろうそれは、ズタズタに引き裂かれている。手足の一切を失い端から身を腐らせていくのを待つばかりの状態である彼女には、似合っているのかもしれないが。
「あなた様でしたの。ええ、生存確率が絶望的な実験というものは、すごいものですわね。大した日数も経っていないというのに、この有様ですもの」
少女は──葬義寺円は、入室してきた人物に対して語りかける。その人はひたすらに無言で、ただ無惨な姿と成り果てた円を見ていた。
「あの真っ黒な箱、本当にすごいものですわね。そういう意味では、あなた様は慧眼だと賞賛できるのかもしれませんわ。だって私、もう殆ど覚えていないのですもの。自殺屋さんをやっていた時のこと」
変わらず、無言で。その人は、円の前に突っ立っている。返答が無いことを気にした素振りを見せずに、円は言葉を続ける。
「いえ、完全に覚えていないという訳ではありませんわ。──実感が、ごっそり抜け落ちているのです。情報としてしか、覚えておりませんの。アフターサービスはしっかりしている方だったようですわね……ええ、箱の製作者様の話ですわ」
一瞬だけ厳しくなった視線を気にもとめずに。むしろ、ヒートアップしていく。
「それに、今ならわかりますわ。あの箱は、自殺屋さんとして最適化するために人格を歪める機能もあったようなのですもの。そうでなくては私が、他人を自殺させてあげるだなんて慈善行為をするはずがありませんわ。……ああ、勘違いなさらないでくださいまし?N34の集団自殺は私の趣味ですの。嘉納様ったら、本当にお優しい方で。だって!私の力を自分達の身で試してやる、なんて言ってくださったの!ですから私、とても楽しませていただきましたわ」
控えめに言って満身創痍といった様相で。全身の傷をものともせずに少女はまくし立てる。そんな少女をつまらなさそうに眺めていたその人は、いつの間にか手に何かを握っていた。それが視界に入ると、円はまあ!と感嘆の声を漏らす。
「やっぱり私、殺されてしまうのね!」
見た目自体は毒々しくもなんともない、何らかの透明な薬液が入った注射器。円にはきっとその薬品が具体的にどのようなものなのかは、まるで分からないのだろうが。状況から推察し、そう判断したらしい。
注射器を手にし、その人は円の寝台へと近づいていく。そして腐敗しかけた右肩に、注射器を近づける。……少しだけ、躊躇を見せた針に。円は口を開く。
「あなた様の話に乗った時から、私は覚悟していたもの。……ああでも、最期にいいかしら?私、遺言というものをやってみたかったの!」
あからさまな喜悦を滲ませ、少女は言う。
「あなた様は──私以上に、救いようがありませんわ」
ぶすりと針が円の華奢な肩に突き刺さり、薬液が注入された。




