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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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死をゆるされぬものたちよ-13

 榛文への尋問も終わり、また地道な作業へと沢谷鏡香と彗嵐は戻っていくこととなった。鏡香が1人上峰のデータベースを漁り、彗嵐はイントラネットを漁ると言った具合である。聞き込みをしようにも、一応名目上は授業中である現在はやりずらいのだ。そうして二人で鏡香が私物化している仮眠室に詰めていた時、彗嵐の端末に着信があった。


「んえ……瑠衣ちゃんからだ。鏡香ちゃん、出ていい?」

「いいぞ」


 あの女が電話をかけてくるとは珍しい。奴にそこまでして伝えたいことがあるとは到底思えないのだが。からかいならば直接やらないと意味が無いと思っているタイプであるのだし。


「もしもし、瑠衣ちゃん。どうし、────えっ」


 彗嵐の表情が一瞬で凍りつく。手にした端末を取り落としかけて、慌ててつかみ直す。一転して真剣な面立ちになった彼女は、最低限の相槌のみで通話相手の話を真剣に聞き取っていく。つまり、あのような人間でさえ緊急事態と判断し伝えなくてはならないことがあったという事なのだろう。……こんな予測は、外れて欲しいものだが。作業をする手は止めず、意識の殆どを彗嵐へと向ける。やはりその横顔は険しい。程なくして、通話は終了したようだった。


「ごめん、鏡香ちゃん。作業中断」


 端末をポケットに放り込んで、彗嵐が立ち上がる。どうやら、鏡香の当たって欲しくない予測は的中してしまったらしい。


「何が起きた」

「──たった今、N1の子が自殺屋さんの犠牲になった」











「にしても、今動くとか何考えてんだ!?どう考えても悪手だろうよ!?」

「さっきも言ってたけどさ、自殺屋さんは多分、相当悪趣味だから。きっと相馬くんは──」

「ロクでもない方法、もしくは状態で自殺屋さんを訪ねたから、自殺屋さんが応答しちまったと?」

「推測に過ぎないけど、たぶんこれが一番近い気がする」


 二人でN1へと走りながら、情報を整理する。犠牲者はN-1-17、相馬(そうま)(しん)。16歳、監獄在籍年数は2年。異能は身体強化系の【遠耳】。あまりにもありふれた、典型的な一番価値の低い異能者である。故に鏡香からすれば、比較的損耗を気にせずに様々な実験を行える実験体、というイメージだ。ある意味、自殺してもおかしくないと言えるかもしれないが。


「だーっクッソ、自分らが思ってるより数段性格がゴミだろ、そいつ」

「そうかもしれないけど、僕は会ったことないから何とも言えないかな!」


 まだ見ぬ自殺屋さんに対し、二人揃って悪態をつく。最初は自殺現場へ赴こうとしたのだが、流石にそれは鏡香より上の立場が動いている、未成年に過ぎない鏡香の権限では立ち入れない。いくら実績で上を黙らせていようと、だ。故にまだ事情を知っている者が多いであろうN1に向かうことになったのだ。

 鏡香と彗嵐がN1へ駆け込むと、喧騒に包まれていた教室内が一瞬だけ静かになる。しかし、再び配属生同士の噂話が始まった。こちらを、ちらちらと覗き込みながら。流石に鏡香と彗嵐が口をつぐんでいるとはいえ、他クラスから自殺屋さんについての任務通達は噂として聞こえてきているのだろう。それこそ、現在の鏡香達の態度こそがその噂の信ぴょう性を保証しているともいえる。


「早かったわね、鏡香ちゃんも彗嵐ちゃんも」


 彗嵐に電話をかけてきた張本人。ぽっかりと空いた眼孔を眼帯で覆い隠す気味の悪い少女。旧阨(きゅうやく)瑠衣(るい)は、人死になぞまるで無かったかのような調子で不気味に笑っていた。


「そりゃあ、犠牲者が出ちゃったらこうするよ。僕だって」

「ふふ。流石、彗嵐ちゃんね」

「うるせえお前こそ早くしろ、その調子なら知ってんだろ、色々と」

「つれないわね、鏡香ちゃんったら。わたしと鏡香ちゃんの仲じゃない」

「気持ちわり―んだよクソ女」

「わたしが情報をあなたにちゃーんと教えるって信じてくれてるんでしょ?それは信頼以外の何物でもないじゃない」

「うっざ。せめてそこは信用にしてろ」

「ま、まあまあ瑠衣ちゃんも鏡香ちゃんも落ち着いて!今言い争いしてる場合じゃないから!」


 これだけが理由で鏡香は眼帯女のことを嫌っているわけでもないが、理由の五割ぐらいを占めてはいる。きっ、と睨みつければ少女はやっと本題を口にする。


「でもわたし、彗嵐ちゃんに電話で話した程度しか知らないわよ?それこそ、他の子に聞いた方が早いと思うわ」

「は?それでてめえあんな啖呵きったのかよ」

「ねえ皆さん、彗嵐ちゃんが──わたしたちの始番号がご用事みたいよ?相馬くんについて聞きたいそうだから」

「無視すんじゃねえぞクソアマ」


 彼女の呼びかけにより、N1の面々が渋々と言った様子でこちらを見る。彗嵐が直接問いかけるのと比べれば似たような結果であろうが、鏡香が問いかけるよりははるかに心証は良いであろうことが気に入らない。例え理由があまりにも明白だろうとも。

 しかし彼彼女らは、こちらを見るだけでだんまりを決め込んでいる。相変わらず、往生際の悪いやつらである。


「別に言わなくてもいいけどさ。ところで、死体が発見されたのって、本当についさっきの出来事なんだって。それも、自室でだから。よほどのことが無い限り、死んでから時間がたってないだろうね。なにせ監視カメラがあるんだし。……ここまで自殺屋さんが杜撰だと、僕が何かをしなくても一瞬でバレてつるし上げられるよ?あんまりこういうこと言いたくないけど、身体強化系の異能者は特にヤバいと思う。下手したら、自殺よりひどい目にあうよ」


 彗嵐が、まっすぐな瞳で未だだんまりを決め込む彼彼女らを射抜く。


「そんな、ひどい目にあって死んでほしくないよ。ただでさえ僕たち、もう死にたくなるぐらいひどい目にあってるのにさ。死の間際までそんなの、嫌じゃない?」

「……情報を知ってるってことは、自殺屋さんに関与してたって自白してるようなもんじゃん。それでひどい目に合わないって、言い切れんの?」


 ぽつりと、一人が言葉を口にする。一瞬で発言者にその場全員の視線が向くが、再び彗嵐へと戻された。


「させないよ。ねえ、鏡香ちゃん?」

「……えっ」


 突然こちらに話の矛先が向けられる。鏡香が驚く間もなく、彗嵐は鏡香に語り掛ける。底の見えない、黒い瞳が鏡香を見つめている。


「殺すのなんて合理的じゃないよ。自殺屋さん本人に処罰が行くのはもうしょうがないけどさ。それ以外まで殺害同然の実験をやっちゃうのは、普通に無駄だよ」

「……それは、そう、だが」

「でしょ?これぐらいなら、多少は融通利かない?」

「………人数に、よる。一人二人なら、自分でも庇える。が、それ以上となると確約は難しい」

「そっか。じゃあ、情報を知っていたことにする人を二人だけにしようよ。誰の価値が高いかは鏡香ちゃんが選んで、代表でさ」

「本気か?」

「この手のことで僕は冗談は言えないよ、知ってるでしょ?で、返事は?」

「──やってやる」


 鏡香の言葉に、教室全体が息をのむ。そりゃあ、そうだろう。上峰の犬と揶揄されるような立ち位置である鏡香が、上に虚偽報告を行うと宣言したのだから。


「つっても、自分ひとりじゃつじつま合わせは厳しいからな?彗嵐にも、後そこの眼帯クソ女にも手伝ってもらうぞ」

「あらあら。お手柔らかに、ね?」

「勿論。言い出しっぺだし」

「だ、だからと言って、なんで協力する必要があんのよ?自殺できるっていうメリットを、自ら手放してまで」


 また一人、発言者が現れる。それに対しても、彗嵐は変わらず言葉を口にする。


「これこそ、僕のエゴだけど……月並みな言葉なのはわかってるよ?でもさ。死んじゃったら文字通り全部終わり。苦しくも無いし痛くもないけど楽しくもない。それって、悔しいでしょ」



「僕たちをこんな目にあわせたやつらは、僕たちが死のうとなんとも思わないのに」


 その言葉は、随分と平坦な音として聞こえた。恨みも無いが、特別情も無い。ただただ、確定した真実を述べるそれ。


「何人死んでも変わんないよ。ただ道具が死んだなって思われるだけ。そんなくっだらないことの為だけに、一個しか持ってないものを使わないでよ。それよりも、できる限りこの地獄みたいな場所で幸福を探す方が有意義じゃない?後さ、多分自殺屋さんて僕たちの自殺を絶対面白がってるけど。そんなやつの娯楽になるの普通に嫌だし、そんなやつこそ実験でひどい目にあっちゃえって思うのが、人間でしょ」


 静まり返った教室に、彗嵐の言葉が響く。……そうして、自ら死ぬ権利を与えられていない者たちが、やっとその重い口を開いた。

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