9 誤解していたイクスからサラへの恋心
なにが起きたの!?
さっき、私、イクスに告白された!?
裏庭から走って自室に戻ってきてから、私はベッドの上で頭から布団をかぶっている。
部屋には誰にも入らないように言ってあるので、戻ってすぐはベッドの上でバタバタ暴れていた。
鏡を見なくてもわかる。絶対に顔は真っ赤になっているはずだ。
なんで!? ずっとっていつから!?
イクスはサラが好きだったんじゃないの!?
サラが国外追放になった後からってこと?
あーーーーーーわかんない!!!
イクスにつかまれていた腕にはまだイクスの感触が残っているし、耳あたりを撫でられた感覚だってまだ残ってる。
それに……至近距離で見つめられたイクスの深い緑の瞳も、声も……。
「リディア様のことが好きです」
イクスの言葉も表情も鮮明に頭に残っていて、一気にまた身体中の体温が上がった。
きゃーーーーーーっ!!!
ボスボスボス!!
手元にある枕をひたすらに殴ってしまう。
さっきのことを思い出しては枕を叩く……一体何度繰り返しているのだろうか。
どうしよう!!
イクスが私に優しくて大事にしてくれてるのはわかっていたけど、エリック達と同じ過保護なだけだと思ってたわ。
だって、小説の中ではリディアはイクスに処刑されたのよ!?
まさか好きになられるなんて思わないじゃない!
あんなにカッコいい人から告白されるなんて……心臓が止まるかと思ったわ。
真っ直ぐに私の目を見て気持ちを伝えてくれたイクスは、今までで1番カッコ良かった。
思い出すだけで胸が締めつけられるほどだ。
でも……カッコいいと思うのと、好きって思うのは違う……よね?
イクスのことはもちろん大好きだし、外見も中身もめちゃくちゃ素敵だと思うけど……それって好きってことになるの?
触られたりしたらドキドキするけど……でもそれはイクスじゃなくてもドキドキするかもしれないし……。
あーーーーーーわかんなーーーーーーい!!
そういえば、私最後に恋したのいつなんだろう。
このドキドキは、好きなアイドルとかに感じる気持ちと一緒? それとも特別?
……イクスのこと、ちゃんと考えないと。
ただ、その日はどうしてもイクスに会いたくなくて部屋にこもってしまった。
「イクス卿と喧嘩でもしたのですか?」
次の日の朝、突然のメイからの質問に私はオレンジジュースを吹き出しそうになった。
慌ててジュースを飲み込み、なんでもない風を装って聞き返す。
「な、なんで?」
「リディア様、昨日は私以外をお部屋に入れなかったじゃないですか?
そんな状態になれば、いつもならリディア様の様子を逐一聞いてくるイクス卿が昨日は何も聞いてこなかったですし。
リディア様も、今イクス卿がいないことを聞いてきませんし」
「あ、そ、そういえばいないわね。どこにいるの?」
「今朝は早くから訓練場の方でずっと走ってるそうですよ」
「そう……」
イクスがいないことにはもちろん気づいていたけど、いない方が私には都合がいいし名前を出さないようにしてたのよね。
メイってば変に勘がいいわね……。
私の様子をジーーーーっと見ていたメイが、意を決した様子で聞いてきた。
「イクス卿と、なにかあったんですか?」
「!!!」
メイの顔から、彼女が何かを察しているのが伝わってくる。
もしかして、鋭いメイはイクスの気持ちを知っているのだろうか?
……相談したい。メイ! 私、自分の気持ちがわからないの!
そんな話を聞いて欲しい…………けど、言っちゃダメだ。
私だったら、告白したことを知り合いに話されるなんて嫌だもの。
イクスだってメイに知られたくないよね……?
「何もないから大丈夫よ。心配しないで」
私が笑顔でそう言うと、メイは納得がいっていないような顔で「そうですか……」と言って仕事に戻って行った。
そして、それと同時にイクスが私の部屋に入ってきた。
イクスの姿が見えた瞬間、ビクッとして身体がこわばってしまう。
心臓の動きが一気に早くなる。
ドクッドクッドクッ。
イクスは訓練の後にシャワーを浴びてきたらしく、髪が少し濡れていていつもより更にイケメン度が増していた。
その爽やかでもあり色気のある姿に、余計に心臓がドキドキ…………ってそれじゃただの変態じゃん!!
なんか違う!! 恋する乙女とは違うよね!? いいんだっけ!?
色気あるイケメンにときめくのは、変態とは違いますか!? 誰か教えて!
「おはようございます。リディア様」
「お、おおおはよよう……」
イクスは普通に挨拶してきたのに、私の方はすごく不自然になってしまった。
ああっ! イクスが顔をそらして肩を震わせてる!
絶対笑ってる!!
「……なんですかそれ……」
ひとしきり静かに笑ったあと、イクスがこちらに振り向きながら言った。
まだ少し笑いをこらえているかのような優しい顔に、ドキッとしてしまう。
イクスの態度は昨日までと何も変わっていない。
緊張してるとか気まずそうとか、恥ずかしそうとか……そんな感じもなく、どちらかというとスッキリしているように見える。
……昨日のことに何も触れないし、なかった事になってる……?
それならそれでも……。
そんなことを考えていると、イクスが私の耳元でボソッと囁いてきた。
「意識してくれてるの、嬉しいです」
意識!? 意識してるって誰が!? 私か!!!
てゆーか、そのイケボで耳元で囁くなって何度言えば……って本人には1回も言ってなかったわ!
ダメだ!! 落ち着け私!!
なんで告白されたこっちがこんなにアタフタしてるのよ。
逆でしょ普通。
「……昨日言ってた『ずっと』って、やっぱりサラがいなくなってからなの?」
自分だけ緊張してるのが悔しくて、わざと昨日の話を始めた。
イクスは意味がわからないといった顔をして、少し不機嫌そうに私に聞き返してきた。
「なんでここで彼女の名前が出るんですか?」
「あ……えーと、イクスは知らないと思うけど、気づいてたのよ。
イクスがサラのことを好きだったって」
「………………」
あ、あれ? さっきまであんなに優しい顔してたのに、なんだかすごく怒ってる気配がするわ。
イクスは私を見下ろすような状態で、問い詰めてくる。
冷めきった瞳に見つめられ、普段より何倍も声が低く、醸し出すオーラがとにかく怖い。
「誰が……誰を好きですって?」
「え……。イ、イクスが……サラを……」
「ちなみに、それはいつから思っていたんですか?」
「え……と、初めて裏庭でサラに会った時から……」
「……それ、本当に最初じゃないですか……」
イクスの氷のようだった冷たい瞳が、困惑の色に変わった。
はぁーーと大きな長いため息までついている。
「まさかそんな前からずっと勘違いされていたとは……」
イクスは呆れた顔で私を見ると、少し強めの口調で念押ししてきた。
「いいですか!? 俺は彼女の事を好きになった事など一度もありません!」
「え? で、でも好きな人の話はしてたよね?」
「だーーかーーらーー、それはリディア様のことです!」
「…………」
「……わかりました?」
え? イクスはサラの事を好きじゃなかった?
その頃から私を好きだった?
いや……たしかに、おかしいなって思ったことは何度もあったけど……。
「わかりましたか?」
イクスが再度聞いてくる。
「わ、わかった」
そう返事をすると、イクスはまた優しい笑顔でフッと笑った。
……あれ、なんでだろう。
イクスがサラのことを好きじゃなかったってわかって、なんだか……嬉しい……気がする。
ううう。
この気持ちはなんなの!?
恋なの!? 違うの!?
ああーーーー誰かに相談したいーーーー。
なんで友達が1人もいないのよリディアは!!
…………あっ! いるわ! 友達!!
ジェイクなら、私の気持ちを分析してくれそう!
イクスの名前を出さなければ、相談してもいいよね……?
うん! いい! いいって事にしよう!
明日、こっそりジェイクに会いに行こう!




