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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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死をゆるされぬものたちよ-18

「結論から言ってしまうと、俺は自殺屋さんを終わらせようとしたんですよ」

「えっ」


 湖上が思わず声を上げる。周囲を見渡せば、おおよそ湖上と同じような反応を見せていた。少なくとも湖上が知りうる彼の情報からは、到底自殺屋さんを否定する立場に回るとは思えないのだが。おそらく、この場にいる面々の大半もそう考えたはずだ。それを見た彼は、困っているのか分からない苦笑をうかべる。


「皆さん俺の事をどう思っていらっしゃるんですか?俺だって、クラスメートに対する情ぐらいはありますよ。それこそ自殺屋さんなんてものになってしまった円を、どうにかしようと奔走するぐらいには」

「なって、しまった?」

「だってとっても楽しそうだったんですもの!この自殺が禁じられた不自然な閉鎖空間で、唯一その権利を提供出来ますのよ!?そんな権利をあげると言われてしまえば、受け取ってしまうのも必然ですわ!」


 沢谷の怪訝そうな問いかけに、義寺が嬉々として答える。……一貫して、この少女は己の快楽に忠実に生きているらしい。だからこそ、何故あそこまで初に固執しているのかが少し浮いているように湖上は感じた。

 義寺の素振りを見た神構は、変わらず苦笑を浮かべながらも話を続ける。


「ええ、うちの円はこのような者でして。流石の俺も、自殺屋さんになったと聞いた時は絶句しましたよ。そんな、どう考えても監獄──あ、もしかしてこの表現はそぐいませんか?」

「んなこといちいち気にしねえよ」

「承知しました。自殺屋さんなんて、監獄に目をつけられるに決まっているでしょう?現にこうして任務として問題提起されていますし。ですから俺は、円を自殺屋さんから解放する手段を探したんです」

「ほう。んで、結局自殺屋さんってのは何なんだ?」

「ある程度は貴方がたの予測通りかと。相互同意の上でのみ、監獄が剥奪している自殺権利を一時的に与えられる力を得た者のことです。それで、代々受け継がれてるとか。ただまあ、俺自身は当事者ではありませんので。それ以上詳しいことは聞かされていません」


 そういえば、監獄という名は通称であるからして、正式名称が存在していたのだった。表向きはエスカレーター式の一貫校を名乗っているのだし。湖上にとっては馴染み深い名前では無いのですっかり存在自体を忘れていた。ここに居る者のほぼほぼは監獄と呼称しているし。


「その辺はこいつを尋問にかけるから問題無え」

「俺にとっては嬉しくない話ですねぇ。円、多分これ早く吐いた方が楽できますよ。推測ですが、例のあの人呼ばれますよこれ」

「あら。それはそれは楽しみですわね!」

「……」


 さして親しくない湖上にもよくわかる。確実に、現在の沢谷はドン引きしている。それと、マスクをつけ直した静も抱えた端末に何も表示していない。そして初は、何故か目を逸らしていた。もしかして神構の言う例のあの人とやらのことを知っているのだろうか。


「俺個人としては、自殺屋さんは何らかの異能的な物が関わっていると考えておりまして。ですので、試しに円に異能封じを服用させてみたところ、自殺屋さんの力が一時的に使用不可能になりました。それならば、花厳さんに円に触れてもらえば、自殺屋さんの力を消滅させることができるかと思いまして。接触を試みたんですが……いやあ、尽く避けてくださいましたよね湖上さん」

「えっ、いやそんなことないんだけど……桐子ちゃんが嫌がっただけだし」

『麗、桐子を連れてこうと必死だったもんねー』

「なるほど。どうやら花厳さんは、なかなか手強いお方のようですね」

「あはは……」


 神構は、どこまで桐子について知っていたのかはっきりとしていないが。湖上からすれば桐子は、完全に偶然で逃げただけに思える。


「花厳……ああ、あのアンタッチャブルか。ちっ、面倒くさい」

「アンタッチャブル?」

「I配属の中でもとびっきり、研究員が関わることを拒絶されてんだよ。だから手出し無用ってな。自分が知ってんのも、精々異能無効化異能とかいう意味わからんやつってことぐらいだ」


 ……桐子自身の情報は一体誰がどの辺まで知っているのだろうか。沢谷でこれでは、神構も湖上が思っているより詳細はわからないのかもしれない。


「義寺さん。僕からも質問していいですか?」

「ええ、勿論構いませんわ」

「嘉納礼籭さんに、何を言ったんですか?それと、何で相馬沈くんを自殺させたんですか」


 宙溟が口にした名前は、どちらも湖上にとっては聞き覚えのないものである。しかし、義寺にとっては違ったようだ。ああ、と大した事もなさそうに口を開く。

 

「嘉納様には、少々お願い事をいたしましたの。ですが、断られてしまって……」

「もしかしなくても、頼んだのって自殺屋さんの継承ですか?」

「ええ。頼んだら、何故だか気を取り乱してしまったの。それで、自殺屋さん自体が信じられない、と言い出して──」

「出来るものなら、自分たちを自殺させてみろ、とでも言われたんですね」

「そう!宙溟様ったらすごいのね!そうなのよ、だから私、とっても嬉しくなっちゃって!」


 義寺は拘束されたまま、瞳をきらきらと輝かせる。


「間近で集団自殺を見れるなんて!人生でそう無い経験ですもの、思う存分堪能しましたわ!」

「…………イカレ女、お前ちょっと口閉じらんねえの?」

「私が口を閉じたら、あなた様の大切なご友人の質問に答えられなくなってしまいますわ」

「円、貴方本当にそういう所ですよ」

「ちょっ、初抑えて抑えて」

「ご、ごめんなさい。つい」


 再び義寺に飛びかかろうとした初を湖上が止める。たしかに義寺の発言は世間一般的な感性を持つ人間からすれば、全く共感できない、むしろ嫌悪感が湧き上がってくるようなものであろう。無論湖上だって、義寺の考えはまるで理解ができない。しかしこの場で義寺を再び睨みつけても何も始まらないのである。


「……あなたにとって、嘉納さんとN34の人達の命は娯楽に過ぎなかったと?」

「?当たり前のことを、なぜ改まって問いかけるのかしら。命なんて、すべからく娯楽のひとつに過ぎませんのに」

「──」

『れ、麗落ち着いて!いや、てか本当に何しようとしてるの!?』


 全速力で地雷を踏まれたので、反射的に体が動いてしまった。静に抑え込まれ、眼前に端末を差し出されやっと気がつく。ここで実力行使に出ても何も始まらないと。先程の初の状況と何ら変わりないと。


「ご、ごめん静。ちょっと慌てちゃって」

『気持ちはわかるけどさ』

「だよね。一発いっちゃだめかな」

『だめだよ!?』


 これでも湖上としては茶化しているのである。手なら流石に理性が働いてくれるが、口論に発展してしまえば自分にも止められる自信が無いので。ある意味、湖上が一番嫌いな思想の一つであるのだから。人の命は尊ばれるべきとまでは湖上も言えない。貴賎は個々人の価値観でのみつけられるべきものであろう。それら全てをたかが娯楽と貶めないでもらいたい。定める権利は、認められていないのだから。


「それで、ええと。相馬様でしたっけ。あの方は、とても面白い方でしたの。私と大誠が湖上様と二ッ葉様とお話していたのを異能で偶然聞いていらっしゃったみたいで!自殺させてくれ、苦しまずに殺してくれと懇願されましたの。あまりにも必死で、哀れで愉快でしたからつい」

「貴方、そんな事までしてたんですか!?」

「あら?もしかして、伝えるのを忘れてしまっていたかしら。ごめんなさい、大誠」

「は~~~」


 神構が思い切りため息をついている。こうしていると、神構の方が圧倒的にまともに見えてくるのが不思議である。義寺の快楽主義が極まりすぎているのもあるが。そして、そんな義寺を必死に庇おうと奔走していたらしいことも含めて。


「義寺さん」

「どうしたの?」

「どうしてあなたは、こんなに神構さんに心配されているのに。ただ楽しいからというだけで、全てを棒に振れるんですか?神構さんが可哀想だと思わないんですか?」


 宙溟の、真っ直ぐな問いかけ。しかしそれでも、義寺は動揺する素振りすら見せない。


「ええ。だって私は、楽しむために大誠の傍にいるのですから」


 言外に、楽しくなければ傍にいる理もないと告げていた。宙溟の視線が、反射的に神構に向く。それに気がついた彼は、相変わらずの作り笑いのまま言葉を紡いだ。


「ある意味、これ以上ない味方でしょう?ですから同情は結構です。俺も円も、これで納得していますので」


 放って置いてくれ、と彼は笑顔で拒絶する。宙溟が、それ以上の追及を行えないように。


「……そっか」


 神構と義寺の関係が、傍から見ればアレなのは理解できるが。湖上としては、それよりも大事なことがあるのだ。


「彗嵐、質問は済んだか?というか、この場にいるヤツらはもう何か言いたいことは無いよな?」

「私が二ッ葉様を自殺させてあげる件が」

「は?却下に決まってんだろ貴重な実験体をこれ以上殺そうとすんな」

「ですけれど──」

「てめえの事情なんぞ自分らには1ミリも関係無えんだよ。第一、二ッ葉初がてめえに接触したのは自殺屋さんの調査の為だろうが」

「間違ってないわ」


 義寺が言葉を口にする前に、初が被せるように言う。それは、明確な拒絶に異ならなかった。それを聞いた義寺は、何故だか戸惑っているようだ。しかしそれすらも、湖上にとってはそこまで重要なことではない。


『麗、どうしたの?』

「い、やなんでもない」


 さりげなく後退していたら、静に不思議そうに端末を向けられた。おそらく静は単に疑問を提示しただけなのだろうが。湖上からすれば、退路を塞がんとしているのに変わりないのである。


「特に何も無えなら解散で構わねえ。つか、自分はこのイミフイカレ女を尋問しなきゃなんねえしな」

「ほ、ほら静!初!解散だってよ!」

「……そいや静くん、そこの赤いリボン付けてる奴が前言ってた新入りか?」

『そうだよ』


 叫びかけた。


「ごめん!俺用事あるから先帰るね!」

『あっちょっ!?』

「どうしたんだ?あいつ」


 静と沢谷が何か言っているが、気にしている暇は無い。湖上は小走りで部屋を後にした。……背を、向ける前。ちらりと見えた義寺が。初に目線を向けていたのは気のせいだったのだろうか。それも、焦燥感を浮かべながら。

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