表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能監獄記  作者: 濃支あんこ
1 贈物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/551

立場

 ふと、端末の時刻表示を視界に入れる。と、それは随分と遅い時間を示していた。どうやら、大分夜更かしをしてしまったらしい。しかしブルーライトに慣れた目は冴えていて、眠れそうにない。……そうだ、ラウンジに行けばホットミルクぐらいはあるかもしれない。ならば善は急げだ、と湖上は与えられた寮の自室を抜け出し、深夜の冷たいリノリウムを歩いていった。


「あら、麗ちゃんじゃない。こんな夜更けにどうしたの?」


 誰もいないと思っていたラウンジには、先客がいた。ショートヘアの、丸眼鏡を鼻に乗せた少女である……外見上は。いつもの様にワインレッドの外套を羽織り、錠前を象ったペンダントを下げた彼女に、湖上は言葉を返した。


「……それは、(はつ)にも言えることだと思うけど」

「たまたま、夜中に目が覚めてしまったのよ。それで、何か飲んでから眠ろうかと思ったの。あなたもそんなところ?」

「まあ、そんな感じ」


 実際は単なる夜更かしだが、何となく言いづらくてにごす。そんな湖上を特に気にした様子もなく、初はコップを傾けていた。とりあえず当初の目的を果たそう、とラウンジに併設された簡易キッチンへと向かう。誰がやっているのかは知らないが牛乳やら水やら麦茶やら、一般的な飲料物はいつの間にか補充されている。故に自分で買い揃える必要がないのは楽である、と冷蔵庫から牛乳を取り出しながら思う。当然自室にも冷蔵庫はあるのだが、電子レンジは無い、つまりそういうことである。

 適当に温めたそれを抱えたままラウンジに戻れば、まだ初がゆったりとしている最中だった。手を振る仕草は、向かいに座れ、という呼びかけだろうか。変に気まずくなるよりはその方が良いか、と湖上はその誘いに乗って椅子に腰かけた。


「ここに来て暫く経つけれど、どうかしら?」

「どう、って……噂よりは、待遇がいいなって」


 誘拐だとか、監獄だとか、物騒な単語しか聞こえてこなかったのだ。湖上達I配属が、真の意味で命の危機に陥っている様子はない。度々何らかの薬を投与され、倒れている様子ではあるが。逆に言えば、その程度で済んでいるのだ。


「……そうね。まあ、私達はI配属だもの。殆どの子達がある程度、死なないような待遇を受けてるわ」

「他の配属は、違うんだっけ」

「少なくとも、私達程大切にはされていないわね。特にN配属の子達は、使い捨て同然じゃないかしら?」


 湖上は以前桐子に連れられてS・N配属向けの食堂に行った時ぐらいしか、見かけたことは無く。おおよその人数を桐子から聞いた程度であったが。たしかにI配属よりは遥かに多いだろう。それでも、大した人数はいないというのに。……やはり、そうなのか。

 考え込む素振りを見せた湖上に、初が苦笑しながら話を続けた。


「こんな暗い話をしてしまって申し訳ないけど、事実だもの。知っておくべき」

「そう、だね」

「私達は運がいいのか悪いのか」


 きっと、彼女は運が悪いと思っているのだろうな、となんとなく思う。


「I配属というまだ生き残りやすいところにいるけれど。1歩間違ってたら私達も向こう側。それは、忘れちゃいけないの……ごめんなさいね、こうやって、釘を刺しておかないと調子に乗っちゃう子もいるから。私も新人ちゃんが来る度にいつも言ってるの」

「……仕方ないよ。だって、他の配属と比べたら、Iはめちゃくちゃ少ないんだから。驕る人もいるって。それを、初は防ごうとしてるんでしょ?それだけで、充分だよ」


 そう言えば、初が少しだけ安堵したような表情を見せた。ところで、と。彼女がさっきからずっとちびちび飲んでいたコップに目をやる。どう見ても炭酸らしき泡と、どことなくアルコール臭がするそれは、湖上の予測が間違っていなければ。


「あの、初?その、今、何飲んでるの?」

「これ?お酒だけど」


 特に隠す様子もなく、初は湖上に酒の入ったコップを見せた。


「えっ!?い、いいのお酒飲んで!?」

「とっくの昔に成人してるもの。そうじゃなくても、異能のせいなのかあまり酔えないし」

「いやそうは言っても、体は」

「大丈夫よ。その程度じゃ大した害は無いから」


 ──二ッ葉(ふたつば)初、身体年齢10代半ば、実年齢100歳前後。異能の影響で老いることがない。そんな自己紹介を、彼女は初対面の時にしていたが。だからと言ってどう見ても湖上と同年代の少女が、酒を呷っているというのは絵面が大分アレである。


「というか、お酒買えるんだ……」

「ええ。それにあともう1人、成人してる子がいるし。大体いつもそれぐらいの年齢まで生き残れる子も1、2人ぐらいはいるから。お酒や煙草を買うシステムもあるの」

「そ、そっかあ……成人してる子って?」


 さりげなくこの場所の闇から話を背けつつ、湖上は会話を続ける。


「今のSuperiorityの配属総代……あ、配属総代ってわかる?」

「この前静に聞いたよ」

「あら、なら安心ね。とにかく、今はその子ぐらいね。たまにこっちの区画にも来てるから、会ったら仲良くしてあげてね」

「わかった」


 成人しているらしい時点で16歳である湖上よりは歳上であることが確定しているのだが、一応頷いておいた。仲良く「してあげる」とはならないだろうが、声をかけてはみようと思う。


「……俺はもう部屋に戻るね。おやすみなさい、初。お酒は程々にね」

「大丈夫よ、本当に酔えないから」


 くすりと微笑んで、彼女は続けた。


「おやすみなさい、麗ちゃん」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ