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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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死をゆるされぬものたちよ-6

 Normal-6とはN配属きっての地獄である。意図的に研究員達が、N配属の中でもとびきり末期的な者たちを集めているともっぱらの噂らしい。故に配属者のほぼほぼが精神を病んでおり、廃人状態の者も少なくないという。更に治療不可能の身体欠損、感覚器官の欠如を負った者の割合も、他配属とは比べ物にならないぐらい高いらしい。故にどんなにまともな始番号(ナンバー)を他クラスから転属させようとも、安定することは無かったという。……神構大誠が、現れるまでは。

 どうやってあの地獄をまとめあげたのか、彼はN6の始番号として安定しているというのだ。そしてあの立ち居振る舞い、事情をあまり知らない者であろうと、彼は警戒すべき対象になっているという。ちなみに榊曰く、配属年数も少なく異能薬物による成長阻害を受けている様子も無いため、普通に見た目通りの年齢だろうとのことだ。


「……って、感じなんだけど。桐子ちゃん、ついてきてくれる?」

「嫌っ!」


 ふん!とそっぽを向かれた。


「だって、そのミコーって人怖そうだもん!桐子ちゃん、怖い人に会いたくない!」

「そっかー……」


 正論である。誰だって怖い人には近寄りたくない。しかし湖上からすればそれは困るのである。精神干渉系の異能への対抗手段として、彼女ほど適切な人材はいないのだから。


「えっと、桐子ちゃん。一緒に来てくれたら、また一緒にシュークリーム食べについてくけど」

「……だっ、だめ!桐子ちゃん、シュークリームで釣られるほど子供じゃないもん」

「桐子ちゃんがいれば、俺すっごく助かるんだけど」

「…………だめなの!怖いのやだ!」


 一瞬揺らいだが、引き受けてくれる気は無いらしい。さて、どのように交渉すればいいだろうか。と、言うか。


「ねえ桐子ちゃん。思ったんだけどさ……別に俺が、神構くんとの情報交換会に出向く必要ないよね?松太郎とかでもいいよね?」

「いや、最初に約束してきたやつが1人も出てこないのは普通にだめっしょ」

「うぐう……樹懸がぽんこつじゃなければ」

「は?俺がなんだって?」


 樹懸が何か言っている。湖上は先程の一件で学んだのだ、樹懸をあの手の弁舌が物を言う場に出してはいけないと。おそらく巻き上げるだけ巻き上げられて、こちらには何の利益も得られない気がする。


「桐子ちゃーん……」

「だめったらだめなのー!」

『麗、流石に俺たちの誰かから一緒に行くよ?だから、無理に桐子を誘わなくても』

「桐子ちゃん以外に、有効な精神干渉異能対策ってあるの?」

『……( ᐛ )』


 静が抱えている端末ごと視線を逸らす。湖上は意地でも桐子を説得しなければと決意を新たにした。


「初、おかえりー!」

「あら、みんなもう戻ってたのね」

『どうだった?』

「N17のみんなは変わらず元気そうだったわ。あっ、N配属視点での情報もそこそこ得られたわよ」

「よーし!暗之雲は実験でいないっぽいけど、会議を始めるぞー!」


 再び教壇に立った松太郎が、意気揚々と語る。どうやらリーダーとしての職務を全うできるのと、任務を任されるということ自体が楽しくてたまらないらしい。……たとえそれが、人死にの関わる案件だとしても。


『とりあえず、俺からいい?』


 静は手にした端末を、プロジェクターに繋いだ。普段は大したものが表示されていない黒板替わりのスクリーンに、文字がパッと表示される。


『松太郎と一緒に、どれだけの犠牲者が出ているかの具体的な数を調べてきたんだ。ただ、あくまで自殺屋さんが関わっているかもしれない、程度のデータだからあんまり正確じゃないんだよね。それこそ正確なのは、N34の一件ぐらい』


 前置きとともに、グラフが表示される。

挿絵(By みてみん)

 集団自殺が発生したというN34は、流石に桁違いの人数が死んでいる。そしてN配属一地獄と噂されるN6はやはり人数が多い。


『N30番台に犠牲者が多いのは、根本的に実験での死者数が多いのもあると思う。N6も同じ理由みたい』

「でも、N30番台のやつらは自殺屋さんに会いやすいんじゃね?ここまで多いんだから」

「ああ……そこに自殺屋さんがいるってのは、有り得なくはないかもね。そうなると、N6も候補に入ってくるけど」

「ちょっとでも手がかりがあったのだから、いいじゃない」


 松太郎の発言は一理あるだろう。ただ、湖上としては静が犠牲者を調べた際の基準がパッとしない為、そこまでは信用できないとも考えられる。


「静、集団自殺だって言われてるN34の人達って、具体的にどんな感じで死んでたの?」

『……えっ、聞いちゃうの、麗。そこ聞いちゃう?』

「まずかった?」

「たしかに。どうして自殺ってわかったのか、七世さんも言ってなかったから桐子ちゃんも知らないし」

『あー……とりあえず、あげはは桐子を後ろ向かせといて。松太郎は俺が目を塞ぐから』

「ちょっ、なんでだよ!?」

「えー!桐子ちゃん、おねーちゃんより年上なのにだめなの!?」


 桐子と松太郎が文句を口にしているが、聞き入れられずにあげはによって桐子がスクリーンに背を向けさせられる。無論問答無用で松太郎も静に捕まっていた。それを確認した静は、それでも若干渋りつつスクリーンに文字を表示させた。


『その……首吊り自殺、だったらしいんだけど。何故か全員、教室の天井にぶらさがってたっぽくて……』

「……うわあ」

「キモ」

「たしかにこれは、松太郎ちゃんや桐子ちゃんには教えられないわね」

「ちょっとー!?なんのお話してるのー!?」

「俺らにはなんで教えらんねえんだ!?」


 なるほど、それはたしかに集団自殺と言い切るのもおかしくはない。かなりえぐい絵面ではあるが。そうは言っても、自殺の基準はあまり明確ではないだろう。どうやらN配属の死体は細かく調べていないらしいし。調べていたら、ここまで曖昧な物言いを静はしないだろう。睡眠薬の過剰摂取と、異能薬物とやらによる薬害くらいの区別はついていると思いたいのだが、そうでもないのかもしれない。


「やっと解放された……って、もう画面変わってるし!?」

「ひーどーいー!」

『ひどくないよ、教育的配慮だよ』

「なんだよそんなの知らねーよー!」


 松太郎と桐子が揃って抗議しているが、無論静に聞き入れられることは無い。ところで。


「その……俺が言ってたやつ、誰が着いてきてくれるの?」


 湖上にとっての本題は、どうなったのだろうか?切実なその問いに、静が答えづらそうにスクリーンに文字を表示する。


『……俺と松太郎がついてこうか?松太郎、配属総代(ファースト)だから肩書きの圧はあるし』

「俺、配属総代ってこと以外なんも無いの……?」

『そ、そんなことないよ松太郎!』

「えっと、わからなくて申し訳ないのだけど。それ私、ついてった方がいいかしら?一応、ここでは最年長だから、松太郎ちゃん程じゃないけど有名ではあると思うし……」


 静のフォローが、よほど焦っていたのか大文字でスクリーンいっぱいに表示される。正直、湖上が交渉ごとに一番強そうだと個人的に思うのはあげはなのだが。助けを求めるようにあげはに視線を向ける。すると、彼女はあからさまに表情を歪めた。


「は?嫌に決まってんでしょ面倒くさい。なんであたしがあの馬鹿のお遊びに協力しなきゃなんないの」

「馬鹿っていうなー!」

「だよねー……初、実はこういうことがあって」


 湖上がことのあらましを愚痴って桐子を道連れにしようとしていたことを伝えると、初が改めて口を開く。


「そうなの……ぜひ、お供させてもらってもいいかしら?私じゃちょっと、力不足かもしれないけど」

「全然大丈夫だよ。少なくとも、俺一人でいくよりは絶対にマシ」

「もう、麗ちゃんは自分を卑下しすぎよ」

「そうかな……ねえ、桐子ちゃんはまだ着いてきてくれないの?」


 湖上はまだ諦めていないため、桐子に話を振ってみる。が、桐子はどうしてもついて行きたくないらしい。むう、と頬をふくらませて答えた。


「ぜっっっったいに行かないから!」

「あらら。麗ちゃん、桐子ちゃんが拗ねちゃったわよ?」

「えっ……ど、どうすれば?」


 とりあえず湖上はシュークリームを桐子に献上しようと、神構に連絡するために端末を操作しながら思った。

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