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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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おつかい

 危ないお薬(直喩)を投与されると聞いていたのだが、大したことは無く湖上は実験室からの帰路を歩いていた。ちょっとした体力テストのようなものをしただけで終了を言い渡されたのだ。身構えていたものだから、若干拍子抜けではある。

 しかし実験が楽な代わりか、研究員から書類のおつかいを頼まれた。誰に届ければ良いのかと聞けば、Irregular-1-4とだけしか教えてくれない。研究員は行けばわかる、としか言わない。仕方なく、管理番号で表記されている寮の部屋にでも届ければいいのかと湖上は解釈した。幸いI配属の居住棟は1つしかないらしいので、湖上の自室付近を巡っていればたどり着くだろう。研究員も行けばわかると言っていた事だし。


 などと考えながら実験室がある通称中央棟を抜け、研究員曰く収容棟と呼ばれる居住棟につく。手前側にある食堂やラウンジを通り過ぎた先が、湖上達の自室だ。表札は飛び飛びになっており、その上8人しか使用者はいないのだから、空室が目立つ。そこから少し歩き、やっとIrregular-1-4と書かれた表札を見つけた。湖上はかなり中央棟よりの部屋のため、ここまで奥に来たのは初めてである。恐る恐るインターホンを押すと、すぐに反応があった。


『はーい、開けたから入ってきていいよ』


 知らない少年の声だった。湖上はI配属の面々とは全員(と言うと若干語弊があるのだが)面識があるはずなのだが。しかし、インターホンを押してしまったのは自分である。


「う、うん」


 戸惑いながらも、目の前で開いていく自動ドアに足を踏み入れた、のだが。


「うわあ!?」


 唐突に体が浮きあがった。上手く体が動かせず、壁に当たって押し出す形になると、更に明後日の方向へ吹っ飛ばされる。その拍子に抱えていた書類もどこかに飛んでいく。どうすればいいのだろう、というか、これは何が起こっているのだろう。と、混乱してじたばたしていると湖上の惨状に部屋の主が声を上げた。


「あーごめん。異能封じつけるの忘れてた!」


 これでもかとピアスをたんまり身につけた短髪の少年、静が慣れた様子で漂流する自分を浮かび上がったまま抱え上げる。そしてそのまま、片手でポケットの中からいつもの、赤い罰印がプリントされたマスクを片耳に引っ掛けた。


「ちょっと衝撃がいくと思うけど、転ばないように頑張るから安心してね」

「えっ、な、なにがっ!?」


 湖上が悲鳴混じりの叫びを上げるのをよそに、静は相変わらずの鉄仮面でもう片方のゴムも耳にかけた。


 その途端、浮遊感の一切が消え失せ、普段通りの重力が湖上にかかる。ガクっ、となった体は静に抱えられたまま、ゆっくりと降ろされた。産まれたての子鹿とまでは行かずとも大分震えた足腰のまま、湖上は若干涙目で静を見上げる。


「さっきの何!?なんかめっちゃ浮いて、怖かったんだけど!?」

「……」


 静は無言で机の引き出しの中から、いつもの端末を取り出し、言葉を表示した。


『あーえっとね。俺の異能って、【重力】……重力操作なんだよ。でも俺制御がかなり苦手で、異能封じが無いと話すだけでさっきみたいな状態になっちゃうんだよね』

「……それで?」

『自分の部屋の中は家具とかかなり強めに固定してもらってるし、異能封じをずっとつけたままでいるのもなんか落ち着かないから、外してて……(´・ω・`)』

 

 遂に顔文字まで表示され始めた。抱えた端末はこの通りフレンドリーに弁解しているが、端末から上は無論積極的に話しかけたくないタイプの容姿である。つまりギャップが激しくて対応に困る。


「まあ、怪我したりはしなかったからいいけど。びっくりした」

『本当にごめんねー』

「うん……あ」

『どうしたの?』

「靴脱いで無かった。こっちこそごめん」

『仕方ないよ』


 そそくさとストラップシューズを玄関に置きつつ、湖上は本題を切り出す。


「それで、職員の人から書類をIrregular1-4に届けて欲しいって言われてて。で、さっきので書類吹っ飛ばしちゃったから……」

『あーこれか』


 静が床に落ちていた書類を拾い上げる、と同時に出てきた黒い板状のものを片手でメキ、と粉砕した。


「えっ、ちょっ、ひえっ!?」

『ちょっとこれは、流石にいただけないからね』

「それ、壊して」

『そもそも異能者全員に端末無料配布してるのに、わざわざ紙で書類を渡す必要があるわけないでしょ。普通に盗聴とか発信機つける目的だよ』

「普通じゃないよ!?」

『ここでは普通だから諦めて。……たまにあるんだよね、新入りの子に書類任せて盗聴器とか発信機仕込むやつ。監獄にどれだけ歯向かうか見たいんだろうけど、さすがにどうかと思うから。こうして見つけたら壊してるんだ』


 特に平常時と変わらぬ無表情で、粉砕され露出した電子部品をそのままゴミ箱へとぱらぱら捨てながらの、もう片手での発言である。普通に怖い。と言うかその端末脳波とかそういうのから送っているらしいの、普通にオーバーテクノロジーなのでは?と今更ながらに気がついた。改めてここと「外」では技術レベルに差がかなりあることを認識させられた。

 ……電子機器を片手で粉砕できるレベルの握力については見なかったことにしたい。


「怖い所だね……ここ」

『麗も多少は警戒した方がいいかもね』

「そうだね……ていうか、そのマスク。異能封じ?ってやつだったんだ」

『うん。俺みたいな制御が苦手で暴発すると大変なことになる人が使ってるやつだよ』

「さっき大変なことになってたもんね」

『もー掘り返さないでよー(ノシ≧o≦)ノシ』

「そう言えば気になってたんだけど」


 無表情で照れを表現する静を他所に、湖上は口を開く。静は端末を抱えたまま、湖上の話を聞いていた。


「異能封じって、他にも使ってる子いるの?」

『そりゃいるよー。I配属だと、桐子とか』

「桐子ちゃん?……もしかして、あの包帯?」

『そうそれ。桐子って監獄である意味一番異能を暴発させたらやばい子だからね』

「静よりも!?」

『単純的な破壊力なら俺の方がやばいと思うけど、桐子は別だよ。

 だって桐子の異能は、範囲内の異能を全て無効化する異能だから』

「範囲、内……?」


 無効化、だけなら異能封じとやらがあるらしいのに。その言葉はいやに物騒な気配を伴っていた。


『眉唾物だけど、半径何km単位で無効化できるらしいよ?』

「うわあ……えっ俺そんな子と配属同じなの?俺がイレギュラーなら桐子ちゃんって……」

『まあまあ、桐子は松太郎並に、I配属の中でもかなりの例外だから。多分暗之雲(くらのくも)とか樹懸が一番I配属としては普通だし』


 ……正直、異能をkm単位で無効化できる桐子と異能が未判明の松太郎を同列に語れるのか?と湖上は思ったが、静かにしていた。

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