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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
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年齢

「……女装野郎、お前いつも日替わり定食食ってんな?」

「別にいいじゃん」


 毎回メニューを考えるのが面倒くさいのである。何か特定の食べたい物があれば食べる、程度でいいと思うのだ。というか、文句を言いつつ湖上の対面に腰掛ける樹懸が手にするメニューも、日替わり定食である。


「これ全部機械調理なのすごいよね」

「そうなのか?」

「いや、外じゃここまででは無いって。たしかにチェーン店とかは結構機械化されてるのかもしれないけど、ここまでオートでは無いんじゃない?」


 あいにく湖上はバイトをしたことがない為、詳しいことは知らない。


「もう覚えてねえよ、そんなこと」

「……そっか」


 会話をしていて度々考えている事だが、I配属の中で一番ギリギリなのは樹懸なのではないだろうか。外の記憶というものが殆ど欠落しているらしく、聞いても答えが返ってくることは少ないのだ。


「つか、ここにいる奴らの中でお前が一番外に詳しいに決まってるだろ。お前が一番最後なんだから」

「そうかな?」

「そういうもんだ」

「そうねえ。私も外にいたのはもうだいぶ昔だから、あんまり詳しくないかも」

「あっ、初」

「ババアじゃん」


 初がのんびりと会話に参加してくる。手にしたおぼんには湯気をあげるうどんが載せられていた。


「盗み聞きみたいになってしまってごめんなさい、お隣いいかしら?」

「いいよ」

「ああ」


 湖上と樹懸の了承を得た初が、二人の隣に座る。……樹懸にあんまりにもあんまりな呼び方をされているが、良いのだろうか。いくら彼が人をあだ名でしか呼べないからとしても、流石にどうかと思うのだが。


「ふふ、二人ともとっても仲良しさんねぇ」

「いやこいつが勝手に付きまとってくるだけだぞ」

「付きまとってないよ!?前も言ったけど、単に樹懸が一番話しかけやすいってだけで」

「はあ?」

「考えてみてよ樹懸、他の選択肢が外見年齢と中身年齢が一致してない人と、どう見ても怖そうな見た目の人なら……樹懸を選ばない!?」

「そいつらがこの場にいなくてよかったな」


 当たり前だ、確認した上で話している。なお桐子、あげは、初は普通に除外である。話しかけられればそれなりに応答できはするのだが、女子に話しかけるのはあまり得意ではないのだ。そして暗之雲は論外だ。


「静くんも松太郎ちゃんも、悪い子じゃないのよ?たしかにちょっと近寄りにくいかもしれないけど」

「うん、それはわかってるんだけど。でもそれはそれとして……ってやつ」

「そうか?俺としてはピアスのっぽがどんだけピアス開けてんのか、ぐらいしか気になんねえが」

「それはみんな気になってると思う」

「前松太郎ちゃんが数えていたけれど。最終的に静くん、上半身裸の状態でズボン脱ごうとして、松太郎ちゃんに止められてたわね」

「……それ、少なくとも初はその場にいたってことだよね?」

「?ええ。」

「いやそれでいいのかよババア」


 止めたの静じゃなくて松太郎なのかよ、それを見て初は平然としていたのかよ、などと湖上としては色々思うところはあったが、ひとまず内に留めておく。それよりも言うべきことがあったからだ。


「……樹懸。さすがにその呼び方は失礼じゃない?」


 しかし湖上の樹懸に対する苦言に、口を開いたのは初だった。


「別にいいわよ?だって、私が世間一般的におばあちゃんなのは事実だもの。それに、私を実年齢で扱ってくれる人が一人でもいないと、私も自分の年齢を忘れてしまうから……でもそれはそれとして、樹懸ちゃんはもう少し口の悪さを直した方が、もっとすてきよ?」

「は?んなこと言うようなババアにまともな口効くかよ」

「本当は、おばあちゃんとか、おばちゃまとか、もっとかわいく呼んで欲しいけど。樹懸ちゃん、素直じゃないから」

「……えっ、もしかして俺が初って呼ぶの嫌だった?」


 湖上としては、クラスメイト的な相手に対する友好的な態度をとったつもりだったのだ。もし、それが裏目に出ていたとしたら。焦る湖上に対し、初は笑って答えを返す。


「大丈夫よ。こうして樹懸ちゃんが私の年齢を教えてくれているうちは、私が年長者であることを自覚できるから」

「ならいいけど……」

「はっ、俺の事なんだと思ってんだよ」

「自分の年齢がわかんない人」

「それは俺も知らん」

「そうねえ。外見だけなら麗ちゃんよりも歳上に見えなくも無いけど……」

「まあこいつ、チビだしな」

「いや平均身長だから俺」


 樹懸含む他三人がそれなりに上背があるせいで、チビに見えるだけだ。特に静など筆頭である。聞いたことは無いが、確実に180以上あるだろう。そんな人達と自分を並べないで欲しい。

 しかしたしかに、樹懸の外見が湖上よりも歳上に見えなくもない、という初の意見も理解できる。振る舞いはともかく、初見ならそれなりに大人びた少年として認識されてもおかしくはないだろう。振る舞いはともかく。


 そう、湖上は必死に否定したのだが。


「麗ちゃんって、結構身長気にしてるのねぇ」

「いじりネタが増えた」

「ちょっと!?ひどくない!?」


 二人は妙な誤解をしているようだった。初は完全に、年下の子供に対する生ぬるい視線をこちらに向けているし、樹懸はニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべている。やめて欲しい。


「大丈夫よ、もっと小柄な子もここにはいるもの」

「……そりゃあ、いるでしょ」


 先日あった榊などは湖上より年下らしかったし、身長も湖上より低かった。別に彼が最低年齢というわけでも無いだろう。そう不貞腐れながら湖上が返す。


「……れ、麗ちゃんよりも年上の子よ?」

「それ、女の子?」

「ちゃんと男の子よ?まあ、あの子にもちっちゃいって言うと怒られちゃうけれど」

「そんなやついんのか?」

「S配属の子だから、樹懸ちゃんは知らないかも」

「あー、んじゃ知らねえわ。俺あのメカ野郎と罰印女と元ヤンしか知らねえし」


 樹懸が言うのは、餡条と菫色のことだろう。元ヤン、は誰かわからないが。


「仲良さそうだよね」

「あ?一方的に絡まれてるだけだっつーの」

「樹懸ちゃん、お友達が多いのはいいことよ?大事にしなさい」

「うっせーよババア。お前は俺の母親かよ」

「強いて言うならおばあちゃんかしら」


 初がそう言って、くすくすと笑った。

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