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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
3 禍福

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繋囚よ、青い鳥の定義を謳え-10

『う~ん……?』

「どうしたんだー静」

『いや、鏡香ちゃんから連絡が来てたんだけど。ちょっと腑に落ちないというか』


 今、なんだか不穏な名前が視界に入った気がする。と湖上麗の危機管理能力が警鐘を発していた。昼食を摂り始めた所でなければ、早急に逃走していただろう。


「?どうしたんだ女装野郎」

「松太郎、なんかやってた?」


 同じテーブルで食事を共にしている樹懸と桐子に、それぞれ問いかけられる。それ程までに、視線を向けていたのだろうか。


「いやあ~……なんか、面倒事の気配がして」

「他の奴らにも聞いてみれば?」

『そうだね!』


 湖上が目を泳がせながら発言した後の、これである。予想を的中させるな。少し離れた場所に座っていた筈の静と松太郎が、こちらへ向かってきていた。どうしてこういう時に限って初は不在なのだろうか。


『ねえねえ、ちょっと前から騒いでる、どうして監獄に歯向かわないのかーって絡まれるやつ、知ってる?』

「知ってるー!おねーちゃんと樹懸が絡まれたんだってー!」


 桐子よ、子供らしく素直なのは美徳だが、そんなところで発揮しないでもらいたい。


『そうなの?』

「そんなことあったか?」

「もう忘れたの?!」


 そして死ぬほど興味が無いのか、先日の一件をさっぱり忘れているらしい樹懸が首をひねっていた。流石にその反応は予想外だったせいで、間接的に静の問いを肯定してしまったでは無いか。どうしてくれる。


『樹懸が忘れてるようなことなら、やっぱり大したことないのかなー』

「う、うんそうだよきっとそう!」

「でもおねーちゃん、かなりきついこと言われたーって」


 湖上が必死に厄介事を回避しようとしているというのに、素直な少女は不思議そうに真実を告げてしまう。勿論それを聞き逃すほど、静は阿呆ではないし、松太郎は松太郎である。


「麗も樹懸も大丈夫だったのか?!」

「だ、大丈夫だったって!だってほら、樹懸とかそんな事があったのすら忘れてるんだよ?どうってことないって!」

「あー……?あれか、頭のおかしな女が話しかけてきて、女装野郎がボコボコにしたやつ」

「ボコボコにしたのか?!麗、実はめちゃくちゃ強かったり……」

「いやそういうボコボコじゃないよ口の強さ的な話だよ!俺そんなことできないから!」


 松太郎が向けてきた、期待を多分に含んだ視線に湖上が強い否定を返す。そもそも湖上の異能に戦闘能力と呼べるものが皆無であることは周知の事実であるというのに、何故そうなってしまったのか。勿論身体能力も特別優れている訳ではなく、あくまで人並みでしかないというのに。


「おねーちゃん、強くないの?」

「凍乃莉と戦ったら間違いなく負けるレベル」

「えー?」

「俺何を期待されてるの?無理だからね?凍乃莉に首ゴキッとかやられたら普通に死ぬからね?」

「それやられたら誰でも死ぬでしょ。あんたこそそういう話じゃないわよ」


 いつもの事のように、突然あげはが会話に参加してくる。いやまあ、お昼時であるので彼女が食堂にいること自体は何もおかしくないのだけど。


『ていうか、そういう話じゃなくて!I配属にも被害が出てるなら、動いた方がいいかなって』

「はあ、ピアスのっぽとガキのっぽが動きたいなら好きにしろよ。俺はやらねえ」

『えぇー?!』

「なんでだよー?!」

「あたしも反対。だってどーでもいいし。勝手にやってろって話」


 樹懸、あげはが立て続けに反対意見を出す。是非ともこのまま押し込んでもらいたい。


『いや俺も回避しようと思えば余裕で回避できるから、興味無いと言えばないんだけどね?知り合いから、そもそも何故今動き出したか謎じゃない?って来てて』

「やりたかったからやった、じゃないのー?」

『うーんそれだけではやらないと思うんだけどなー。なんというか、その子が言うには随分と突発的だからちょっと引っ掛ったらしくて』

「あー……?でも別に、どうでも良くないか?影響ないだろ」


 たしかに何故今、それも突発的に動きだしたのだという疑問はある。が、疑問に思ったところで自分達に関係のある話か?という。


「んー、松太郎、それ楽しい?」

「桐子は楽しくねえの?」

「だって桐子ちゃんは……しゅばばばーって強いやつ出して解決とかやれないじゃん。すごいことできないのに、そんなことしたってつまんなくない?」

「そりゃそれは無理だけどよー、ちょっとでもいいから似たようなことはやってみたくないかー?」


 外見年齢はともかく精神年齢は同じぐらいらしい二人の、微妙に異なる見解。とはいえ、ごっこ遊びという概念が存在する以上松太郎の方が多数派なのだろうけど。


「かあさまー!」


 会話が行き詰ってきたその時、タイミングよくそれを打破するかのように凍乃莉が現れた。空気を読んでいるのか読んでいないのか、いつも通り明るいその調子が今は頼もしく見える。


「凍乃莉、どうしたの?」

「第一食堂にいるとうるさいのがいっぱいで面倒です!だったらこっちに来ればいいと思ったです。それに、かあさまにも会えるです!」


 たしかに、こちらの区画までやって来るN配属は中々いないだろうから凍乃莉の判断は間違っていないだろう。食事を注文し、受け取って当たり前のように湖上の隣に腰かけた凍乃莉は、がつがつと昼食を食べ始める。


「なー、お前もN配属に色々言われたのかー?」

「それもあったです。あいつら何言ってるかわかんないです。かあさまが……望んでいないなら、ワテクシがなにかする必要がないです」


 湖上の忠告を忘れたらしい、余計なことを言いかけた凍乃莉にじろりと視線を向ける。流石に気がついたらしく、途中で言い分を変えた。


「麗、望まねえの?」

「関係ないしなあって」

『もー!皆そればっかだね?!』

「いやあんただって鏡香から連絡来てなかったら本心はそうでしょ、何言ってんの?」

『なんで鏡香ちゃんからってバレてるの?!あの時あげはいたっけ?!』

「あんたが頭良さそうなこと言ってる時は大体裏にあいつがいんのよ脳筋」

『そ、そんなことないし!……えっ違うよね?』


 静が助けを求めるかのように松太郎に端末を向ける。が、松太郎は視線を逸らしていた。おそらくは、言葉の響きと話の流れから静があげはに何を言われたのか珍しく察してしまったのだろう。


「なんかよくわかんないけどです、つまりあの怖そうな人がバカって話です?」

「ちょっ、い、凍乃莉?!」

「だってかあさ」

「本当のこと言っちゃだめだから!ていうか、結局それは凍乃莉の学力って言うには大分アレでしょ?!」


 たしかに凍乃莉を造ったあの少女は、それなりの進学校に属していたが。その知識を活用できる程の知能を、凍乃莉が持っているかは別問題なわけで。


『き、樹懸よりは俺多分頭いいよ!』

「底辺と争うのやめなさいよ、恥ずかしくないの?」

『(´;ω;`)』

「俺は底辺じゃねーよガキのっぽがいるだろ」


 いつになく辛辣なあげはの言葉が、ズカズカと静に突き刺さる。相変わらずの無表情ではあるが、端末に表示された顔文字は彼の感情を端的に表現していた。そして何故か全力で火種を撒いている樹懸は死にたいのだろうか。


『何言ってるの?松太郎は松太郎だよ?』

「いや知らねえよ。あいつはただのバカだろ」

「俺バカじゃねーし!桐子のがバカだろ!」

「そんなことないもん!ぜーったいに松太郎のがバカだもん!」


 言わんこっちゃない。無意味でどうしようもない争いが始まってしまった。しかも桐子まで巻き込み事故を起こしている。


「そういえばかあさまたちはなんの話してたです?」


 事の発端たる少女は、随分と呑気に湖上に話しかけてくる。相変わらず、というべきか。


「さっき凍乃莉が言ってたでしょ?N配属がSとかIとかに監獄に逆らえ―って圧かけるやつに対処するかどうか―って。凍乃莉だって、それで第一食堂じゃなくてこっち来たんでしょ?」

「あーあれです。?でもワテクシは()()()()でこっちに来たわけじゃないです」

「そうなの?」

「かあさまに会いに来たのはもちろんです。でも──」


 湖上としては、周囲の話題からの現実逃避として何気なく振った話題だったのだが。そこから凍乃莉が語った話は。今の湖上達が、必要としている情報の核心もいい所だったのだ。疑いたくなるほど、あっさりと。


「灯乃も狼紅も化野もピリピリしてるし、雅子(みやこ)は気持ち悪いです」

「そっかー……」


 ある意味平和な愚痴を吐く凍乃莉を他所に、告げられた真実を脳内で精査して湖上は思う。やっぱりこれ、自分達にはなんの影響もないのでは?と。

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