6 勘違い男サイロンを追い返すための作戦
「リディア様のお好きな色は何色ですか?」
「ピンクや薄いブルーですね」
「ぼ、僕はこここんなに美しい人を初めて見ました……あのその……」
「……ありがとうございます」
「ぜひ!!私と結婚してくれませんか?」
「まだお会いしたばかりなのでなんとも……」
「俺は学校を主席で卒業しているんですよ! そんな自分に何か聞きたいことはないですか?」
「…………特には」
エリックに呼ばれた日から数日、私は本当にたくさんの男性と会っていた。
みんな5分という短い時間の中、私に質問したり気持ちを伝えてきたり、自分について語り出したり……。
人それぞれだ。
どんな5分間にするかで、その人の性格がなんとなくわかる気がするのだから不思議だ。
私といえば、その5分間はひたすらに笑顔を貼りつけて受け答えをするだけの人形となっている。
「はあああーーー」
「リディア様ったら、ものすごいため息ですね」
メイが少し同情するような顔で言った。
私はクッションを抱き締めた状態でソファに横になっている。
「だってすっっっごく疲れたんだもの! もうやだ! 誰にも会いたくない!」
「お疲れ様です。はい。リディア様の好きな紅茶、淹れましたよ」
クスクス笑いながら、良い香りのする紅茶をスッと差し出してくれる。
やだ! 好き!! もうメイを私のお嫁さんにしたいわ。
疲れきった心が良い香りに癒されてポカポカと温まっていく。
この数日間は本当に疲れた!!
まるで毎日仕事の面接を受けているような緊張感だし。
事務的な会話ばかりで、恋なんて全くできる気がしないわ。
「でも本日はもうどなたともお約束はないとエリック様が言っていましたよ」
「はあ〜〜やっとゆっくりできるわ……」
「あっ!」
窓の外を眺めていたメイが、突然声をあげた。
メイの引きつった顔を見ると嫌な予感しかしない。
「……どうしたの?」
「サ、サイロン様がいらっしゃいました……」
げっ!! 嫌な予感的中!!!
初めて会った日から、2日と空けずにやって来るようになったサイロン。
父親からの書類を預かってきたとか、私へのプレゼントを持って来たとか、なにかしら理由をつけては私に会いに来るのだ。
「どうしましょう? 本日はもう予定がないと思って、イクス卿も訓練場の方に行ってしまいましたし……。
エリック様もカイザ様も、執務で出かけてしまっています」
「わ、私1人でサイロン様に会うのはお兄様から禁止されているわ!
どんな用事かわからないけど、追い返さなきゃ……」
「ですがサイロン様はエリック様やカイザ様以外の言う事は全く聞いてくださらないのです。
もしかしたら、勝手にリディア様の部屋にまで来てしまうかも……」
メイと2人でプチパニックになりながら部屋をバタバタ走り回る。
サイロンは昨日来たばかりだから、今日は来ないと思い込んでいたわ!
どうしよう! 部屋で2人きりになんて、絶対になりたくない!!
「……逃げるしかないわね?」
「そうですね」
私はドレスのスカートを持ち上げて部屋を飛び出した。
あーーもう! またこれ!?
サラの時にも何度か同じような事した気がするわ!!
とりあえず、表玄関からは見えない裏庭に逃げましょう!
サイロンに見つからないように、屋敷内を走り抜けてなんとか裏庭に出た。
ここはサラと初めて会った場所でもある、あまり私にとっていい思い出のない場所だ。
「はぁ……はぁ……」
疲れた……。こんなに屋敷で全力疾走する令嬢とかいるのかしら!?
とりあえずサイロンが帰るまでここに隠れてるしかないわね。
ふぅーー……と一息ついたその時。
「こんな所にいたんだね。俺の可愛い小鳥ちゃんは」
突然背後からサイロンが現れた。
ぎゃーーーーーーーーっ!!! なんで!?
何でいるの!?
サラといいサイロンといい、一体なんなの!?
「サ、サイロン様……。どうしてこの場所が……」
「え? そんなのすぐにわかるよ。
君の甘い香りは、どんなに離れていても俺にはちゃんと届いてくるんだから」
意味わかんないし!!! 犬か!!
いや! コイツと比べるなんて犬が可哀想だわ!
「今日も舞い降りた天使のようだね、リディア様。
こんな人のいない場所に誘うなんて……もしかしてやっと俺の気持ちを受け入れる気になったのかな?
遠回しなアプローチも可愛いね」
サイロンは気持ち悪いほどニヤニヤしながら一歩ずつ近づいてくる。
「誤解ですわ、サイロン様。
私はあなたを誘ってなどいないし、あなたの気持ちを受け入れる気も全くありません!」
私もサイロンと一定の距離を保って一歩ずつ後ろに下がる。
走って逃げたりしたら、きっとむこうも走って追いかけてくるはず。
本気の走りをされたら逃げられるわけないわ。
「またまた……君は照れ屋さんだね。
大丈夫だよ。俺は積極的な女の子は嫌いじゃないし、むしろ好きでもある。
だから恥ずかしがらずに本当のことを言ってくれていいんだよ?」
話を聞けや!!! 完全に拒否ってるじゃん私!!
何言っても通じないんですけどこの人!
なんなの宇宙人なの!?
「本当です! だからそれ以上私に近寄らないでください!」
「素直じゃない天使も可愛いなぁ」
ダメだコイツ!!!
サイロンに腕をつかまれそうになった時、目の前に人が割り込んできた。
「彼女に触らないでください」
「イクス!」
イクスが来たぁぁぁーーーー!!!
メイが呼びに行ってくれたのかしら!?
とにかく助かったわ!
「まーーたお前か! 関係ないだろ?
俺は彼女に誘われてここに来たんだから、そこをどけ!」
急に態度の悪くなったサイロンが、イクスに噛みつく。
ここまで堂々と私に誘われたと言えるなんて、サイロンには何を言っても伝わらないのかしら!?
ハッキリ言っても自分に都合いいように解釈されちゃうし。
どうしたら私がサイロンの事好きじゃないってわかってもらえるの!?
…………あっ!!
「リディア様があなたを誘った?」
「そうだよ! 俺と2人きりになりたかったって事だろう! だからいい加減にお前はどこかに……」
「違います!!」
口論しているイクスとサイロンの会話に割り込むと、2人が私を見た。
私は目の前にいるイクスの腕をギュッと両手で抱きしめるようにつかむと、サイロンに向かって言った。
「私はここでイクスと会う約束をしていたのです!
誰にもナイショで会うつもりだったのに……。
サイロン様、この意味がわかりますか?」
サイロンは目を大きく見開いて、腕をブルブル震えさせながら私達を指さした。
「な……ま……まさか、お前たち……」
「はい! 私とイクスはもう恋人同士なのです」
「そ……そんな……」
ものすごくショックを受けたような顔をしているサイロン。
やった! 信じてくれたみたいね!
さすがにこれだけくっついていれば信じるか。
さらにもう一押ししておこう!
「まだお兄様には伝えていないので、こうしてコソコソと会っていたのですわ。
私は本気でイクスの事が好きだから、あなたの気持ちは受け入れられません。ごめんなさい」
「そんな……」
「そうよね? ねっ? イクス」
腕に抱きついたまま、イクスの顔を見上げる。
イクスは今まで見た事がないくらいの気の抜けた顔をしていた。
私の事をポカーンとした顔で見つめている。
ああっ! そんな顔してたらバレちゃうじゃない!
話を合わせてくれなきゃ!
私はイクスをじーーっと見つめて、もう一度聞き直した。
「イクス、私達は愛し合ってるのよね?」
「……ハイ。愛シアッテイマス」
「……サイロン様。そういうワケですから」
サイロンに向かって一言そう言うと、サイロンは「ウソだ……そんな……」とブツブツ言いながら放心状態のまま帰って行った。
イクスは相変わらずの棒読み演技だったが、ショックを受けていたサイロンはその不自然さに気づかなかったらしい。
やった!! うまくいったわ!!
あの時ふと頭の中にイクスの言ってた『恋人のフリ』って言葉が浮かんだのよね!
すごい効果だわ!
「うまくいって良かったわね! イクス!」
イクスの腕から離れて見上げてみると、イクスは手で顔を隠してうつむいていた。
私に見られたくないのか、私とは反対側を向いている。
あれ……またこれだわ。
闇市場に行った時とかもやってたけど、イクスってたまーにこうやって私から顔を隠すのよね。
そんなに見られたら困る顔でもしているの?




