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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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死をゆるされぬものたちよ-17

 ちらりと視界に入った撃鉄らしき物体。反射的に駆け出した湖上麗が、そういえば自分は扉を正規の手段で開く手段を持っていなかったと気がついた時。湖上よりも身体能力が優れている静が、すぐに追いついた。そして。


「開いて!」


 マスクを外した静の異能によって、扉がぐにゃりと歪んだ。

 今はお礼を言う時間も惜しい。静と共に、室内へ飛び込む。差し込む廊下の照明によって、湖上が異能で監視していた時よりもいくらか明るいとはいえやはり薄暗い。しかしそれでも、初と、自殺屋さんがどこにいるかはさほど苦労せずに認識することが出来た。


「れ、いちゃ──」


 多少強引に初の腕を引き、後ろに庇う。と、同時に照明がぱっと着いた。故に、否が応でも視界に入ったのだ。まるで喪服のような黒いドレスを身にまとった、フードを深く被った少女が。そして、認識後直ぐに彼女を取り押さえた静の姿が。

 静が彼女を取り押さえたその拍子に、彼女が被っていたフードが落ちた。


「あらあら。全く、手荒い殿方ですわ。マナーがなっていませんこと」

「それで、隠せるつもりだったのね。よく今まで露見しなかったわね」


 静に動きを止められたまま、穏やかに笑う義寺円に。流石の初も、呆れたように苦言を呈していた。


「露見は二の次ですもの。それよりも、私は二ッ葉様を自殺させてあげないと」

「何馬鹿なこと言ってるの。次そんなことを言ったら、君の首がこうなるからね」

「あら怖い」


 彼女が手にしていた拳銃が押し潰れる。おそらく巻き込まれて義寺自身の指も潰れているだろうに。彼女は変わらず微笑んだままである。その様が、喪服じみたドレスも相まってあまりにも不気味だった。


「放っておいてくださいまし。私は二ッ葉様に用があるのであって、湖上様とそちらの殿方にはございませんの。ああ、もしあなた方が私に用があるのでしたら、後にしてくださいませ」

「後回しにしたら、あなたは初を自殺させるでしょ」

「ええ。それが何か?彼女自身が望んだことでしょう」

「違う!初は」

「大丈夫よ、麗ちゃん」


 湖上の腕に、初が手をかける。その様は、随分と穏やかだった。


「ねえ、自殺屋さん。私、死にたいからここに来たんじゃないの。あなたに聞きたいことがあって来たの」

「存じ上げていますわ。ですが私も、あなた様を自殺させなくてはならないのです」

「そう。でも、貴方にとって私の事情が関係ないように、あなたの事情も、私にとってはどうでも良いことなの。だから、勝手に質問を言わせてもらうけど」


 丸眼鏡の奥で、瞳がすうっと細くなる。気持ち、平常時より黄色に寄ったそれは。まっすぐ、義寺を見つめている。



「私の友達を殺したのは……自殺させたのは、あなた達?」


「さあ?どうでしょう。だって長らく自殺屋さんは存続していますもの。もしかしたら、そうだったのかもしれませんわ」



 義寺は、楽しくて仕方が無いというように笑っていた。が、湖上の背後から彼女に飛び掛った初が義寺を睨みつけると、初めて笑みが消える。そして、ふらり、と力が抜けたように静へともたれかかった。


「えっちょっ!?」


 静が慌てた声を上げる。が、それだけでは終わらなかった。


「ちっ、これやったの静くんだろ!?相変わらず雑だな!」

「うっわえっぐう……流石I配属」


 静が歪めた扉から、薄桃色の髪をした少女と、青と黄色のメッシュが入った三つ編みの少女が入ってくる。そして、その後ろからは。


「円!?大丈夫ですか!?」


 神構大誠が、柄にもなく慌てて飛び込んできた。












「で、どういう事か説明してもらおうか?N-6-23」


 沢谷鏡香と名乗った彼女が、手際よく義寺を拘束した上で言い放った台詞である。静と付き合いが長い少女という辺りで、何となく嫌な予感はしていたが。やはり、とんでもない少女であったらしい。頼むから関わりたくない。にしても、外見は小柄で大人しそうだというのに、静と似たような鉄面皮で粗暴な口調で会話をする沢谷。ギャップが激しすぎやしないだろうか?


「あら、なんのことかしら?」

「すっとぼけてんじゃねえぞクソアマ。見えてねえのかてめえにとってもう状況は詰んでんだよ」


 先程初に睨まれた時とは打って変わって、ある意味いつも通りに楽しそうに受け答えする義寺。……初があの時、何をしたのかはまるで分からないが、おそらく彼女の異能が原因なのだろう。


「宙溟さん、少々お尋ねしても構いませんか?」

「え?良いけど……」

「今回の件、庇ってた側は結局どこまで処罰を受けますかね?」

「できる限りは、鏡香ちゃんと僕で緩和するけど……まあ、君はそんなことなくても大丈夫だろうけどね?」

「流石にそれは買いかぶりすぎですよ。しかし、ええ。了解しました。」


 神構がさらりと自白している。ということは、宙溟にわざとらしく問いかけたのは単に言質を取るためだろう。この場にいる面子は、十分証言者となりうると踏んだ上で。


「円」

「なんでしょう」


 義寺が神構を見つめる。暫くの間を置いて、神構が言葉を口にした。


「すみません、貴方を救えなくて」

「構いませんわ。私、とても楽しませてもらいましたもの」

「……貴方はそう言うでしょうね」

「ええ、勿論」

「今から俺は、円を犠牲にして、自分自身の命乞いをします。よろしいですか?」

「存分に、なさいませ」


 少女が微笑む。それは、湖上達が見てはいけないのではないかと思うほど、綺麗で、柔らかなものであった。

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