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24 イクス視点


「おいクソ兎。お前、リディア様の情報を皇子に渡しただろう」


「え? 何のこと? 皇子って誰?」



目の前に座っている赤い瞳をした男は、ニヤニヤ笑いながら俺の顔をジーーっと眺めている。

なんでも見透かしていそうなこの瞳が俺は苦手だ。



「とぼけるな。お前だってことはわかってるんだよ!

今後リディア様に関する仕事は引き受けるんじゃねぇぞ」


「そんなこと言われても困っちゃうよ。

僕だって情報(これ)で生活しているわけだし?」


「次の警告は俺じゃなくてカイザ様が来るぞ?」


「ごめんなさい。もう二度とリディの情報は売りません」



ヘラヘラした態度が一変して、クソ兎はキリッと真面目そうな顔でそう答えた。



コイツ……カイザ様の名前を出した途端、すんなり受け入れやがって。



「……で? それを伝えるためにわざわざ僕の店まで来たのかい?

心配しなくても、ルイード様以外には元々リディの情報は売っていないよ」



クソ兎はまだ開いていない店内のカウンター席に座り、一足早い酒を飲みながら言った。

顔色も態度も普段と何も変わらないので、おそらく酒に強いのだろう。



「……エリック様に頼まれたからな。

念の為お前に警告してこいと」


「念の為ねぇ……。意外と僕って信用されてるのかな?」



またいつものヘラヘラ顔に戻ったクソ兎は、ニヤッと笑いながら聞いてくる。

悔しいことに、その考えはあながち間違ってはいない。


俺もエリック様も、コイツが誰にでもリディア様の情報を渡すなどとは思っていない。

ただ、今回の皇子の件があったように、完全には信用できない。


コイツは『おもしろそうだから』という理由だけで、予想外の行動をする恐れもあるからな。



「完全に信用してたらわざわざ来ねぇよ」


「うわ! ひどいなぁ〜。

キミとリディがうまくいったのも、僕のナイスアシストがあったからかもしれないのに」


「ゴフッ!!」



クソ兎に出された水を飲んでいた俺は、思わず吹き出してしまいそうになった。

いや。正確には、少し出してしまった。



「あーあー。汚いなぁー。なにやってるのさ」



クソ兎が、カウンターの中から持ってきたタオルでテーブルを拭いている。

俺が手で口を拭いながらクソ兎を見ると、わざとらしいような満面の笑みを向けてきた。



「なに? そんな驚いた顔してどうしたの?

僕がキミとリディのことを知っているのが不思議かい?」


「な……なんで……知って……」


「あ。やっぱりそうなんだ。

皇子が身を引いたっぽい情報があったし、キミはいつもより幸せそうなオーラ出してるから、もしかしたらって思ってカマかけてみたのさ」


「…………」


「いやーー良かったじゃないか!

キミの()()()()()()()()()()()悲しい恋も、やっと報われ…………って痛い痛い!!

頭つかまないで!!」



クソ兎の頭を力いっぱいグググ……とつかんでやった。

本当にコイツはいつも一言多い上に、間違ったことを言ってるわけでもないから腹が立つ!


力を緩めると、クソ兎はするりと抜け出して俺と一定の距離をとった。

頭を撫でながらブツブツ文句を言ってくる。



「なんだよー。本当のことだからってそんなに怒らなくても……。

リディに言いつけてやる!」


「お前がリディア様と会うことはもう二度とない」


「ひどっ!! 手の早い男と心の狭い男は嫌われるぞ!」


「…………え?」


「え? ……まさか……もう手を出したの?」


「…………」



手の早い男は嫌われる?



クソ兎の言葉が胸に刺さる。

実は少し身に覚えがあるからだ。


やっとリディア様から好きだと言ってもらえたというのに、何故か次の日から見事に避けられている。


目が合うとそらされるし、声をかけると怯えたような反応をするし、近寄ると静かに離れて行く……。



え。これって、嫌われたのか?

好きって言われたことに舞い上がって、その場でキスしてしまったから?



……俺だってそんなすぐするつもりはなかったのに!

あの時は身体が勝手に動いて……!



「ねぇねぇ、騎士くん。大丈夫かい?」


「!」



クソ兎の声で我に返る。

気づけば俺は頭を抱えた状態でしゃがみ込んでしまっていたらしい。


椅子に座っているクソ兎が、上から心配そうに……見せかけて、半笑いの顔でこちらを見ていた。

ああ……殴りたい。



「どうしたんだい?

まさか両想いになれたことに舞い上がって、キスでもしてしまった?

しかもその後いきなり避けられるようになったとか?」


「…………」



…………コイツは本当に何者なんだ?

全部見られているのだろうか。

何か変な力でも持っているんじゃないのか?



思わず黙り込んでしまうと、クソ兎はわざとらしく女言葉を使いながら責めてきた。



「まぁっ。護衛騎士のイクスさんったら最低ね!

女心が全くわかってないんだから!

そういうのは場所や雰囲気がとっても大事なのよ!」


「場所や雰囲気……」


「しかもそんなすぐに手を出すなんて……大切にしてくれてないのね!

あなたがそんなに手の早い男だったなんて、ジェイミーはガッカリよ!」


「なんだジェイミーって。気持ち悪い」


「ひどいわ!」


「うるさい。その女言葉やめろ」



ジェイクという名前だからジェイミーと言ったのだろうが、見事に俺の両腕には鳥肌がバッチリたっている。

この男はどこまでアホなのか。


だが、『大切にしてくれてない』という言葉には正直結構なダメージを負わされてしまった。


まさか、リディア様にもそう思われてしまっているのだろうか。

俺がリディア様のことを大切に思っていないと……。



「……帰る」



俺はすぐに立ち上がり、店の出入り口へと向かった。



こうしてはいられない。

早くリディア様の誤解を解きたい。



「もう帰るのかい? 今度はリディと2人でおいでよ」


「……気が向いたらな」



それだけ言うと、俺はクソ兎の店を出て急いで屋敷に戻った。





屋敷に着くなり、1番に向かうのはリディア様の部屋だ。

毎日通っているはずなのに、昔よりも緊張するのだから不思議である。



ノックをして声をかけてから扉を開けると、メイがケーキなどのデザートを用意し終えたところだったらしい。

リディア様は淹れたてであろう紅茶に口をつけている。


突然俺が来たことに戸惑っているのか、頬を赤く染めて硬直しているようだ。


最近は俺が来るたびに理由をつけては出て行くメイが、今日も「用事が!」と言って部屋から出て行こうとしたので、小声で呼び止める。



「このまま居てくれ」


「なに言ってるんですか!

少しだけでも時間作らなきゃダメですよ」



2人きりになるのを嫌がられると思ってお願いしたのだが、あっさりと断られてしまった。

仕方なくリディア様から少し離れた位置に移動して、彼女に話しかけた。


彼女は俺から視線を外し、何故かテーブルの上のケーキを見つめ続けている。

まるでなんとしてでも俺の方は見ないようにしているみたいだ。



「クソう……ジェイクの店に行っていました」


「そう……元気だった?」


「はい。しばらく見ない間にジェイミーになってました」


「ジェ、ジェイミー……?」



聞き慣れない単語に、リディア様の薄いブルーの瞳が俺を見た。

大きく開かれたその瞳があまりにも美しくて、心臓がドクンと跳ねる。


クソ兎が自分でジェイミーと言い出したことを話すと、リディア様が「なにそれ」と言って楽しそうに笑い出した。



可愛い。もっと近くで見たい。抱きしめたい。


…………ダメだ。我慢だ。

俺はリディア様を大切に思っているのだから。



グッと拳に力を入れて耐える。

一通り笑ったあと、リディア様はイチゴがのったケーキを口に運んだ。


パァッと輝いた顔から、それがとても美味しかったのだろうことがわかる。



あんなに瞳をキラキラさせて……可愛いな。抱きしめたい。

…………ダメだ。我慢だ。



「イクスも食べてみて」



リディア様が一口分のケーキをフォークに取り、俺に向かって差し出してくる。

言われるがままそれをパクッと食べると、甘い味が口の中にひろがっていった。



「ね? 美味しいでしょ?」



美味しいケーキを食べているからだろうか。

今日は俺を避けようとはせずに、普通に接してくれている。


普通……というよりも幸せそうな顔で。



なんだこれ可愛すぎるだろ。今すぐ抱きしめたい。

抱きしめてそれから…………ってダメだって!!!


こらえろ俺!!!



「…………っ。お、おいしい……です……」



拳を握りしめすぎてプルプル震えてしまっている。

今までもこんなことを考えたことはあったが、ここまで我慢を強いられたことはなかった。


一度抱きしめてしまったから、その感触を覚えているから、前よりも我慢するのが苦痛になってしまっている。



ダメだ。キツい。

メイ……早く戻ってきてくれ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらずラブラブですねぇ(ニヤニヤ) J、お前は何者なんだ!?私のことも占って(?)ください!
[一言] ルイード皇子が可哀そうだから、イクス編のイクスとリディアは「イクスの夢の中の話」としてわたしの脳内では処理してしまいます(イクスごめんなさい)。 二人のことは可愛くて好きなんですよ~。 …
[一言] イクスとジェイクのコンビ好きだわ~(*´ω`*) ジェイミーになっても違和感なさそうw イクスの葛藤の無限ループが!! メイさん早く助けてあげてw
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