22 寝たフリさせてください
「リディア様、大丈夫ですか……?」
「……あれ? メイ? 私……」
メイの声で目を覚ますと、私は自分がベッドで寝ていることに気づいた。
部屋は暗く、ベッド脇や入り口付近にある小さい照明だけがほのかについている。
窓の外も暗いことから、今は夜なのだろう。
なぜか身体が重く、思うように起き上がることができない。
暑いような寒いような、変な感覚だ。
「突然高熱を出して倒れてしまったのですよ。
覚えていませんか?」
「高熱……」
そういえば、自分の部屋でルイード皇子が帰ったのを確認したあと、なんだかひどい目眩がしたような……。
もしかして、そのまま倒れちゃったの?
「エリック様もカイザ様もとても心配していましたよ。
つい先程まで付き添われていたのですが、お食事を召し上がるようにとアース様に無理矢理連れて行かれたところです」
「そ、そうなの……」
「……イクス卿も心配していました。
目が覚めたら呼ぶようにと……」
イクスの名前を聞いて、心臓がドクンと大きく反応してしまう。
熱が出ていて寂しいからなのか、色々と心が疲れてしまっているからなのか、無性に会いたい気持ちが溢れてくる。
でも……。
「…………今日は目が覚めなかったという事にしておいて」
「……わかりました。
え……と、起こしたのは、お薬を飲んで欲しかったからなんです。
起き上がれますか?」
メイに支えてもらってなんとか上半身を起き上がらせると、温かい飲み物を渡された。
どうやら薬が溶かしてあるらしく、異様な香りが漂ってくる。
うっ……。やっぱりこの世界に錠剤はないわよね。
覚悟して飲んだものの、想像以上の苦さに吐き出してしまいそうになる。
これでは余計に体調が悪くなりそうだ。
頑張って苦い薬を全部飲み干し、私はまた横になった。
メイが冷たいタオルをおでこにのせてくれる。
「リディア様。イクス卿のこと……ルイード様に遠慮されてるのですか?
お会いしたいのなら、遠慮すること……」
「いいの。今日は……会いたくないの」
メイが、私を気遣うように言ってくれた言葉を途中で止めた。
本当にメイは私のことをよくわかってくれてる。
きっとこの私の答えがウソだってことも、気づいてる……よね。
でも、やっぱり先程のルイード様とのことを考えると胸が痛む。
今日1日この痛みを抱えることが、皇子を傷つけた私にできる小さな罪滅ぼしだ。
「わかりました。お薬を飲んですぐにまた眠ってしまったと、皆様に報告しておきますね」
「ありがとう」
メイが部屋から出ていくと、自然と私の目から涙がこぼれた。
ルイード様は今どうしているだろう。
私なんかとは比べものにならないほど、ツラい思いをしている……よね……。
ごめんなさい……。
ルイード皇子のことで泣くのは今日だけにする。
そう決めて、1人布団の中で涙を流した。
次の日、まだ熱のある私はずっとベッドに横になっておとなしくしている。
朝からエリックとカイザがやってきては、私のことを心配して騒いでいた(主にカイザが)
「大丈夫なのか!? もっとたくさん薬飲んだ方がいいんじゃないのか?
あっ! 肉食べるか? すぐに料理長に言って、デカくていい肉を……」
「食べれません」
「バカかお前は。これだけ熱があるのに、食べられるわけないだろう。
うるさいから出て行け」
「なんだよ! 肉食った方が元気が出るじゃねーか!
熱が出たら肉が1番いいんだ!」
「お前とリディアを一緒にするな。
ほら、王宮に行く時間だろ。さっさと行け」
「カイザお兄様頑張ってください」
私とエリックに促されて、カイザは渋々部屋から出て行った。
王宮騎士団の訓練に参加するため、イクスもカイザと一緒に王宮に行っただろう。
エリックは私の頭を優しく撫でると、遠慮がちに話し始めた。
「体調が悪い時になんだが……昨日ルイード様がいらしていたらしいな。
……何かあったのか?」
そういえば、エリックにも何も伝えていなかったわ。
私のために色々動いてくれていたのに……。
「……ルイード様の気持ちにはお応えできないと、伝えました……」
「……そうか。それは、リディアにとって大事な相手が見つかったということか?」
「はい。あの……私……イ、イクスのことが……」
「……イクスか」
エリックはそう呟くと、目を閉じて何かを考え込んでしまった。
眉間にシワが寄っていてどこか不機嫌そうに見える。
「は、反対ですか?」
「いや。お前が決めたのなら、反対はしない。
イクスのことは信用しているし不満もない……が……」
「……が……?」
「ただおもしろくないだけだ。
……しばらくイクスはこの部屋への立ち入りを禁止にして、お前と会うのも毎日5分だけ。
しかも俺かカイザが必ず同席すること……というルールにしたいくらいにな」
「ええ!?」
エリックは悪巧みをしているような顔で、少し口角を上げながら言った。
でた!! 暗黒微笑! 冷徹侯爵! 過保護!
考えてることが顔に出ていたのか、エリックが私の顔を見てふっと笑った。
「安心しろ。半分は冗談だ」
「…………」
半分は本気ということでしょうか。
でもそこは詳しく聞かないことにしよう。うん。
その後エリックも仕事に戻ったので、私も一眠りしようとふかふかの布団に入った。
昨日ほど熱は高くないが、まだまだ身体はだるい。
精神的にも疲れていた私は、ベッドに横になるなりすぐに寝てしまった。
かすかな話し声が聞こえて目を覚ますと、窓の外が夕焼け空になっているのが見えた。
どうやらかなり長い時間爆睡してしまったみたいだ。
話し声のする方を見てみると、部屋の入り口に立っているメイが廊下にいる誰かと話しているのが見える。
「まだ寝ているんです」
「じゃあ起きたら教えてほしい」
聞こえてきたその声に、ドキッと反応してしまう。
イクスの声だ。
私の心配をして、部屋を訪ねてきたらしい。
寝てるなら……と引き返そうとしているイクスを、メイが呼び止めた。
「待ってください!
あの、私今調理場に取りに行きたいものがありまして、その間だけリディア様に付き添っててもらってもいいですか?」
「え? でも……」
「よろしくお願いします!」
メイが走り出した音が聞こえてくる。
ええええーーーー!? ちょっと!?
調理場に用って、絶対ウソでしょ!
やだやだどうしよう! なんか気まずい!
ね……寝たフリしちゃおう!
目を瞑って寝たフリしていると、イクスがゆっくりとこちらに向かって歩いて来る音が聞こえてきた。
ベッド横に置いてある、エリックやメイが座っていた椅子がカタン……と動いた音がする。
ああああ。いる!! 近くにいる!!
どうしよう! 起きた方がいいの!?
でも今さら起きるタイミングがわからないんだけど……。
胸がバクバクしている。
目を瞑っているので、イクスが今なにをしているのかわからない。
寝顔とか見られてるのかな!?
は、恥ずかしい……。
そんなことを考えていると、ふわっと優しく髪を撫でられた。
大きくて温かい、イクスの手だ。
「!!」
きゃーーーー髪触られてる!!!
思ってたよりも近くにいた!
あああ。余計に目を開けられないーー。
見えてはいないが、今自分の前にイクスがいるのが気配でわかる。
イクスは無言のまま私の髪を撫でてくれている。
ふとその手が止まった……と思うと同時に、イクスの顔が近づいてきているのがわかった。
すぐ目の前にイクスの気配がする。
え!? なに!? なになになに!?
さっきよりもぎゅっと目を閉じて布団を握りしめると、横を向いている私の耳元でイクスが囁いた。
「いつまで寝たフリしてるつもりですか?」
「!?」
少し意地悪そうなその声に、私は思わずパチっと目を開けてしまった。
目の前には、ニヤニヤして笑っているイクスがいる。
……気づいていたのか。
「……いつわかったの?」
「え? 一目見た時からわかりましたよ」
……じゃあ髪を撫でてきたのも、わざとか。
「…………」
「すみません。久々に会えて嬉しかったから、つい」
起き上がりながら軽く睨みつけると、イクスが笑顔のまま謝ってきた。
本当に嬉しいと思ってくれているらしく、いつもより楽しそうに見える。
からかわれて恥ずかしいが、その笑顔だけで簡単に許せてしまうくらい私も会えて嬉しいのだろう。
「……私もイクスに会えて嬉しい」
「…………!」
会うまではあんなに緊張していたのに、顔を一目見ると愛しさが上回ってしまう。
イクスの笑顔を見ただけで、素直に言葉が出てくる……。
やっぱり私、イクスのことが好きなんだな……。
少し戸惑った彼にニコッと微笑むと、同じように優しく微笑みながら彼が言った。
「抱きしめてもいいですか……?」




