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異能監獄記  作者: 濃支あんこ
1 贈物

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校則

 これ、購買って名前のスーパーもしくはコンビニじゃない?と初めて行った時、そんな感想を抱かせるような自称購買に湖上はいた。食堂で三食食事は提供されるとはいえ、それ以外の生活必需品はこうして購買に来る必要がある。が、文字通り人間として守るべき最低限の品以外は、監獄から支給される資金でやりくりする必要がある、のだが。


 手に持った品を、無人レジに載せる。そして端末を一般的なキャッシュレス決済と同じような扱いをすれば──ピロン、と電子音が鳴って引き落とされ、レジ画面に残高が表示される。それは、そこそこ豪遊できそうな桁数の数字なのだ。

 何でも、ここにも配属ごとに差異があるらしい。I配属ははっきり言って桁数がおかしい、S配属も一般的な10代の基準からすればかなり裕福、N配属は他配属に比べれば劣るが、それでも普通に生きていく分には困らない程度には支給されているそうだ。……正直ここまで支給されても、湖上には使い道が全く思い浮かばないのだが。というかやはり、監獄という名称に反して待遇が良すぎやしないか?そう思ってしまうのは、湖上にN配属の知り合いがさしていないせいだろうか。しかし初が言うように、N配属は使い捨て同然、だと言うのなら。それはどうせ死ぬと切り捨てられた者に対する、ひと欠片の慈悲でしか無いのだろう。


「わらわのこの赤き神に愛されし頭髪は作り物などではないのじゃーーーー!そのような不浄の物を近づけるでは無い!わらわの炎に抱かれて死にたいのかーッ!?」

「染髪は校則違反だ!そして黒染めは汚くない!……そもそもお前は毎回どこでカラーリング剤を手に入れているんだ、いい加減吐け!」

「だから言っておるであろう!わらわのこの灼熱の赤髪は赤き神に愛されし証拠だとーーーー!」


 突然そのようなやり取りを交わしながら、爆走する配属生らしき少女と彼女を追う複数の研究員が飛び込んできた。たしかに少女の赤髪は、よくよく見れば根元の部分が普通に黒い。中々にインパクトのある話し方かつ登場の仕方である。しかし湖上からすれば、ここ、校則とかあったんだ、という驚きの方が強い。というか、染髪が校則違反?……どう考えても、あげはの金髪は地毛では無いように見えるのだが。大丈夫なのだろうか。


「そこのI配属!邪魔なんだけど、どっか行ってくんない?」

「んえっ?」


 そんなことを考えていたから、声をかけられるまで気がつけなかったのかもしれない。いつの間にか、もう一人別の少女が飛び込んできていた。どこか西洋的な顔立ちの、ヘッドドレスを身につけロリータ的な意匠を加えた指定制服を着用している彼女は何故か、点滴台に輸血パックを吊るして歩いていた。少女は異能を使っているらしい赤い瞳でこちらをきっと睨みつける。何故自分だけ、と思い周りを見渡せば、先程まで周りにいたはずの配属生達が一斉に逃げ出していた。


「巻き添え志望の変態なら放っておくけれど!?それとも自衛手段とかあるタイプ!?」

「な、ち、違うよ!?」

「じゃあ退きなさい邪魔だから!」


 そう言い捨てて先程の赤髪の少女を歩いて追う。どうやら、研究員側の増援らしい。


「卑しき吸血鬼め!わらわの邪魔をすると言うのか!?」

「こっちは折角勇希と二人きりだったのに呼び出されたのよ!あんたを叩き潰すぐらいいいでしょ!?」


 怨念の籠った絶叫を合図に、少女が手首をもう片手の爪で切り裂く。ぷくりと浮かんだ血液は、気がつけば赤髪の少女へと向かう。しかしそれは一瞬で炎に包まれる。どうやら先程の発言も伊達じゃないらしい。所謂パイロキネシスだろうか?防御と同時に攻勢の炎をも赤髪の少女は発生させたのだが。点滴台を連れ歩く少女を燃やし尽くさんとした炎は全て、血液の障壁によって阻まれる。見事なまでに、異能バトルというものを辞書で引いたような絵面だった。


「貴様……わらわ程度なら、その滑稽な管に繋がれたままでも御せるとでも宣いたいのか!」

「あんたの為に整えてやる戦闘準備なんて無いわよ!」

「その言葉、後悔させてや、ろッ!?」


 赤髪の少女が態勢を崩す。どうやら足元に放たれた血液が、彼女の足を拘束したようだった。そのまま腕にもまとわりつき、手枷のような形へと凝固する。


「くっ、この程度でわらわの身を捕らえたなどと」

赤神(あかがみ)。精密操作では到底私やレンには敵わないあんたに、自分の手足を燃やさずに拘束から逃れるなんて真似、できるの?」

「……ッ」


 赤神と呼ばれた体勢を崩した少女の元にごく一般的な歩行速度で近づき、彼女は無慈悲に見下ろした。そこへ、赤神を追いかけていた研究員が若干息を乱しながら現れる。


「……任務は終了だ、S-1-4。これ以降は自由行動を許可する。S-3-4はこちらへ来るように。燃やした商品をある程度は弁償してもらう」

「チッ」

「突然こんなクソみたいな要件に呼び出さないで欲しいわ、本当に」

「なっ……!わらわを、何だと……!?」

「クソガキ」

「貴様ァ!」

「S-1-4。S-3-4を不用意に興奮させるな」

「ふんっ。じゃあ私、もう行くから」


 そう言って少女はすたすたと点滴台を連れて去っていく。


「……え、あんたまだいたの。そんな強そうに見えないのに」

「こっこんなすごいの、中々見る機会無いから」


 端的に言って彼女の顔立ちは整っている。それこそ美少女と形容しても問題ないレベルだ。そんな少女と面と向かって1対1で会話をして、どもらずにいられる男子は余程のプレイボーイぐらいであろう。少なくとも湖上はプレイボーイからは普通に程遠い為無理だ。


「I配属なら、嫌でも見ることになるわよ。あんたんとこには山嶺(さんれい)さんも居るし」

「……静?」

「知らないの?あいつ馬鹿みたいに強いのよ。ま、私はあいつより強いけど」

「……そ、うなんだ」

「てかそんなことも知らないって……もしかして私の事、知らないの?」

「えっ、う、うん」


 先程聞こえた発言からして、S配属らしいのだから。I配属という関わりの少ない立ち位置にいる湖上は知り得ない。そもそもここに来てまだ日が浅いのだから、仕方ないだろう。

 それを聞いた少女は、半ば呆れた顔で口を開く。



「私は夜宮(やみや)ほおずき、監獄最強の異能者よ」



「……通りで」

「当たり前よ。あんなガキ1人片付けられなくて、最強は名乗れないわ」

「そっか」

「そうよ。ああ、もう。あんたみたいなのと話してる間に勇希が他の人と話してるかもしれないってのに……」


 そう言ってぶつくさと彼女は去っていく。……自分から声をかけたのだろう?と思ったが口を噤んだ。後が怖そうだったので。






「……って言うことがあったんだけど。そんなに夜宮さんって子、有名なの?」


 教室に戻って、湖上は桐子に話しかけられた時に、そばにいたあげはも含めて問いかけてみた。すると。


「有名だよー。知らない人なんていないんじゃないかなってぐらい!」

「ああ、あのイカレ王子に恋するお姫サマ」

「……イカレ王子?」


 何だか不穏な言葉があげはから聞こえ、聞き返す。


「顔だけはめちゃくちゃイケメンなのに、中身がイカれてるやばいやつ」

「そ、そうなんだ……あ、あげは。気になってたんだけど」

「何?」

「あげはって髪、染めてるよね?それって校則?違反じゃ……」


 自分で言っててこの体裁だけ学校を名乗っている場所で校則など笑えてくるが、事実そうらしいから何も言えない。湖上の質問に、あげははさらりと答えを返す。


「あたしの場合、その辺は免除。あとそこの包帯ぐるぐる巻きの前髪で目を隠すのも本当は校則違反だけど免除されてる」

「だって両目だと桐子ちゃんが見ただけで、異能が破壊されちゃうこともあるんだもん。しょーがないよ」


 さらりと桐子の異能のやばさが述べられたが、とりあえず置いておく。


「何か理由があれば校則違反にならない、って感じ?」

「そうだよー!なんか、お薬で髪色が変わっちゃうことがあるから、わかんないようにしちゃだめなんだってー!目を隠しちゃいけないのもおんなじ」

「ってことはカラコンもアウト?」

「アウトよ」

「それ……結構厳しくない?」

「そうは言っても実験でもあれば1発でバレるから。多分みんな諦めモードでしょ」

「?」

「しょうがないかあ」

「てか、湖上だってカラコン使ってないでしょ。その状態でそれなんだからいいでしょ」

「まあ……うん」


 自分の顔立ちがそれなりに整っている件については、ぶっちゃけ自覚しているのだ。故にこのような真似が通っているので、そういう意味でのありがたさしか感じていないのだが。


「……もー!桐子ちゃん、お化粧のこととかわかんないのー!二人で盛り上がってずるいずるいー!」


 疑問符を浮かべていた桐子が、ついに耐えきれなくなったらしく文句を述べる。


「あんたは当分いらないわよ」

「でもでもだってー。桐子ちゃんみんなより年上なのにー!」

「言われてみれば……たしかに、そうだね」

「たしかにじゃないのー!むー」

「化粧しなくても外出られんの、今のうちに満喫しときなさいよ」

「そうだよ、桐子ちゃん」

「そういうことじゃなないの!」


 湖上とあげはが二人で笑う様子に桐子がむくれてしまい、その後機嫌をとるのが大変だった。

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