死をゆるされぬものたちよ-3
「自殺屋さん?」
おままごとのようなネーミングセンスに、不穏な言葉を無理やり貼り付けたような第一印象だ。コーヒーを手にしたまま、きょとんとして湖上麗は松太郎に聞き返す。
「なんか、自殺できるようにする?やつらしいぞ!」
「あんたもわかってないんじゃん」
「ま、まあまああげはちゃん。松太郎ちゃんが頑張って話してるんだから、応援してあげないと」
監獄の運営母体から何やら通達が来ており、Irregular配属の代表者として受け取った松太郎が、本来なら教師が立つのであろう教壇で説明をしているのだが。まるで要領を得ない。
「というか普通なら自殺、できないの?」
とりあえず常識的な問題提起をしておこう。世間一般的な認識としては、自殺はしてはならないことではあるが、できないことではないはずだ。現に毎年自殺者の数が問題になっているはずである。
「あー、そっか。あんた知らないんだ。ま、そりゃそうよね。知らなくても生きてく分には問題ないし」
「……私も詳しいことは知らないんだけど、監獄で自殺しようとすると、できない、というか。行動が直前で止まっちゃう?らしくて」
「直前で、止まる?」
何とも不可思議な現象である。が、この世には異能という最大の不可思議が存在しているのだから、そこまで不思議でも無いのかもしれないが。
「えーっと……アレな話かもだけどさ。こう、例えば睡眠薬とか大量に飲んで、死のうとした時とか。どうなるの?」
「あー……どうなるの、かしら?」
『たしかそれは、絶対に致死量服薬できないんじゃなかった?服薬しようとすると体が動かなくなるって』
「お、俺が説明してるんだけど!?聞ーけーよー!」
「とにかく、何をしようとしても、最終的には体が動かなくなっちゃうんじゃなかったかしら。……ごめんなさいね、私、長らくI配属にいるからわからなくて」
なるほど。たしかに異能という言葉で思考停止できるにしても、いくらなんでも不条理にすぎないか?湖上の率直な感想としては、そのようなところである。そして、そのルールを破る自殺屋さんとやら。かなり、大変なことになっているのでは。
「大丈夫だよ、俺なんてなんも知らなかったし」
「それこそ、知らなくても無理はないわ。I配属でそんなことを考えられる子、殆どいないもの」
『ごめん、二人とも。松太郎が』
「静だって俺の事スルーしただろ!?」
『ごめんごめん』
「俺が細かい説明を聞きたかっただけだから。ごめんね?」
松太郎がごほん、とわざとらしく咳払いをして本題の続きを口にする。
「俺らに、任務が与えられたんだ。自殺屋さんを捕獲するというな!」
「珍しいわね、うちにこんなの依頼するなんて。松太郎とかめんどくさいのに」
「は!?どういうことだよあげは!?」
『ま、まあまあ二人とも。落ち着いて?』
「実際、本当にどういう風の吹き回しなのかしら。I配属全体に課されるなんて……殆ど、ないわよ?」
初の発言によって、さらに今回の任務とやらの異質さが際立つ。滅多に動かすことは無いI配属を動員するほど、上は焦っているのだろう。
「まあ、ぶっちゃけ俺もなんも知らねえしなんも聞かされて無いんだよなー」
「そうなんだ」
『うーん……何かある、のかもしれないけど。今の段階じゃわかんないや』
「ねーねー、おねーちゃん」
たまたま隣に座って、今まで一言も口を開いていなかった桐子がこちらに話しかけてきた。どうしたのだろう。
「それ、N34の子がいっぱい死んじゃったのと、関係あるかなー?」
「……へ?」
「あー、んなのあったなそういや。あそこ、半分以上集団自殺したらしいぜ」
『そんなのあったの!?』
「そうだったのか!?」
「げぇ……気持ち悪」
「はあ!?」
「そ、そうなの?」
桐子と樹懸の爆弾発言に、他の面々が異口同音に感想を漏らす。……そりゃあ、集団自殺が発生すれば、上も自殺屋さんの存在に気がつくだろうし、対処しようとするだろう。囚人同然の少年少女を使って正確に探せるか?とは思うが。というか。
「桐子ちゃんも樹懸も、なんで知ってたの?」
「むしろなんで知らねえんだ?N配属だとそれなりに有名らしいが」
「七世さんが愚痴ってたー」
「あー……」
樹懸以外誰もN配属では有名ということを知らなかったあたり、この場にいる者はみなN配属とは関わりが薄いのだろう。そして桐子は情報漏洩、たしかにそれではI配属に知る術はあまり無い。
「……N17の子たち、ひょっとしてまた仲間はずれにされてるのかしら」
「あんたに教えようとした時に、上にしっぽ掴まされかねなかったんでしょ。S以上はそれなりに監視も厳しいし」
「たしかに。なら、大丈夫かしら」
『大丈夫だと思うよ。それにほら、これから多分情報収集とかでN配属の方に行くと思うから。気になるならそこで実際に会いに行ってみなよ』
「ええ、是非そうさせてもらうわ」
どうやらこの後、I配属の面々で情報収集を行うらしい。これほど情報が少ないのだから、そのような流れも必然であろう。……このメンバーで、それができるのだろうかという湖上の杞憂は別にして。少なくとも湖上はあまり向いていないだろうし。何か策があるのだろうか。
「よし!これからI配属は自殺屋さんの捕獲任務を開始するっ!」
「お、おー?」
『とりあえずはさっきも言ったとおり、各自自由に情報収集だね٩( ‘ω’ )و』
「えっ」
「桐子ちゃん、あんまり他の配属に知り合いいないよ?」
「……投げやりすぎでしょ。暗之雲とかどーすんの」
ノープランだった。
「もしかしなくてもピアスのっぽ、俺頼みか?」
『S配属はこの任務ほぼほぼ適用外だし、そもそも自殺屋さん利用者も多分いないみたいだから。N配属と関わりあるの、樹懸と初ぐらいだし』
「私は……あまり期待しないで欲しいけれど。頑張ってみるわ」
「はあ、まあいい。おい、女装野郎。行くぞ」
「えっ俺?」
「だってお前だけなんだよ、罰印女の腰巾着に会ったことあんの」
「ちょ!?」
樹懸に肩を掴まれ、ずるずると引きずられていく。どう考えても湖上は道連れ要員でしかなかった。そんな様子を松太郎と桐子は素直にいってらっしゃーいと手を振っているし、静に至ってはd('∀'*)という顔文字を端末に表示している。どうやら湖上の味方は全くいないらしい。
『あっそうそう、便宜上捕獲って言ってるだけで、自殺屋さんが人間とは限らないからそれも念頭に置いておいてねー』
「そういう重要そうなことは先に言ってよ静!?てか樹懸本当にマジでや、力つっよ!?」
「あら、そうなの。そのことも踏まえてN17の子達に聞いてくるわね」
「おう!頼んだぜー!」
「ねえちょっと俺の意思は!?」
湖上の叫びも虚しく、湖上はずるずると樹懸に引きずられていった。




