死をゆるされぬものたちよ-16
「……やっぱり、あなたが原因なの?」
「原因、ではないけど。私が自殺屋さんについて、何も知らないわけないでしょう」
ある程度、予測はついていたのだろう。宙溟の言葉に、秋ヶ瀬は当然だという態度である程度の肯定を返す。さて、彼女はどう出るのだろうか。
「答え合わせ、してもいい?」
「お好きにどうぞ」
「秋ヶ瀬さんでしょ。自殺屋さんの、協力者」
「そう。根拠は?」
秋ヶ瀬の立場としては気に入らない人間の部類だが、この手の能力については一定の信頼を得ているのは認めている。そうでなくては、交渉のテーブルにつく価値さえない。
「僕が聞いた自殺屋さんへの接触は、全部監獄内で借りようと思えば借りれる部屋で行われてた。でも、さすがに一人の人がそう何回も、ある程度長期的とはいえ複数の部屋を押さえるっていう、不審な状況に監獄が気が付かないわけがない」
「そうね」
「でも自殺屋さんが見つかったのは、N34の集団自殺が原因。だから、監獄にとって不審な状況ではなかったことになる。それをやるための最も簡単なのは……複数人で部屋を借りること。秋ヶ瀬さん、それぐらい簡単にできるでしょ?」
「余裕」
秋ヶ瀬鳴の名前は、きっと監獄側には悪評として響いているのだろう。監獄に歯向かうもの達を、束ねる者として。
「後、僕たちに情報が流れないようにしたりとか、自殺屋さんの仲介とかもやってたよね……それと、これは僕個人の考えだから、違ったら恥ずかしいけど。秋ヶ瀬さんは、自殺を最終手段として捉えてるんでしょ?みんなの、逃げ道を残しておくために。だから自殺屋さんに協力した。あってる?」
「ええ。間違ってない」
「えっ、そこで頷いちゃうんだ」
意外そうに彗嵐が秋ヶ瀬を見る。どうやら彼女は、自分の考えに自信が無かったらしい。いや、むしろ逆か?秋ヶ瀬が頷かないことに自信があったのか。
「えって何。私、そんなにおかしなことを言ったつもりないんだけど」
「いや……だって、秋ヶ瀬さんこの点については僕と同じだと思ってたから」
「あんたと同じとか、マジで嬉しくない」
「うぐっ。ぼ、僕てっきり秋ヶ瀬さんって、どんなに辛くても、できる限り死んで欲しくないって思ってるタイプだと思ってたから……だったら僕と同じだなって」
「さっきと言ってること矛盾してるけど」
「さっき言ったのは秋ヶ瀬さんのスタンスって多分こんな感じなんだろうなって言う推論というか……今言ったのはシンプルに秋ヶ瀬さんが直感ならこう思ってるのかなーってやつで」
無意味に深堀してくる。何がしたいのだろうか。……ああ、でも。ある意味、彼女からすれば有効打なのだろう。自分と同じ思想だと明言することにより、提案を通しやすくする、という方向性で。
「それで、本題なんだけど。自殺屋さんが誰なのか、教えて欲しいんだ。秋ヶ瀬さんだってこれ以上、犠牲者が増えて欲しいとは思っていないんでしょう?」
秋ヶ瀬の推測は正しかったようだ。秋ヶ瀬自身ですら甘っちょろいと認識している思考に、同意を示してくる。そんな少女に対し、彼女は苦い表情で口を開く。
「……否定はしない。でも、あんたに恩売ったところで私に何の利点があるの?あんたに肩入れするってことは、あの気に入らないクソ女に加担することになんのに。そっちのが普通に、心情的に嫌なんだけど」
「うぐっ……やっぱ、そうなるよねえ」
「わかってんなら、ちゃんと私にとっての利点を用意しときなさいよ」
あの監獄の威を借りて威張ってる少女のことを、秋ヶ瀬はまるで好きでは無いので。自分の行動によって奴が助かるとなれば、何もしないを普通に選択する。それこそ、何か有益な報酬でもない限り。動く気には慣れない。
「正直、僕と鏡香ちゃんの権限で及ぶ範囲だと、秋ヶ瀬さんが喜ぶ物なんて用意できないんだよ」
「あっそ。なら帰るけど」
「ちょ、ちょっと待って考える、考えるからあ!」
「そ。あんまり期待しないでおく」
わざとらしく端末を取り出して、操作する素振りを見せつつ宙溟に視線を向ける。必死に思考を回しているようだが、妙案は浮かんでこないらしい。本当に帰ってやろうか、それとも──
「助け舟、いる?」
出してやろうか?彼女からすれば泥舟にしか見えないだろうそれを。
「えっ……」
「契約してあげるよ」
秋ヶ瀬の言葉を聞いた宙溟は、表情を引き締める。当然だろう、秋ヶ瀬の口から契約なんて言葉が現れたら、警戒する者が大半なのだから。
異能【契約履行】。互いに利益があると、相互同意の上でなら。単なる口約束だろうが豪勢な契約書の下で取り決めようが、等しく契約を絶対に履行させる。と、書けばS配属に所属できそうな異能だが。そうは問屋が卸さない。
「私からの要求はこれで。ああ、ちゃんと目を通しておいてね?じゃなきゃ私の異能が発動しないから」
「……最初っからこれ狙いでしょ。内容、案の定ろくでもなさそうだし」
秋ヶ瀬が差し出した端末に表示したそれを、宙溟が眉をひそめながら目で追う。
「へえ、あんたはこれのことそう思えるんだ」
「同意がどれだけ重要なのかは、身をもって思い知ってるから」
「流石精神干渉系」
「あんな何の役にも立たない異能に、そんなこと言われても全く嬉しくない」
1回だけ、異能の使用に無条件に同意すること。対象の心理が関係してくる異能は、N配属にはあまり多く無い。故に、秋ヶ瀬が出すこの条件の意味をわかっていない者も多いのだ。同意が前提の異能など、ろくなものが無いということを。例えば、それこそ宙溟のような精神干渉系の異能とか。
「それで、どうする?契約する?」
「……本当に、自殺屋さんについて話してくれる?」
「私の異能をそんな過大評価しないで欲しいわね。話さないなんてこと、できるわけないでしょ」
そんな融通が効くなら、秋ヶ瀬はS配属にいる。
「……わかった。契約する」
「契約、成立ね」
覚悟を決めた面立ちで、宙溟が宣言する。秋ヶ瀬の瞳が、異能が発動した証として朱色に変色した。
「それで、自殺屋さんの正体だけど。名前は──」
本編に入りきらなかった補足
秋ヶ瀬の異能の条件である利益の相互同意は、片方に精神干渉系異能を使われたり、脅されたりなど、正常な判断能力を有していない状態では同意とみなされず異能を発動できない。
勿論、宙溟への契約条件である異能の使用に無条件に同意するを使って、新たに別の契約をすることは不可能。




