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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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異能

「新入りの麗だって異能わかってんのに、なんで俺の異能はまだわかんねーんだよー!」

『まあまあ。むしろ、だからこそ松太郎(まつたろう)は生き残れてるんだと思うよ?』

「そうなのかもしんねーけどさー!」


 イケメンやら美男子やら、そんな形容詞で言い表されてもおかしくないような、碧眼の少年が駄々を捏ねている。外見だけなら湖上よりも年上だろうに、行動が幼子のそれである。桐子のように外見すらも幼いわけではないので、余計残念感が際立つ。そんな松太郎を窘める役である(しずか)は、はっきりいって見た目がわりと怖い。しかも二人とも長身の部類なのだ。

 つまり、湖上はあまり彼らに近づけていない。同じI配属、同じクラスルームなのだから。いずれ接触を持たなくてはならいのだろうし、事務連絡程度なら話せるだろうが。雑談となると少々、いや些か厳しいものがある。


 自分よりも前の席に座る彼らを横目に、一応配布されているらしい学習講座を閲覧する。クラスルームの机には、携行端末よりも大きなものが備え付けられているのだが。それに携行端末を接続し、パーソナルデータを参照することによって受講学習講座が閲覧できるようになる、という仕組みらしい。相も変わらず妙なハイテク具合だ。少なくとも、湖上のいた環境では、ここまで学校教育にITが進出してはいなかった。中々興味深く、弄り回すのに集中していて、気がつけなかったのだろう。


「なー麗」

「んぐッ?」


 すぐ側まで、松太郎が来ていた。年相応の美形が、幼子そのものの態度で迫ってくる。思わず悲鳴のような何かを上げかけてしまったが、何とか抑え込む。碧眼はしっかりと、湖上を射抜いていた。


「お前、いつ異能使えるようになったんだー?」

「えっ、あー、まあ……」


 何となく聞こえてきていた会話内容から察するに、どうやら未だに自分の異能が判明しないのが気に入らず、新入りである湖上なら発現も遅いのではないか、というものだろう。嫉妬にすらなれぬ羨み。はてさてどう言ったものかと湖上は逡巡しながらも、口を開く。


「大体、6歳ぐらいの時かな」

「……若干早いけど、めちゃくちゃ早いってわけでもないな」

「そうなんだ。まあ、俺の異能大したこと無いしそんなもんだよなあ」


 松太郎は不満げな表情を隠しもしないが、実際そうなのだ。Irregular配属である彼らに比べて、湖上のそれは貧相だ。だからこそ、自分がI配属である理由もある程度はわかるのだが。


「でも、珍しーだろ。片目しか色が変わらねえなんて」


 そう、これが件の理由だ。通常、異能を使った時は両目の色が変色するのだという。しかし湖上の場合、変色するのは右目だけだ。深い、海よりも暗い青が黒い眼を飲みつくす。裏を返せばそれだけでしかないのだが、今までこの事例が確認されたのはこの場所において、湖上ただ一人らしいのだ。


「まあそうなのかもだけど。自分じゃこれが当たり前だと思ってたから、あんまり実感わかなくて……」

「そりゃそうよね、比較対象がそんなごろごろいてたまるかっての」


 あげはから言葉が返ってきて反射的に彼女がいる方向に視線を向けるも、どうやら既に端末とのにらめっこに戻ってしまったようだった。……なんというか、形式上は授業だというのに。誰一人として真面目に勉強していないのは。こういうもの、と割り切った方が良いのか。そんな考えもよぎるが、それよりも目の前のことを片付ける方が重要だと一先ず思考を放棄した。


「……お前は珍しくて異能もわかってんのに、なんで俺はわかんないんだよ?」

「いや、そう言われても俺にはどうしようも出来ないんだけど……」


 結局、そこに行き着くらしい。しょぼん、と心なしか落ち込んでしまった彼を、どうしようかと逡巡する。いつかわかるよ、とでも言えばいいのか、それともヘタにつついたらさらに厄介なことになるのか。


「もー!ここがけんきゅーじょ、って言うならよー!俺の事何年も調べてんだろー!?なんでわかんねーんだよー!ばかなのか!?ここにいる大人みんなばかなのかー!?」


 ついにじたばたとし始めた。確かに彼の言うことは最もである、かもしれないが。そもそもここ、研究所として認識されてたんだ?ということの方が湖上にとっては関心があった。てっきり全寮制(軟禁)幼小中大エスカレーター式の学校、という認識かと考えていたのだ。この場所の通称も、『監獄』であるらしいし。実際ここ数日の暮らしは研究所というよりは、外に出られない厳しめの全寮制の学校に近い。それを幼子に等しい中身であるらしい彼が、認識していたとは。

 しかしそろそろ怒って癇癪を起こしそうな松太郎、という現実が眼前にいる。残念ながら今はそんなことを考えている暇もない。とりあえずどうにかしなくては、しかしどうすれば?自分には彼は体格的な意味でも、止められそうにない。いやだからといって──と、湖上が慌てていると、助け舟が差し出された。


 ぎゅむ、と後ろから松太郎が羽交い締めにされる。松太郎よりも大柄な体躯で、彼の動きを止める。静が抱えていた端末はほっぽり出され、机の上に置かれている。ランプを点滅させるそれは、読みあげろということだろうか。端末に視線を向け、湖上は表示された言葉を読み上げた。


「『松太郎、新入りの子に迷惑をかけちゃだめだよ。ここのこともまだ全然わかってないんだから』……で、あってる?」


 こくり、と静から頷きが返される。その気配を感じとったのか、松太郎がわかりやすく落ち込んだ。そして、素直に口を開く。


「むー、たしかに静の言う通りだな。ごめんなー麗」


 こういう所は素直で、子供らしい。いや、前聞いた実年齢においては彼の方が湖上より年上なのだが。精神年齢という意味では間違っていないだろう。

 松太郎の謝罪を聞いて、静も松太郎を解放した。にしても、いくら静が大柄とはいえ、少し小さい程度の松太郎をこうも容易く封じ込めることが出来るのか。ますます怖い。


「あっ、う、うん。たしかに、異能が分からないのは気になるもんね」

『そんなに松太郎を甘やかさなくて、大丈夫だよ?まあたしかに子供っぽく見えるかもしれないけど、これでも君より年上なんだから』

「いや、そうなんだけど。外見と中身のギャップが激しくて、余計こんがらがるというか」

「はー!?俺、子供っぽくねーし!」

『そっかー。でも、そんなんじゃここでやってけないよ?』

「それ、樹懸にも言われた」

『あー樹懸か。たしかにあの子はそういうこと言うよね』

「俺はえらいんだぞー!配属総代(ファースト)なんだぞー!」


 やはり外見や言動に騙されていてはここではやっていけないということか。そんなことを静と会話していたら、松太郎が聞きなれない言葉を口にした。ファースト?なんだろうかそれは。ファースト、一番最初。そして、偉い?何かあっただろうかと湖上が逡巡する間もなく、静が端末に文書を表示した。


『麗、職員にコードみたいなの知らされなかった?』

「コード?あー、Irregular-1-8ってやつ?」


 そういえば、被検体の管理番号らしきものをもらっていたような。


『それそれ。松太郎はそれがIrregular-1-1、つまり一番最初なんだ。それで、ここではその人を始番号(ナンバー)って呼んでてね。学級委員?みたいなものなんだけど』

「……え?」


 この学校と呼んでいいのかも怪しい、何だったら監獄とか呼ばれてる場所で。まさかそんな学校らしい仕組みがあるとは思わなかった。しかも、湖上の所属クラスの始番号とやらは松太郎だと言う。こういうのって、真面目な人がやるんじゃないの?と真っ当な疑問を浮かべ、口にしようとした矢先に。静がさらに衝撃的な発言をした。


『後、各配属のクラス・出席番号が一番若い人は配属総代って呼ばれてて。生徒会長?みたいなものなんだよ』

「え……えっ、ま、松太郎、が?」

「俺だぞー!言っただろ偉いって」


 えへん、と分かりやすく胸を張っている松太郎を他所に、湖上は思わずこんなのが?と口走りそうになる。が、流石に失礼だと思ったためなんとか踏みとどまった。しかし、そのような態度を取るものも多いのだろうか、静の紡ぐ文章は変わらず穏やかだ。


『色々理由はあるらしいけど、I配属の配属総代は松太郎ってことになってるよ』

「そ、そうなんだ……」

「は!?なんでそんなびみょーな顔されんだよ俺」


不服そうな態度を取る松太郎から、湖上は目を逸らした。

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