死をゆるされぬものたちよ-1
「これより、Normal配属始番号会議を始めます」
あどけなさを残した少女の声が、会議室に響き渡る。40人程の軍服じみた服装を身につけた少年少女は、現代においてはひどくコスプレじみて見えることだろう。
「今回の議題は、『自殺屋さん』の身柄の確保についてです。これは、上からの通達です。概要説明をN-1-2、お願いします」
黒髪に青と黄色が混じったそれを、一本の三つ編みにしたボーイッシュな少女、Normal1-1宙溟彗嵐はそう言って一旦口を閉じる。バトンを渡されたのは、隣に座る小柄な少女だった。
「てめえらも知ってるだろうが、自殺屋さんとか名乗ってるクソは、貴重な被検体共を無闇矢鱈に自殺させる害悪だ。はっきり言ってどうして今まで露呈しなかったのか意味わかんねえが……んなことは関係無え。お上はそいつの身柄をご所望だ。どうせどっかのアホが匿ってんだろ?とっとと吐けば、自分も減刑に付き合ってやる」
くすんだ桃色に染めた髪をサイドテールにし、ゴシックロリータじみた指定制服を身にまとった少女、沢谷鏡香が発言する。その言葉は会議室にいる者のほぼほぼにとって、不快なものだった。
「……そう言われて吐くやついるのです?いたらそれこそ、だいぶおツムが足りてないと思うのですけど」
サイバーパンクじみた、ジャケットのフードを目深に被ったお下げの少女、N-25-1有栖美鈴奈がこの場に集う人々の大部分の所感を代弁する。そもそも、大多数にとっては自殺屋さんなどという胡乱な存在が活動していようとも関係がないのだ。むしろ、逃げ道があることを喜ばしいとさえ思っているだろう。
「……どちらに加担するって訳でもねえが、常識的に考えれば言わねえだろうなあ」
「でしょうね。私だって、言ってもなんのメリットもないことを言う気にはならない。見つかったら見つかったでシラを切るし」
「監督責任がどうとかで怒られない?それ」
「それでも、殺されはしないと思いますよ」
「だよね~」
会議室の多方面から、口々に不満の声が上がる。そもそも、上からの通達という時点で全くもって従いたくないのだから仕方ない。自らの身を買ったり誘拐した存在を、敬う者などありえないのだから。
「無論、上もそれでてめえらが自白するなんざ思ってねえ。自分がこの場に出てきたのは単なる警告だ。もしこの場でシラを切ったやつが、自殺屋さんを庇ってんなら──即刻、生還確率が絶望的な実験に叩き込んでやる。ああ、上は寛大だかんな?てめえらみたいな実験動物にさえ発見時の報酬を用意してくれてっぞ。喜べ、向こう180日の実験免除だ」
「……えっ、それで喜ぶと思ってんの?」
「むしろお上の方におツム足りてなかったのですね。哀れなのですよ」
「報酬セレクト、盛大にミスってますねー」
「でもそれでも珍しいね、ぼく達の命を罰にするだなんて」
「そんだけ必死なんじゃね?ウケるわー」
冷ややかな視線が鏡香へと向かう。実際問題、それらの報酬はNormal始番号達にとってはさして意味の無いものだ。ここに辿り着くまでにその多くが、既に自身の体をすり減らしている。多少実験が減ったところで、数日程度の延命にしかならないだろう。それよりも。
「だったらさ、ウチらをここから解放してくんないの?」
逃走を、願う者の方が圧倒的に多いのだから。
「何を世迷言を言っているんだ?マウスを逃す訳が無いだろ、もったいない」
しかしそんな希望が通るぐらいなら、この場所が監獄と呼ばれることも無かっただろう。人間を人間と認識しないその発言は、当の本人からすれば至極真面目な物であるようだった。
「相変わらず、N-1-1は上の操り人形がお上手なのですよ。もしかしてお薬の飲みすぎで、自我とか無くなっちゃったのです?」
「……僕も、流石にN-1-2の発言はちょっとどうかと思いますけど。それでも、自殺自体があってはいけないことでしょう。死んでは元も子もないのですから」
「随分と甘っちょろい考えをしているのですねぇ。死に救いを感じたことがないなんて、随分と優遇されているようで」
「優遇されている、という件については否定は出来ませんが。それでも、自殺はいけないことです」
「ふーん」
彗嵐の発言に、有栖がいささか当たりの強い発言を返す。が、この場においては自殺を否定する者など、彗嵐と鏡香ぐらいのものであろう。圧倒的に劣勢な立場に対するそれは、大した問題にはならない。
「N-1-2からの概要説明は以上です。N-25-1以外に、なにか質問はありますか?」
どうやらこのまま彗嵐は押し通すつもりらしい。業務的なその態度に、思うところが無い者の方が少ないだろうが。この場の無意味具合などわかりきったことである。それを指摘しても会議が伸びるだけだ。
「もしかしてこの通達、他配属にも行ってたりします?」
そんな状況に、1人少年が疑問を口にする。あまりにも長い長髪をひとつに結い上げた始番号最年少に対し、彗嵐がああ、と回答を口にした。
「たしか、Superiorityは外任務最優先で、情報は伝えるが率先して協力はしないってスタンスのはずです。それでIrregularは……僕たちと同じ、です」
それはつまり、Superiorityとはまた違った形とはいえ、事実上最も監獄で優遇されている存在がこの通達に従っているということであり。この議題の、異常さを露骨に表していた。
「そりゃあ……すげえな」
「マジかよ、あいつらが動くの?」
「それを先に言いなよ」
他の始番号達も、驚きと困惑を口にする。それだけIrregular配属が監獄内の揉め事に首を突っ込むことは珍しいのだ。彼らの反応は、ごく自然なものである。
「ありがとうございます、N-1-1。俺からの質問は以上です」
「わかりました。他に質問は……無いですね。それではこれで、Normal配属始番号会議を終了します」
彗嵐の変わらず平坦な声により、会議の終了が告げられた。




