15 この4人でピクニックですか?
皇子が来た日から数日後、私はいつものようにエリックとカイザと朝食をとっていた。
部屋の壁際には、イクスやメイ、執事のアース、数人のメイド達が立っている。
ある程度の食事が済んだ頃、エリックがボソボソと話し出した。
「リディア……今日の公爵子息お2人との顔合わせは中止になった」
「え? そうなのですか?
お2人とも……なんてめずらしいですね」
「……実は明日も……というよりも、今予定している分はひとまず全てキャンセルだ」
「ええ!?」
全部キャンセル!?
噂の巫女に会いたいと、最近では5分という短さにもかかわらず会いたいと言ってくる方が多かったのに。
なんで急に?
まぁ私としては正直めんどくさかったからラッキーだけど。
「エリックお兄様からお断りしたのですか?」
「いや。……ここ最近頻繁に断りの書状が届いている」
「えっ。そんな事もあるのですね」
私……何かやっちゃったのかしら?
なぜそんな事になったのか全く心当たりがないというのに、エリックやイクス、メイやアースはなにやら複雑そうな顔をしている。
みんな理由を知っているのだろうか?
私と同じようになにもわかっていない様子のカイザが、パンを食べながら口を挟んできた。
「なんだ? お前何かやったのか?
こんなに一気に断られるなんて、よほどひどい顔でもしてたんじゃないのか?」
コイツ。フォークを投げつけてやろうか。
真面目に言っているのがわかるから、よりイラッとするわね。
「でも、確かに私が何かしてしまったのでしょうか?」
カイザを無視してエリックに質問をすると、エリックが真っ直ぐに私を見た。
「いや。お前のせいではない。
なんというか……その……皇子が……」
「皇子?」
めずらしくエリックが言い淀んでいると、突然カイザがまた大きな声を出した。
「あっ! じゃあリディアは今日なにも予定がないんだな?
なら湖に行くぞ!」
「湖?」
突然なにを言い出すのかと思ったら……湖ですって?
全く。私を何歳だと思ってるのよ。
……そんなの行きたいに決まってるじゃない!!
異世界の湖とか、なんか神秘的なくらい綺麗なんじゃないの!?
「ボートもあるんだ! 楽しいぞ! 行くか?」
ボート!?
異世界で湖でイケメンとボートって、そんなの憧れじゃない!
絶対行く!!!
「い……」
「それは素敵な提案ですね。
ぜひ俺も一緒に連れて行ってください」
返事をしようとした時、不意にこの場にいるはずのない人の声がした。
ん!?
バッと全員が声の聞こえた方を振り返ると、部屋の入り口にルイード皇子が立っていた。
もう落ち込んではいないのか、爽やかに微笑みながらゆっくりと部屋に入ってきた。
「朝から突然訪ねてしまってすまない。
リディアに会いたくてここまで案内してもらったら、楽しそうな話題が聞こえたものだから」
皇子の爽やかスマイルと私への会いたかった発言で、周りにいるメイド達が小さくキャアキャア言っているのが目に入った。
カイザは特に驚いた様子もなく、「じゃあみんなで行こうぜ!」と言いながら1人食事を続けている。
食事を終えていたエリックは、静かに立ち上がり皇子と挨拶を交わしている。
「お久しぶりですね。ルイード様。
ここ数日、なにやら忙しかったみたいですね」
「ああ。思っていたよりも余計な仕事先が多くてね。
リディアに会いに来れなくて残念だったよ。
でもやっと全部終わったからこうして会いに来たんだ」
「おかげさまでリディアの予定もほぼなくなりましたよ」
「そうか。それは俺も頑張った甲斐があったよ」
…………なんだろう。
エリックも少し笑顔だし、ルイード皇子なんて満面の笑顔で会話しているのに、なんで冷たい空気が流れているように感じるんだろう……。
それに、キャアキャアしてるメイド達と違って、イクスとメイとアースが呆れたように皇子を見ている気がするのは何故なの?
結局、湖には私とカイザとルイード皇子、それとイクスの4人で行くことになった。
エリックは仕事が残っているからと今回は参加しないらしい。
外出着に着替えるため、私は先に失礼させてもらいメイと一緒に自室へと向かう。
メイはポツリと「ルイード様って思っていたよりもずっと行動力のあるお方なんですね……」と呟いていた。
久々の外出、それも湖ということもあり、メイは明るく爽やかなブルーテイストの服を用意してくれ……ると予想していたのだが、目の前に出されたのは予想とは全く違うものだった。
シフォンのような軽くフワフワした生地が重なり合っていて、レースのリボンや小さいお花で飾られた薄いピンクのワンピースだ。
「こ、これはちょっと可愛すぎないかしら?
今日行くのは湖よ? もっとシンプルな……」
「何をおっしゃっているのですか。
素敵な男性3人と一緒にお出かけされるのですから、しっかりおめかししなくてはダメですよ」
「そういうものなの……?」
「もちろんです!
お美しいリディア様を見たら、きっと皇子様もイクス卿も惚れなお……で、では失礼しますね!」
メイは話途中で切り上げて、パパパッと着替えさせてくれた。
髪は左側から全体を編み込んでいき、右側のサイドに流している。
編み込んだ部分に小花を差し入れていくと、それだけで顔の周りがパァッと明るくなったようだ。
わぁ……まるで妖精ね!
最近目の保養男子ばかり見ていたけど、リディアも負けないくらい美少女だわ。
……本当にこの私が原因で、婚活は全て断られてしまったのかしら。
「ねぇ、メイ。なんで私と会う約束をしていた方々が、みんな急に断ってきたのかしら」
「えっ……」
「私の態度や受け答えに何か問題でもあったのかしら」
「それはないです!!」
メイがキッパリと言いきってくれたのが、嬉しい。
「じゃあ……なんで?」
「それは……それは、権力に屈しただけだと思います……」
「権力に!?」
思ってもいなかった言葉に動揺が隠せない。
権力に屈したって何!?
私の婚活がなんで権力の話になるの!?
「そ、その権力とは……?」
「私の口からはもうこれ以上は言えません。すみません!」
メイは申し訳なさそうに焦りながらペコっとお辞儀をした。
け……権力の力がここにも……!?
なんなの権力って……。
まさか……ルイード皇子……?
『俺は俺で好きに動くけどね』
そんな皇子の言葉が頭に浮かんだ……。
準備を終えて外へ出て行くと、もうカイザ達は馬車の前で待ってくれていた。
カイザの横に立っているイクスは、大きな籠のバスケットを持っている。
「イクス、それもしかしてお昼ご飯?」
「はい。料理長が急ぎで作ってくれました」
わぁ! なんだかピクニックみたい!
ワクワクしてきたわ。
それに、よく見るとみんなもいつもより動きやすい服に着替えたみたいね。
ルイード皇子の服はエリックのかしら?
皇子や騎士の姿ももちろん素敵だけど、こういう普通の服を着てると素材の良さがさらにわかるわね!
みんなイケメンすぎる!!
こんなイケメン3人連れてピクニックに行けるなんて、私ってばかなりの幸せ者じゃない!?
楽しくなりそうーーーー!
…………なーーんて思っていた数時間前の私へ。
「何で話し合わなきゃいけないんだ!?
リディアとボートに乗るのは俺に決まってんじゃねぇか!」
「いや。ここは平等にきちんと話し合って決めよう」
「そうですね。
兄とか皇子とか関係なく平等に決めましょう」
「何でだよ!
湖に誘ったのは俺なんだぞ!?」
「婚約者として、他の男性とリディアを2人きりでボートになんて乗せられないからな。
ここは俺がリディアと一緒に乗るしかないだろ」
「今は正式な婚約者じゃないですよね?
俺はリディア様の護衛騎士なので、離れるわけにはいきません」
湖に着くなり、誰が私とボートに乗るかで言い争いが始まってしまいました。
さすがみんな自分の意見をしっかりと主張できる男らしい人達だわー。あはは。
こんなイケメン達に取り合いされてるなんて、さすがリディアよねー。うふふ。
でもそろそろ誰か辞退してくれてもいいのよー?
最年長、今回のことの発案者だというのに2人に意見無視されてるカイザ。
優しく遠慮するタイプに見えるけど、意外と譲らないルイード皇子。
皇子相手にもズバッと言い返して、こちらも全く譲らないイクス。
話し合いは全然まとまりそうにない。
…………早くボートに乗りたいです。




