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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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体育-2

 画面の中では、ちょうど暗之雲が異能を使ったらしかった。一瞬で静と夜宮の姿が消え、後には暗之雲だけが残される。……精神のみではなく、肉体ごと引き込むとは。やはりあれ、相当やばい異能なのでは?悪用し放題だと思うのだが。しかしその様子がないことを考えると、湖上が知らないだけで何かしらの制約はあるのだろうが。


 カメラが捉えた次の映像は、どこかのオフィスビルのような内装だった。どうやら初期位置が静と夜宮で違うらしい。静はオフィスの一室、夜宮は展望台のようなところにいる。そしてどちらの位置でも、いくつかの人影が見て取れた。別のモニターには、暗之雲の異能内のマップが表示されている。ご丁寧に二人の現在位置まである。つくづく、規格外だ。


「うげー!静、大分不利じゃねえか」

「……そうなの?」


 湖上の問いかけに、聖棺がああ、知らないんだと口を開く。


「ほおずきの異能って、血を操れるんだけど。他人の血も自分の血に変換して操れるから」

「えっ、それってつまり」

「ほおずきからすれば今の状況って、輸血パックが自立歩行してるようなものだからねえ。弾数がほぼ無制限の拳銃を持ってる感じだよ」

「うわあ……」


 聖棺の語り方もさることながら、夜宮の異能のえげつなさに湖上はうめいた。なるほどたしかにそれは強い、監獄最強を称するのも頷ける。とくにその場に敵が複数いたりすれば、更に強力になるだろう。一対多、それも対人に強い者が監獄最強を名のことを考えるに、この場所は対兵器をあまり想定していない、もしくは重視していないのかもしれない。


 画面の中では状況が進んでいる。静は夜宮の姿をある程度探しながらも、素早く階段で上階へ、夜宮はフロアは上下せずに、その場にいる人間を手あたり次第捕まえている。……聖棺の言葉を借りるのなら、輸血パック集めだろう。人道的にはアレだが戦略としては何も間違っていない。そして彼女は集めつつ、要所要所に何かを仕込んでいるようだった。


「静ー!早く行くんだー!」

「じゃないと夜宮ちゃんがどんどん血を集めちゃうよー!」


 松太郎と桐子が、さながらスポーツ観戦のように静を応援している。……とだけ書けば辺りは良いが、現実は些か物騒である。この二人を見ていると、この場所って監獄とか呼ばれてんじゃないの?もしかして普通の学校だったりする?と思わされる。


「これ、山嶺さんが勝つのはかなり厳しそうだなあ」

「だよなー!?なんでこんな設定にしたんだよ」

「うーん、多分だけど、ほおずきがどこまで大量の血液を制御できるかを見たいんじゃないかな。もしくは、山嶺さんがどこまで不利な状況に対応できるのかとか」

「まあ、静は強いからな!これぐらいならどうにかできるだろ!」


 夜宮が実際に戦闘を行うとしても、ここまで民間人の被害を気にしなくてよいことは無いだろう。そう考えると、異能そのものの制御限界を見るという聖棺の予測はかなり正しいのではないだろうか。


「おねーちゃんは、静、勝てると思う?」

「えっ?うーん……俺、静のその辺について全然知らないからなあ。よくわかんない」

「だよねえ。桐子ちゃんにもわかんない。こーゆーの、詳しくないもん」


 桐子がその手のことについて疎くても仕方ない。松太郎は静に付き添って何回か模擬戦を見たことがあるのかもしれないが、諸々の反応を見るに、桐子もあまりこのような場には来ないらしいし。


 画面の中では、そろそろ静と夜宮が出会うだろう、というところまで距離が近づいていた。静はできる限り最短距離で夜宮に接近しているとはいえ、それでもある程度の時間が夜宮に与えられている。今までずっと、夜宮は人を捕まえ、場合によっては血を抜き取って何かを仕掛けていたのだ。何だったら、不穏な音も響いていた。静が完全に無策で飛び込んでいるとは思えないが、夜宮の方が地の利を得ている。


 そして静が夜宮のいるフロアにたどり着いたその時、どこからか赤い塊が射出された。


『潰れろ』


 異能由来の紫色に瞳を輝かせ、既にマスクを外していた静が呟く。それだけでぐしゃりとそれが歪んで、落ちた。……なるほど異能の発動キーが、発声なのか。


「仕込んでた血液を、遠隔操作で形を変えて静に向けて撃ち込んだ、ってこと?」

「多分ね。何発も飛んできてるし」


 湖上の推測通り、初弾以降はあらゆる所から固められた血液が静を撃ち抜かんと襲いかかっている。無論それらは全て、静に回避されたり、異能によって潰されたりしているが。


「静ー!頑張れー!」

「いけー静!そのまま夜宮も潰しちまえー!」


 桐子と松太郎が楽しげに応援している。……内容は、ともかく。というか、先程の会話内容からするに潰してしまうと殺してしまいアウトなのでは?いくら異能の中で行われているとはいえ、生死の定義までねじまげるのはそれ相応の代償が要求されそうなものだが。


「松太郎!夜宮ちゃんを潰しちゃうのはだめだよー!」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「殺しちゃうと、流石に暗之雲じゃ無理なんだって」

「まあ……そりゃあ、そうだろうね」

「あっ!おい、やっと夜宮と静がぶつかったぞ!」


 今まで完全に別のカメラから中継されていたふたりが、二つのカメラから別アングルで映される。しかし夜宮はまだ逃走するつもりらしい。どうやら、正面切って静と戦うのは避けたいようだ。


『加重』


 静の声と共に、その場の重力は大変なことになっているのだろうけど。あまりにも距離がありすぎると、静の異能も範囲外となるようだ。夜宮は急な加重に襲われた素振りは見せず、牽制程度に血液の弾丸を放ちながら距離を取っている。


「殺しちゃいけない、って。地味に大変なんだろうね」

「だろうなー。ま、俺らは戦えないからいまいちよくわかんねーけど」

「戦闘系の異能持ちの子は特に異次元だよねえ」


 おそらく、聖棺は戦えるタイプの異能者では無いのだろう。湖上からしても、夜宮や静の領域は未知数なのだ。なにせ湖上の異能も、到底戦闘など向かない異能であるからして。


 ひたすら逃げ続ける夜宮とそれを追いかける静、その状況に変化が起こる。展望台から離れ、薄暗い廊下へと走っていく夜宮と静の距離が徐々に縮まっているのだ。それはそうだろう、いくら距離があったとしても単純な身体能力ではどう考えても静に分があるのだろうし。そして、あと少しで静が夜宮に追いつくだろう時。唐突に静の姿が消えた。


「わあ、えげつない。流石ほおずき」


 聖棺が、声のトーンから察するに褒めているつもりなのだろう、なかなか酷い言葉を口にしている。別方向のカメラが捉えた映像では、落とし穴に落ちた静に向けて、夜宮が血液でできた槍を大量に降らしていた。そういえば、細工していた時にひどい音が響き渡っていたが、これを作っていたのだろう。なるほど古典的だが、それ故に有効だ。


『壊れろ』


 無論静もやられっぱなしという訳では無い。降ってきた槍の大半は迎撃したらしい、残骸が周囲に広がっていた。と言ってもさすがに無傷ではすまなかったのか、肩から血が流れている。その隙を見逃す夜宮では無かった。


「し、静大丈夫かな!?」

「むしろこっちのが静は強いからいけるはずだ!」

「あちゃあ~さっきの一撃で実戦なら仕留められるんだけどなあ」


 相変わらず観客席は物騒である。特に聖棺。おそらく先程の血の接触判定だけで本来ならそこから血を抜き取れることを言っているのだろう。そう考えると本当に彼女の異能はえげつない。

 落とし穴に飛び込んだ夜宮は、すぐさま静に破壊された槍を血液に戻して回収し、背後に待機させていた槍を静に向ける。


『壊れろ』


 再びその一声で槍が重力に押しつぶされた後、異能によって重く鋭い一撃となった拳を夜宮に向ける。それをすんでのところで夜宮は血液の壁を形成し、勢いを少し弱めてからかわした。そしてその一瞬に静に血液でできた刃を向ける。


『潰れろ』


 無論、それもぐしゃりと原型を無くした。そして再び向けられた静の拳を避け、彼女は静の股間めがけて蹴り上げる。めくれ上がったスカートの中から、パニエと太ももに固定された輸血パックと機械が覗く。点滴台を連れ歩いていなかったのは、今更ながらこれが理由か。

 中々に迫力のあるインファイトだ。しかしそれも長くは続かない。夜宮の動きが徐々に鈍ってきていたのだ。


「うおー!静、いけるぞー!」

「静頑張れー!」


 松太郎と桐子の応援が聞こえていたわけではないが、応えるように静が夜宮へと肉薄する。そして、静の手が夜宮の首筋に至らんとしたその時。


『っ──』


 中々性能の良いマイクだったらしい。静が息をのんだ音まで拾っていた。


『私の勝ちよ』


 突きつけられたものは、少女の首など容易く手折れるのだろう骨ばった手ではなく。壁から突き出た、真っ赤な血の刃で。刃が血を走らせたのは白く細い首筋ではなく、ピアスまみれの男のそれだった。少女は獰猛な笑みを浮かべ、紅い瞳を歪ませる。


『これにてI-1-4とS-1-4の戦闘実験を終了します。I-1-6はすみやかに当該二名を帰還させてください』


 何の感情も含まない研究員のアナウンスが、試合終了を告げた。

本編に入りきらなかった補足

監獄の技術力では、異能封じのように発動前に異能を無効化することが限界である。そのため異能内を撮影していたドローンは、暗之雲がルナサンと同じ要領で作り出したもの。異能の影響を受けずに、撮影対象を追尾することができる。暗之雲は機械のことをまるで理解していないため、異能空間内から現実世界にデータを転送する機械は研究員が事前に取り付けている。現実世界とインターネットで接続しているかも暗之雲次第で設定可能。

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