10 ジェイクに相談してみました
ジェイクに会いに行くとなっても……問題はイクスにバレずに行けるかどうか、なのよね。
イクスの相談をしたいのに、本人と一緒に行くわけにはいかないし。
そもそも、ジェイクに会いに行くこと自体反対されそうだわ。
イクスは私の婚活……貴族男性との5分間の挨拶が全て終わったら、また訓練場へ行くはず!
チャンスはそこだわ!
毎日数人の男性と行う顔合わせ。
全く気合の入らないその挨拶を、人形のように作り笑顔で乗りきる。
全員との顔合わせが終わり、イクスが訓練場に行ったのを見送ると、私は急いで移動し裏庭に出られる扉近くの部屋に入った。
実はここに普段着であるワンピースを隠していたのだ。
一度部屋に戻ったらメイに見つかっちゃうからね!
ここで着替えて、そのまま抜け出すわよ!
1人でもなんとか脱げるようなデザインのドレスを着ていたのだが、それでも脱ぐのにかなり苦戦した。
なんとか着替え終わり、こっそりと裏庭に出る。
街へとつながる抜け道に入り、私なりの全力疾走で走り抜けて行く。
前回は夜中だったから怖かったけど、今日はまだ明るい昼間だから全然怖くないわ!
イクスと通った道を走り、ウサギの看板のかかったお店に到着した。
巫女救出に協力したご褒美として貴族となったジェイクだったが、本人の希望で貴族としての生活は期間限定の1ヶ月だけだった。
グリモールにある元ドグラス子爵邸には住まずに、貴族特権も権力も放棄して平民に戻ったのだ。
……リクトール元公爵に裁判で勝つためだけに、その時だけ貴族になってくれたのよね。
わざわざ平民でいることを選ぶなんて、ジェイクらしい。
「……まだ開店前だけど、開いてるかしら?」
ドアに手をかけてみると、カチャ……と開けることができた。
お店の中は日陰になっているからか、昼間でも少し薄暗い。
「すみませーーん……」
声をかけてみるが、店内はしーーんと静まり返っている。
誰もいないのだろうか?
それとも、2階にいるのかな?
勝手に入っていいのか迷っていると、トントン……と階段を下りる音が聞こえてきた。
そちらに目を向けると、ジェイクが赤い瞳を丸くして階段の途中で立ち止まっていた。
「あれ? リディ? ビックリしたー」
「ジェイク……」
「なになにどうしたの? というか、キミ1人かい? 騎士くんは一緒じゃないの?」
ジェイクは周りに誰かいないかキョロキョロしている。
私はイクスのことを意味している『騎士くん』という言葉にピクリと反応してしまった。
「私1人で来たわ」
「……よく騎士くんが許したね?」
「イクスには内緒で来たの」
「…………ふぅん? ……なるほどね。
じゃあとりあえずこっちに座ってよ。
僕に何か相談があって来たんだろう?」
ジェイクはお店のカウンターに私を座らせ、自分はその隣に座った。
突然来たというのに、ジェイクは嫌な顔一つせずに私の話を聞いてくれようとしている。
「……ジェイクって優しいわよね」
「あれ? 今頃気づいたのかい?
僕ほど優しい男はなかなかいないと思うよ?」
ジェイクは本気なのか冗談なのかわからないテンションでニコニコしながら言った。
「そうね。……そんな優しいジェイク様は、好きな人とかいるのかしら?」
「おや? 僕を狙ってるのかい?」
「違うわ」
「ははっ。初めて会った時も即答してたよね。
……で、リディは今日僕に恋の相談をしに来たってことでいいのかな?」
「……そう、ね」
ジェイクはカウンターで頬杖をつきながら、楽しそうに私の様子をうかがっている。
私はなんだか恥ずかしくて、ジェイクと視線を合わせないようにしながら話していた。
「なるほどね〜!
まぁ僕も若く見られるけどもう21歳だし?
それなりに恋愛経験だってありますとも。
なんでも聞いてくれて構わないよ?」
「す、好きかどうか……恋ってどんな……えと、なんて言えばいいのかな」
自分の疑問に思っていることをうまく伝えられずにいると、ジェイクがふむふむと言いながらケロッと聞いてきた。
「その好きが、男として好きなのか人として好きなのかわからないって感じかな?」
「お……男として好き……って……」
なんだか生々しくて恥ずかしい……。
それにしても、よくさっきの私の説明でわかったな……と感心してしまう。
ジェイクの赤い瞳は、笑いながらもよーーく相手のことを観察していて、その人の考えていることなどを見破る力がある……と私は思っている。
「でも何でそんなことを考えてるんだい?
噂だとキミは今半年間の結婚相手探し期間中らしいね。
その中に気になる相手でもいるのかい?」
半年間の婚活のこと、やっぱり知ってるのね。
情報屋のジェイクなら当たり前か。
「そ、そうなの。告白されて、私は相手のことをどう思ってるのかわからなくて……」
「どういう意味の好きかわからないほどには、その相手のことが好きなんだろう?
会ったばかりの相手をそこまで好きになるなら、それは恋なんじゃない?」
「あ。えーーと実は、初めて会った人じゃなくてもっと前から知ってる人なの。
だから元々人としては好きだったのよ」
「ふーーん? おかしいな。
僕の知ってる話だと、全員初対面でしかも5分しか会わせてもらえないって聞いたけど?」
ジェイクはニヤニヤしながら聞いてくる。
そんな細かいことまでも知っているとは、さすがと言うべきか。
「し、知ってる相手もいたのよ!
とにかく! 相手のことはどうでもいいから!!
どういう好きが恋の好きなのか教えて」
「そうは言ってもなぁ〜。
その感覚は人によって様々だし、一概には言えないけど……。
僕流の調べ方で見てあげようか?」
「ジェイク流の調べ方ってなに……」
「僕の質問に答えるだけさ! しかも1つだけ!
やってみるかい?」
「お……お願いします……!」
私はピシッと姿勢を正して座り直し、ジェイクの方に身体を向けた。
ジェイクも私のマネをして、背筋を伸ばして真剣な顔をした。
一体どんな質問をされるのかしら……。
それだけで本当に私の気持ちがわかるの?
「ではいきます。答えは口に出さず、頭の中で答えてください」
頭の中で答える?
それじゃジェイクはわからないじゃない……。
「あなたは、どんな告白をされましたか?」
え!? どんな告白!?
どんなって……耳の横を優しく撫でられて、髪の毛にキスされて、あの深い緑の瞳に見つめられて、それで……「リディア様のことが好きです」って……。
…………ぎゃーーーー!! まだダメだ!!
まだ普通のテンションでは考えられない!
枕を叩きたい衝動に駆られるが、ここに枕はない。
私は両手で顔を隠し、この何とも言えないムズムズ感を耐えることにした。
私の様子をジッと見ていたジェイクが、はははっと笑った声が聞こえた。
指の隙間から覗いて、ジェイクに問いかけてみる。
「今の質問でなにかわかったの?」
「わかったよ。
リディ、キミは少なくとも男の中でその相手が1番好きなんだね」
「え!? 何で!?」
驚きすぎて、顔を隠していた手をバッと下げてジェイクに詰め寄る。
なぜ何も答えていないのに、そんな事がわかるのか。
「顔が真っ赤になって、嬉しそうでもあり恥ずかしそうな顔をしていたからさ!」
「……それだけ? そんなの、告白されたらみんなそうなるんじゃ……」
「リディってさ、仲の良い相手から告白されたの初めてだろ?」
「…………」
言われてみれば、初めてだわ。
会ってすぐ口説かれたりプロポーズされたりした事はあるけど、こんな長く一緒にいた相手からちゃんと告白されたことはない。
リディアになる前の私はそもそも告白なんてされたこともないし……。
「親しい相手から告白されたら、そんなに嬉しい顔はできないものなんだよ。
特に、他に好きな人がいる場合はね。
キミは嬉しそうだったから、その相手より好きな男はいないって事なのさ」
「……何で? たとえ他に好きな人がいても、好きって言われたら嬉しくなるものでしょう?」
「こればっかりは、実際にされてみないとわからないことかな!
でも、僕が見る限りはキミは騎士く…………その相手のことが結構好きだと思うけどね!」
……今、絶対騎士くんて言おうとしてたよね。
なんでわかったんだろう。ジェイクって本当に何者?
正直ジェイクの根拠はまだよく理解できないけど、とりあえず私は男の中ではイクスが1番好き……ってことなのね。
「あんまり納得いってない顔だねぇ」
「だってよくわからないんだもの」
「でも、もしかしたら近いうちにわかるようになるかもよ?」
「どうして?」
「もうすぐルイード皇子が視察から帰ってくるからさ!」




