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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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15/551

集合

「珍しい。みんないる」


 休日にて。湖上が朝食を終え何となくラウンジに足を向けると、I配属の面々が全員揃っていた。


「あっ!おねーちゃんだ!」


 松太郎と一緒にテレビを見ていた桐子が、こちらにとことこと歩いてくる。何故だかわからないが湖上は、桐子からの好感度がそれなりに高いのかもしれない。こうしてわざわざ近くに来てくれるぐらいには、だが。…‥まあ、あり得ないか。

 周囲を見渡せば、初が傍らに紅茶を置き、ソファに体を埋めている。テレビを熱心に見つめる松太郎を、静が少し離れた位置で見守っているし、近くであげはが端末を無言でいじっている。樹懸はソファに寝そべり、右手に端末、左手に缶ジュースと怠惰な構えだ。そして……暗之雲が、力尽きたように倒れている。完全にフリーズしており、どう考えても意識を失っているようだった。同じ場所に集っていようとも、やっていることが各々異なるところはらしいと言えばらしい。


「おねーちゃん!松太郎がひどいんだよ!桐子ちゃんはトラムちゃんを見たいのに、松太郎、なんとかレンジャーってやつずーっと見てるの!」

「はー!?なんとかレンジャーじゃねえよトレインジャーだっつーの!」

「知らないよーそんなこと!同じような感じでしょ!それよりリモコン返してよー!桐子ちゃんはトラムちゃんを見ーる―のー!」

「そんな弱っちいやつの何がいいんだよ!」

「弱くないもん!ね、おねーちゃんだってそう思うでしょ!」

「あ、あー……そう、かもねー?」


 湖上に告げ口に来た桐子を追いかけ、松太郎が後ろ手にリモコンを持ちながら近づいてくる。そして不満だらけの桐子に掴みかかられていた。同意を求められ、曖昧に返事を返したものの。湖上はどちらも全く知らないのだ。レンジャーとは何をするのだろうか。そもそもトラムちゃんとやらは誰なのか。


「ほらー!トラムちゃんはすごいんだよー!」

「トレインジャーのが強いっつーの!」


 そのまま二人で喧嘩を始めてしまう。その様子は同い年であるというのに、年の離れた兄妹喧嘩のように見えた。中身はともかくとして。

 しかし、渦中にいる湖上からすればたまったものではない。助けを求めるように他の面々に視線を向ける。と、初が反応してくれた。


「二人とも。喧嘩はだめよ?どっちもすてきかもしれないけど、松太郎ちゃんにとってのすてきなものと、桐子ちゃんにとってのすてきなものは別なんだから」

「そうかもしれないけど……だって桐子ちゃん、トラムちゃん見たいし……」

「こいつがうるせーのがいけねえんだよ」

「こら、松太郎ちゃん。そんなこと言っちゃだめよ」


 初が仲裁を試みてくれたが、それでも二人ともむくれている。


「……桐子。どうせあんた部屋のテレビで録画してんでしょ」

「で、でもだって」

「大画面で見たいとか、そんなくっだらない理由だってならさっさと折れてくんない?じゃなきゃこの前の一件上に通報するから」

「……ふーん!桐子ちゃんは大人だから、我慢できるもーん!」

「は!?同い年の癖に!」


 あげはが加勢してくれたが、変に桐子が意地を張ってしまったせいで再び松太郎と桐子の言い争いが始まってしまった。なお湖上は未だ挟まれたままである。どうしろと。


「あのさあ。湖上、なんで実験についてくる桐子引きはがしてくれなかったの?」

「え?……あー、この前のこと?……やっぱり、まずかったの?」

「かなりやばいっての。観数さんが全部もみ消したからどうにかなってるように見えるだけよ。桐子から芋づる式にI配属全員まで被害及ぶから、とにかくあいつのやばそうな無茶はマジで止めて」

「あはは……ごめん。」


 あげはは観数に聞いたのだろうか、先日実験に桐子を伴ったことはやはりまずかったらしい。観数相手でなければ通じない手なのだろう。……樹懸について行って、暗之雲の異能で絵の中に入ったことはノーカンなのだろうか。軽率な発言で墓穴を掘るような真似はしたくないので、口にする気は全くないが。


「まああいつもそれなりには叱られたと思うから、今後はもう少し静かになるはず」

「そっか」

「おい静!はーなーせー!」


 どうやら湖上とあげはが話しているうちに、決着が着いたらしい。松太郎が静に羽交い締めにされ、テレビの前に連れ戻される。桐子が勝ち誇ったようにふふん、と胸を張っていた。


「おねーちゃん!桐子ちゃん、松太郎より大人なんだよー!」

「そっかー」

「はいはい。そんなのどうでもいいから。てかそこに転がってるの、どうすんの?」

「暗之雲、どう見ても完全に気絶してるよね」


 松太郎との喧嘩に勝利(?)した桐子がこちらにやって来る。また揉めても面倒くさいため、とりあえず曖昧な肯定を返した。湖上とは違い雑に流したあげはは、それよりもと暗之雲を指さす。湖上がラウンジにやってきてから、1ミリも暗之雲は動いていない。変わらずソファに身を預けている。


「俺かピアスのっぽが抱えてけばいいだろ」

「聞いてたんだ樹懸。てか樹懸運べるの?」


 暗之雲はそれなりに上背があるのだ。樹懸の方が暗之雲より背が高いとはいえ、少し厳しい気がする。それに。


「松太郎も運べない?」

「あいつにそんなことできるわけないでしょ。あの貧弱が」

「えっ」

「知らねーのか女装野郎、あいつめちゃくちゃ筋力無いし運動神経も死んでるぞ」

「あ、あの体格で!?」

「松太郎おっきいけど、おっきいだけだよねー。多分、I配属だと静が1番そういうの出来ると思うよ?」

「なんか俺の悪口言ってねー?」

「あんたは勝手になんとかレンジャー見てなさいよ」


 見た目だけならスポーツで活躍してそうだというのに。人は本当に見かけによらない。


『ああ、暗之雲は俺が運ぶよ』

「……それ、合成音声で話せるんだ」


 妙にゆっくりとして変なイントネーションの合成音声がラウンジに響く。十中八九静だろう、距離が離れていて端末の文字を視認できない時にだけ使うのかもしれない。


「流石にリアルタイムは無理らしいぜ。だから普段は文字だけなんだとよ」

「そうなんだ」

「ねーおねーちゃん、桐子ちゃんのお部屋で一緒にトラムちゃん見ようよー!」

「えっ……あー」


 静の端末、やっぱり大分オーバーテクノロジーじゃね?などと考える暇もなく。桐子が純粋な期待を込めてこちらを見ていた。相変わらずの、断りにくい空気で。


「あいつ、困ってっからやめなさい」

「むーでもー」

「こういう時は前々から誘うか、逃げ場をなくしてから押しかけろ」

「ちょ、樹懸!?」


 あげはが何故か助け舟を出してくれたと言うのに、何故か樹懸が湖上を追い詰めにかかっていた。やめてほしいのだが。どうしてそのようなことをするのだろうか。


「わかった!桐子ちゃん頑張るねー!」

「が、頑張んなくていいから!」


 桐子はとてもいい返事を樹懸に返す。……どうやら、近いうちに湖上は桐子から何かしらされてしまうらしい。回避出来そうにない現実に、湖上はため息をついた。

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