繋囚よ、青い鳥の定義を謳え-6
「はあ~ム・カ・つ・くのですよ~!なあにが正義の為なのですよ!たしかにこの場所はゴミクズなのですよな~んでSやらIやらのチキン共は靴舐めてんのか意味わかんねえのですよでも!そのしわ寄せがな~んもしてない清く正しい有栖ちゃんに来ることだけは甚だ疑問なのですよ首が飛ぶのは画面の奥でほくそ笑んでるお前らだけじゃねえのですよわたしも道連れなのですよそこらへん考えてるのですか死ね~!」
「有栖が死ねって言うとシャレにならないからやめようよ」
「は?わたしより遥かに芥島が言う方がシャレにならねえのですよ、このか弱い有栖ちゃんに向かって何を言っているのです?」
「……チャット越しでもやばかったけど、やっぱ大分末期だよね。後芥島って呼ばないで」
助けてくれ、せめて話だけでも聞いてくれ、と言われて有栖の自室に呼び出された時点で随分と状況がよろしくないらしいことは察していたが。ここまでとは思わなかった、と芥島雛緒はいかついPCをガチャガチャと叩く有栖の隣で思う。
「芥島を煽るぐらいしないとやってらんないのですよ~!」
「勝手にぼくを犠牲にしないでくれないかな。というか、えーと……なんだっけ、豊川さんだっけ。あの人は?」
「さっきまであいつとボイチャ繋いで、あめ本人はあめの部屋で作業してたのですけど、ついに実験に呼び出されやがったのですよ。お陰で戦力半減もいいとこなのですよ。芥島なんかできたりしないのです?」
「無茶言わないでよ。イントラの管理とかできるわけないでしょ」
詳細は知らないが、今監獄内のイントラネットの掲示板が大変なことになっているらしい。有栖は現在、それの対応に追われているようだった。
「はーつっかえねえのですよ!」
「勝手に呼び出しておいてその言い草?」
「ちっ、せいぜい状況に感謝するがいいですよ」
「舌打ちしてる時点で手遅れだよ」
勿論こんな軽口を交わしている間も、有栖の手は止まらない。会話が作業の邪魔にならないのだろうかと聞いたが、むしろ会話が無いと気が狂うと言われてしまった。雛緒にはよくわからない境地である。
「でも、本当にぼくで良かったの?ほら、阿ヶ野さんとか」
「芥島も酷なことを言うのですねえ!常識的に考えて、あーちゃんと一緒に修羅場とか、恋バナに精神がゴリゴリ削られて持たねえのですよ?その点芥島はそんな話絶対にしないのですよ、心の安寧が保たれるのですよ」
「そういう意味では、そうだね」
たしかに雛緒が有栖に恋愛に関する話題を振ることは無いだろう。そして同じく有栖も、だ。なにせ。
「そうなのですよ。だってわたしもあんたも、恋なんて一ミリもできないのですから。いやームカつくのですよー」
「どこが?」
「だって、あんたみたいなのが堂々と胸張って生きてたらムカつくのですよ」
「それこそ逆恨みだね」
「……」
分が悪いことなど百も承知だろうに、旗色が急速に悪くなれば無言になるのだから。有栖はまだ、可愛らしい。
「黙らないでほしいのですけど?何か喋れなのですよ、じゃないと今すぐわたしが寝落ちしてわたしの首が飛ぶのですよ」
「黙ったのはそっちだよ?まあ、いいけど。これってあれだよね?反監獄派に肩入れするよう強制されるやつ。二ッ葉さんから気を付けるように言われてたんだけど、ぼくのクラス誰も被害に遭ってないっぽくて」
「いや当たり前なのですよ何言ってるのですか」
話題を提供しろと言われ、気になっていた疑問を口にしてみただけなのだが。有栖に間を置かずに答えが返されてしまった。
「そうなの?」
「誰が好き好んでわざわざ人外魔境に突撃するのですよ、そんなことするぐらいならまだ適当なN配属の始番号に突撃するのですよ」
「そんなに嫌?人外魔境」
「常識的に考えて根底の倫理観から相容れ無さそうな連中、関わりたくないのですよ?」
Normal-17、通称「人外魔境」。とどのつまり、これといって監獄的に有用性が無かったらしい幻想生命化の異能者の掃き溜めである。まあたしかに、有栖の言い分も一理あるだろう。なにせ雛緒は幻想生命化の中では、呼霊という例外を除けばトップクラスに人間的な思考を行える方故に、同クラスの面々の言動のおかしさもわからなくはないのだ。
「まあたしかにやばいやつは大分やばいけどさ。人間じゃない別の何かなんだなって思えば大丈夫だよ」
「それ同クラスの奴に使っていい言葉なのです?後その対応はそう簡単にできることじゃないのですよ、それはあんたが結局人でなしだからできることなのです」
これでも必死に抑え込んでいるつもりなのだが、やはり幻想の生命に魂を売った者以外から見れば、結局雛緒も等しく人外なのだろう。
異能【妖精】。空想上の存在である妖精と化す異能。これを使用することにより、雛緒は幼く性別を持たない体を手に入れている。が、そんなことをしているやつは雛緒ぐらいなわけで。
「ぼく、自分はまだ人間だと思ってるんだけどな」
「どこがです?まず空飛べてその二次元配色が馴染んでる西洋風美形の時点でもう何もかもがおかしいのですよ」
「二次元配色はたまたま逃れられてるだけだからね。明日は我が身だよ」
「安心してほしいのですよ、逃げ切るつもりなのですよ」
などと大口を叩いているが、結局運である。雛緒だって、異能を使用していない自分の髪の毛が変色していないかと言われると……ということなのだから。
「ていうか、逆に聞くのですけど。幻想生命化から見た監獄とわたし達一般ピープルから見た監獄って大分違くない?その辺を考えたくないから、反監獄派の過激派一派はN17をスルーしてるんじゃないのです?」
「まあ……ぼくたちにとって、人外の最終処分場的なところはあるかも。だって外だとどう足掻いたって順応できない人たちも多いし。ここだと異能者って枠で片付けてくれるからね」
「やっぱそんな感じなんじゃない。根本的に考え方違う輩に構うぐらいなら他をあたった方がいいって考えたのですよ。ほんと、そういう方向性だけ頭働いてるなら荒らしを働く方向性に動かないでほしいのですよー」
こうして考えてみると、たしかに違うのかもしれない。幻想生命化の異能者たちは、極論脱出など望んでいないのだから。外は人間の場所であり、自分たちの居場所ではない、と。
なんて、暗いことを考えてみたところで有栖の現実は変わらないので、相変わらず彼女はキーボードを叩いているわけだが。
「あー……次から次へと、手に負えねえのですよ。つーかまず人材の数が違うのですよーこっちは一人、向こうは確実に複数犯なのですよおかしくないのです?ブラックなのですよー有栖ちゃんN配属対応なので任務っぽいなにかやってるのですよーここはね、わたしをS配属にするとかね、待遇改善の一手が欲しい所なのですよー」
「これ任務じゃないでしょ、責任者の責務でしょ」
「芥島雛緒ちゅあーん?マジレスは嫌われ者の始まりなのですよ死ね。後知らないみたいだから教えてあげるのですけど、この世は大喜利で成り立ってるのですよ」
「それ自体が大喜利じゃない?」
「つまりわたしの仮説が証明されたってことですよ、流石大天才有栖ちゃんなのですよー」
さりげなく混ぜられた暴言は、彼女の性根を考えれば仕方がないものだろうとさらりと流す。そんな無駄話の最中に、ふと気がつく。
「思ったんだけどさ」
「はあ、期待しないで聞いておくのですよ」
「1500人ぐらいいるなら、もう何人かは有栖並みに機械に詳しい人がいるんじゃないの?救援、呼べないの?」
「あ、あ~…‥」
微妙に気の抜けた、なんとも言えない音が有栖の口からこぼれる。この様子を見るに、心当たりそのものはあるらしいが、さて。
「いや、いなくはないのですよ。そもそもこのイントラネット自体わたしが独力で組んだものじゃないのですし。本当はその製作者を呼びたいところなのですけど、普通に今仕事中らしいのですよね」
「任務中ならしょうがないね」
「まあ、そうなのですよ。で、後もう一人心当たりが無い訳でもないのですけど、ぶっちゃけ風の噂で存在を聞いてるだけでね?面識ないし、連絡先も知らないのですよ」
「でも今起きてる状況って監獄側からしても不都合だと思うんだけど。それぐらいなら仲介してくれない?」
「相手、N配属じゃないのですよ~バリッバリS配属らしいのですよ~」
それはたしかに、挑んでみる気すら失せるだろう。S配属が実質的な実働部隊と呼べるこの場所に置いて、S配属は実質的な最強者だ。それを、簡単に監獄は動かそうとはしないだろう。
「後、これは完全にわたしの私情なのですけど。な~んか関わりたくないのですよね、その人。宙溟彗嵐的な空気感がしやがるのですよ」
「面識ないのになんでそんなことわかるの?」
「わたしの宙溟嫌いレーダーを舐めないでもらいたいのですよ、あいつマジできっしょいのですよ類似例も一瞬でわかるのですよ」
どういうわけだか、さして接触もないはずの宙溟を何故か有栖は嫌っている。少なくとも雛緒が初めて有栖を認識したころには既に一方的に嫌っていたので、明確なきっかけはまるでわからないが。
たしかに彼女は監獄に媚を売ってN配属総代の地位を手に入れたも同然らしいので、その辺りが関係しているのかもしれない。そんな彼女と似ていると判断されるS配属、とは。有栖のレーダーの信頼性は置いておくとして、だ。
「宙溟さんみたいな感じって、よくわかんないけど」
「は?あれですよ見てるだけで負の感情がみるみる湧き上がってくるやつなのですよ……えっもしかして湧いてこないのです?マジなのです?」
「よくわかんないかな」
「えぇー……正気なのです?」
「僕からすれば宙溟さんは、なんで配属総代やれてるのかよくわかんない人って感じでしかないかな」
率直な、大体の始番号が思っていそうな所感を口にしただけだったのだが。有栖にとってはそうでは無かったらしい。手を止めて、至極不思議そうに彼女はこう告げた。
「雛緒から見たらそんな感じになるのです?わたしからすれば、あいつ以上にN配属総代に向いてる人材はいないのですよ、だからこそ嫌いなのですよ、直視したくないのですよ」
フードの下で、昏い瞳がブルーライトに照らされていた。
祝100話到達!




