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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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死をゆるされぬものたちよ-11

「やめてください!」


 聞こえた悲鳴に、反射的に振り返る。N25所属の少女、真内恵(まうちめぐみ)が誰かに絡まれているようだった。大人しい彼女が、距離がある有栖にまで聞こえるほどの悲鳴をあげる事態。何があったというのか。


「お先に失礼するのですよ!」


 一応目の前にいる暗之雲に一声かけてから、有栖は急いで恵の元へと向かう。するとどうやら、彼女より年上の少女に絡まれているようだった。あからさまにお嬢様チックで、有栖が全力で嫌味を浴びせかけたくなるタイプである。


「うちの恵に何のようなのです?」

「……!」


 取り敢えず恵を自分の側に引き寄せ庇う。そして、そのままの勢いでフードの下から少女を睨みつけた。


「あらあら、酷いですわ。まるで、私が悪者のような言い草ですこと」

「自分の理解力に自信を持ってもらって構わないのですよ、それで間違ってないのですから」

「私はただ、可愛い後輩と楽しくお話していただけよ?」

「あんたにとって、悲鳴って楽しいお喋りカウントなのです?うっわあドン引きなのですよー」

「悲鳴?なんの事かしら。聞き間違いじゃない?」


 あくまで少女はシラを切るつもりらしい。嫌な笑顔を浮かべている。全く、状況が状況で無ければ処していたのだが。ついでに豊川とかいればけしかけていたのだが。生憎この場にいるのは非力もいいところな有栖のみ。つまり完全なる女と女の醜い戦いである。


「他人様の交友関係に口を出すだなんて、それがN25にとっての始番号(ナンバー)として正しい在り方なのかしら?」

「クラスメートのひとりもいじめっ子から守れずに、始番号なんて名乗れるものじゃないのですよ」

「どうやら、あなた様とは見えているものが根本的に違うようでいらっしゃる。ああやだごめんなさい、もしかして実験後で目が霞んでいるのかしら?」

「こっちだってあんたと堂々巡りに応じる時間なんぞ無いのですよ……恵、このいじめっ子に何言われたのです?」


 目の前の無意味にひらひらした女に構うだけ無駄だ、と判断した有栖は後ろにいる恵から事のあらましを聞き出そうとする。


「……私、藤音が実験から戻ってくるのをここで待ってたんだけど。そしたらなんかこの人が突然声掛けてきて。用事があるから着いてきてって言われたの。でも藤音との待ち合わせをすっぽかす訳にも行かないしさ?だから断ったの。それなのに着いてきての一点張りで。断ったのに無理やり連れてこうとするし」

「は?誘拐なのですよそれは。恵がかわいいのは周知の事実だから誘拐して自分のものにしたくなっちゃう気持ちはわからないでもないですけど。警察……は意味ないや。取り敢えず晒すのですよー」

「あ、有栖が晒すって言うとシャレにならないからとりあえずそれはやめて。そこまで大事にするものじゃないよ!」


 初手で社会的に殺す方が良いと思うのだが。先手の方が有利な物事をはこの世にごまんとあるのだし。既にポチッとするだけでイントラネット内のスレに無差別に晒し上げる構えはできていたのだが。


「てかあんたどこのどなたなのです?始番号に叩き返してやるのですよ」

「N6所属、義寺まど──」

「あっもう黙ってもらって結構なのですよ。あの物騒なのに自分から接点持ちたくないのです。やっぱあんた単独で処刑すべきなのですよ」

「名前すら満足に名乗らせてくれないの?ひどいわ!」

「あんたなんか誘拐犯で十分なのですよ。それで……はよどきやがれなのですよ」


 誘拐犯はにやにやと嫌味な笑みを浮かべている。できることなら右ストレートを叩き込んでやりたいものである。まあ有栖の右ストレートなんてたかが知れているので、やはり社会的な抹殺こそが最大火力なのだけど。


「だって、やっとお話できると思ったらお邪魔虫が現れてしまったんだもの。消化不良もいいところだわ」

「そうなのですか~エセ金持ち共は誘拐のことをお話って言うのですか~いや~下々の民も良い所な有栖ちゃんにはまるで理解しがたき言語形態なのですよ~」

「わざわざ似非をつけなくても大丈夫よ?間違っていないのだから。にしても不思議ね?下々の民は単なる談笑を誘拐って表現するのでしょう?私にはわかりかねるわ」

「止めないで欲しいのです恵、わたしあいつの事を殺してのうのうと生きるのです!」

「流石にやめて!」


 衝動的に晒しあげようとしたら、恵に手ごと押さえつけられる。彼女が事を荒立てて面倒事に巻き込まれるような事態を嫌がることは知っているが、それでもやらなきゃいけない時というものはある、有栖は常々そう思っているのだが。放っておいたらこのまま堂々巡りで終わりそうなのが面倒だ。


「庇護すべき者の意見を取り入れないのかしら?」

「……ちっ。命拾いしやがって。恵に感謝しやがれなのですよ」

「あらあら。ところで、真内様の手を離されてはいかが?」

「離すわけないのですよ」

「連れないですわ。ねえ、真内様。あなた様からも──」


 そう言って義寺が、無理矢理恵を自分の側へ引きずり出そうとする。反射的に有栖は止めようとしたのだ。そうして体を動かした拍子に、何の因果か、いつも被っているフードが外れたのだ。

 ──思考回路が、一般的な人間が持ちうる程度の、情という名の温度すら無くしていく。恵を引き止める左腕はそのままに、右腕をさりげなく義寺の死角へと回した。


「恵はこの後実験なんだけど。あんたのいう用事ってやつ、実験までに終わるの?どうにも長引きそうだし」

「……あら?身体強化系の中でも戦闘能力へ影響を及ぼさない異能者の集団実験は、本日行われていないとの話でしたけど」

「そうなんだ。でもそれじゃないよ、別にそれ以外で呼び出されないって訳でもないから。あんたが知らないとも思えないけど一応助言しておくね。実験を阻害したら、上にどれだけ酷い目に合わされるか。あんたの異能はそこまで有能性が無いだろうし」


 瞬きと口の動きしか生を感じさせない佇まいのまま、畳み掛けていく。その方が初対面の相手には有効だろうから。この手の手合いには2回目以降通用しないからこそ、思う存分脅しをかける。理解不能の恐怖を盛大に演出し、場の主導権を握る。


「……ご忠告、感謝致しますわ」

「そう。じゃあ、わたしも実験があるから。恵、行くよ」

「う、うん」


 義寺が薄く笑う。話し相手には目もくれず、有栖は右腕で端末で時刻を確認する振りをしつつ、トークアプリで打ち込んでいたメッセージを確認、送信する。恵の手を引き、ラウンジを足早に後にした。そして、義寺が有栖達を追えなくなったであろう辺りで、有栖がフードを再び被る。どっと押し寄せたプレッシャーやらなんやらに、有栖は深いため息をついた。


「あー……クッソ面倒なのですよー……ごめんなのですよ恵、実験入れちゃって」

「いや、むしろ助けて貰ってありがとうって感じだから別に……え、実験?」

「流石にあんなこと言っておいてクラスにいたらバレバレなのですよ。だからちょっと、伝手を使って名目上だけど実験をでっち上げたのです」

「え……そ、そんなことできるの!?」

「できるのですよー」


 正直あまり使いたくない手ではある。あくまで他人の良心に漬け込む形なのだから。トークアプリには、快い了承の返事が表示されているが。いつ干渉が入るかわかったものでは無い。長くは通じないだろう手だ。


「えっと、中央棟のE11研究室に行けばいいらしいのです。取り敢えず一コマ座っててって言ってるのです」

「わかった……本当にありがとう、有栖」

「どういたしましてなのですよー!まあでも、根源的解決には至れなかったのですよー……」


 逆に言えば、有栖には撃退するぐらいしかコネも何も無いのである。やはり上との繋がりを得るのは今後達成すべき課題のひとつと言えるだろう。有栖がむーんと考え込んでいる中、恵がいつも通りの平坦な調子で言葉を口にする。



「必要ないよ。だってあの人、もうすぐ死ぬから」



本編に入り切らなかった補足

有栖のフード取った時のアレはまだ二重人格ではない。

本人もヤバいと思っているが現状どうしようもない。

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