ドッペルゲンガロイド
「どうしたんですか? お客さん。そんなに青い顔して……そっくりな顔をした人間が7,8人並んで街を歩いていた? ああ、この国にいらっしゃったのは初めてなんですね。それはドッペルゲンガロイドですよ。しかし、それだけの数を引き連れて歩くなんて、お客さんは相当な大富豪様に出くわしたらしい。私なんか一体買うのもいつになることやら……」
「まあ、要するに自分そっくりのアンドロイドってことですよ。随分前から、この国ではアンドロイドの権利について色々と問題視されていたんです。いくら所有者だからって、自我を持った彼らに対して暴力を振るったり危険な仕事をさせたりするのは如何なものかってね」
「そこで現れたのがドッペルゲンガロイドってわけです。流石に自分と瓜二つの相手に乱暴を働くのは誰でも躊躇うみたいでしてね。人間の心理ってのは面白いもんですよ。何でもかなりの最先端技術を使っているらしくて、人と同じように食事を摂ったり、トイレに行ったり、眠ったりするそうです。その方が人間も自然に愛着や親近感を持って接するんでしょう」
「ただまあ、人間に似せている分、仕事を教え込んだりするのにもそれなりに時間が掛かるみたいですけどね。しかもご丁寧に老化機能まであるんで、親の代から引き継いだりはできないんですよ。それだとドッペルゲンガロイドにならないから、当然といえば当然ですが」
「料金は、なんとサラリーマンの平均年収5年分です。私に言わせたら、不眠不休で文句を言わず半永久的に働いてくれる、普通のアンドロイドの方が圧倒的に便利だと思うんですが、これも時代ってやつなんでしょうね」
「見分け方? 右手首に銀色の腕輪を付けてるんですよ。あとは首の後ろにバーコードが付いているくらいですかね。怪我したら普通に赤い血が出るらしいんで、ほんとに目印なしだと区別がつかないぐらいそっくりなんです…………はい? …………ぷっ……ぷはっ……はっはっは! お客さん、運転中にあんまり笑わせないで下さいよ」
「もしあれが機械じゃなくて本人のクローンだったとしたら、とんでもない人権侵害の大問題でしょう? そんなこと倫理的に許されるわけないじゃないですか。ドッペルゲンガロイドを作成・販売を主導しているのは国ですし、数十社以上の企業が関わっているんです。そんな国家ぐるみの大規模な陰謀なんて、B級映画じゃないんですから…………あっ、でも……今の話、余所ではしないほうがいいですよ」
「実はね、発売当初、お客さんと同じようなことを主張する科学者やら有識者が結構たくさんいたんです。でもね、不思議なことにみ~んなしばらくすると抗議を取り下げ始めたんですよ。それどころか自分の考えが間違いだった、ドッペルゲンガロイドは素晴らしいって揃って称賛しだしたとか……」
「……いやいや、ただの冗談ですって。お客さん、騙されやすいにも程がありますよ。もしあなたが想像した通り、ドッペルゲンガロイドと人間が入れ替わったとしても、首の後ろを確認するだけで即座にばれちゃうじゃないですか。ほら、こんな与太話をしてる間に、目的地に着きましたよ……はい、運賃380円、確かにいただきました。それでは、ご旅行楽しんでくださいね」
「……あっ、もしもし……はい……グレーのスーツに水色のネクタイ、身長は170センチ、痩せ型、黒のキャリーバッグを持っています。はい、今ホテルに入るのを確認しました。毛髪からDNAも採取済みです……了解です。それでは1体手配しておきますね……」




