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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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死をゆるされぬものたちよ-14

 相馬沈と最後に会っていたのは、ルームメイトの少年だった。彼が言うには、相馬は午前中は実験で中央棟に居たらしい。その後、教室に顔を出さず、食堂にも行かずに寮の自室へと戻り、少年に血走った目でこう告げたという。


『クッソ秋ヶ瀬め、ガセネタを教えやがって……でもいいんだよ、んなことはもう。俺は、俺はやっと死ねるんだからな!自殺屋さんへの本当の接触手段を手に入れたんだ!見ろよ!これ、自殺屋さんが俺に会ってくれるって!』


 そうして、相馬は少年に封筒を見せびらかしたという。そこには確かに、相馬沈さまへと記されていた。


 その後、少年は昼食を摂りに食堂へ向かったそうだ。そして相馬が練炭自殺を敢行し、煙が感知されたが故に露呈した、ということらしい。


「……鏡香ちゃん。あんまり自信はないんだけど」

「言え」


 こういうことを言い出した時の彗嵐程、信用できるものは無いのだから。一切の躊躇無く鏡香は命令形で言葉を口にする。その勢いに気圧されたように、彼女は口を開いた。


「……午前中の中央棟の監視カメラの記録、調べられる?不審な組み合わせ……までは言わないけどさ。鏡香ちゃんの見解で、不思議だなって思うやつ。できれば具体的な監視カメラの設置位置まで。もっと言うと、音源があると嬉しいかな。そういうの、洗い出して。できるだけ早く」

「わかった」

「僕は秋ヶ瀬さんのとこに行く。本当は瑠衣ちゃんにもついてきて欲しいけど……瑠衣ちゃんは、N1にいて。また何かあったら連絡して」

「ええ」


 そんなやり取りを経て、今鏡香は中央棟の一室にいるのである。


『具体的に、不振な組み合わせの基準とかあります?』

「……いや、感覚的なものでいい。こちらである程度目を通すからな」

『了解でーす』


 室内を埋めつくさんばかりに置かれた大量の機械。その中心にすっぽりと収まった青年が、スピーカー越しに指示を仰ぐ。どうやら彼は、己のことをあくまで自殺屋さん任務における上峰の権限代行者として扱うらしい。S-3-6、餡条械。意識をインターネットに接続し、直接操作する異能者。こういう時にはめっぽう強い、使い勝手の良い人材だ。


『終わりました。そちらの端末にデータ送りますね』


 10秒程度で、データが送られてくる。流石のスピードである。鏡香が単独でこのようなことを行えば、あまり数が多くないそれを、鏡香が順々に閲覧していく。


『失礼かもですけど、この件は先日I・N配属に通達されていた任務関連ですか?』

「ああ、そうだが」

『道理で』


 何が道理なのかはよくわからないが。彼からすれば、納得のいくものだったらしい。その言葉から暫くして、ある程度の目星をつけ終わる。候補はかなり絞れた。


「これで臨時任務は終了だ。授業に戻っていい」

『わかりました』

「……ああ、その手の機械の扱いは、あいにく自分にはてんでわからん。シャットダウンやらなんやらの措置はそっちでやってくれて構わない」

『はーい』


 間延びした返答に答えるまもなく、鏡香は部屋を後にする。次はこの情報をもとに、確率は低いがS-3-4や、S-1-8を使わなくてはならない。これに関しては、彗嵐にはできない、鏡香だけの仕事なのだから。






 ■






「そんなに心配しなくても、大丈夫よ」


 そう、彼女は平時と変わらぬ朗らかな笑みを浮かべていたが。I配属の面々からすれば気が気でないだろう。


 封筒には、中央棟の通常使われていないらしい部屋と、形式上は放課後となっている時刻が指定されていた。無論、無策で彼女を自殺屋さんへと行かせたわけではない。故にこうして湖上麗は、ある程度初から距離を取って異能を使い、尾行まがいのことをしているのだから。湖上のこのただ視力を強化する異能は、この手のことにうってつけとも言える。そして肝心の、いざとなった時に初を助け出す要員だが。


『……大丈夫かな。殺しちゃわないといいんだけど』


 いつも通りの無表情で、物騒なことを端末に表示している静である。候補としては樹懸もあったのだが、樹懸の毒の強さは完全にランダムなのだ。それこそ少し触れただけで即死レベルの毒を生成してしまう恐れがある。それだったらまだ、手加減が下手と本人が認めているとはいえ、静の方がまだマシだろうと判断されたのだ。


『松太郎……大丈夫かな、1人で』

「えっそこ?」


 微妙にズレたところを心配していた。たしかに松太郎は何やら用事があるとやらで湖上達とはまた別行動でどこかに出向いているらしいが。


『だって、1人だよ?1人で……うう』


 静は松太郎のことをもしかして年齢一桁台とでも思っているのだろうか。たしかに中身はそうかもしれないが、実年齢は立派な17歳男子である。そもそもこんな場所で、静が警戒するようなタイプの万が一が起こり得るとも思えないのだが。

 そんな無駄な会話をしつつも、湖上は初を変わらず異能でじいっと見つめている。さりげなくを装って、一定の距離を保ちながら、である。無論こんなストーカーじみたことをやるのは初めてなので、上手くできているかと言われれば困るのだが。


『あっ、ついたみたいだね』


 初が目的地である部屋の前で立ち止まる。やはり少しだけ、緊張していたのか。震える手が、呼び鈴を押した。自動ドアが、スーッと開いていく。彼女が一歩を、踏み出した。それに合わせて湖上達も、異能によって視認可能なギリギリの範囲内へと距離を縮めていく。


 湖上の瞳に映る室内は、薄暗く詳細な状況を把握することは不可能だった。身体強化系の異能はありふれているらしいし、対策がなされていてもおかしくは無いだろう。部屋の中にいる人物は、初以外にわかるのは1人だけ──推定自殺屋さんだ。背格好からして、女性だろうか。初が、封筒を自殺屋さんに手渡す。それを受け取った自殺屋さんは、徐に、初の肩を掴んだ。

 おそらく何か話をしているようだが、流石にこの距離では聞こえない。しかし肩を掴まれた初の方は、明らかにそれから逃れようとしていた。そこへ──何か、暗色の物体が突きつけられる。それは、湖上の判断が間違っていないとするならば。


 あれは、拳銃だ。


『ちょ、麗ちゃん!?』

「静、行くよ」


 湖上が端的に状況を伝える言葉を口にする。息を飲む彼を他所に、湖上は初の元へと駆け出した。

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