1 半年間、婚活ですか!?
サラの裁判から数ヶ月、私は落ち着いた日々を送っていた。
処刑エンドに怯えることもなく、やっとこの世界で平和に生きていけるという幸せを味わっています。
「リディア、何しているんだ?」
「エリックお兄様! 天気が良いので外で本を読んでいました」
庭の木陰に座っていると、エリックがやってきた。
今日もサラサラの金髪を風になびかせ、本の中の王子様像そのものだ。
前髪の隙間から見える薄いグリーンの瞳が、優しく私を見つめている。
エリックが外に出てくるなんて珍しいわね。いつも用事がある日以外は執務室にこもっている人なのに。
……なんとなく嫌な予感がするわ。
少し離れた所で剣の素振りをしていたイクスが、タオルで顔を拭きながらこちらに歩いてきた。
こちらもまたエリックに負けず劣らずの端正な顔立ちをしている。
焦茶色の短い髪の毛から垂れる汗が、なんとも言えず色っぽくて素敵……ってなんだかこれじゃ変態っぽくなっちゃうな。
そんなバカみたいな事を考えていると、エリックが本題を口にした。
「陛下に頼まれたんだ。……明日、リディアに王宮に来て欲しいそうだ」
「王宮? ……それは、何故です?」
私の質問に、エリックは少し気まずそうな顔をしながら答えた。
「おそらく……ルイード様との婚約の件だろうな。
皇子ももう17歳だ。曖昧になっているお前との婚約を確定させたいのだろう。……お前は今でもルイード様と婚約解消したいと思ってるのか?」
エリックとイクスの視線が私に集中している。
「まぁ……そうですね。やっぱり王宮に嫁ぐのは荷が重いです」
正直にそう答えると、エリックとイクスがホッとしたように見えた。
……私が王宮に嫁がない方が嬉しいのかしら?
普通の貴族なら喜んで皇子と結婚させようとすると思うのに……。
「そうか。ならば、お前のその気持ちを正直に陛下に伝えてくるといい」
「はい」
陛下よりも私の気持ちを優先してくれるのかな? と思うと、優しいエリックに少し感動してしまう。
次の日、早速私は王宮へ来ていた。
どうやらルイード皇子は執務で出かけているらしく、私は1人で陛下に会わなければいけないそうだ。
1人で陛下に会うとかツラい!! キツイ!! 帰りたい!!
なんでルイード皇子いないのよーーーー!!
王宮の執事に案内された部屋に入ると、陛下はすでに待ってくれていた。
小さなテーブルと、その横には椅子が2脚。1つは陛下が座っているので、もう1つは私用の椅子だろう。
小さなテーブルの上には、ミニケーキやクッキーなどがたくさん用意されている。
……これは、陛下と一緒にお茶会的な感じで話せって事なのかしら? うん。ツラい。
「お招きいただきありがとうございます、陛下」
「堅苦しいのはいい。早くこっちに座りなさい」
陛下はいつも通りニコニコしながら優しく話してくれる。
私が椅子に座ると、すぐにメイドがやって来て私に紅茶を淹れてくれた。
緊張して喉が渇いているけど、緊張してるから飲める気がしないわ!!
でも何も口にしないのも失礼よね?
話が落ち着いたら少しはこのケーキたちも食べた方がいいかしら。
「いきなり呼び出してすまなかったな。
どうしてもルイードのいない日に話がしたかったものだから、急ぎの呼び出しになってしまった」
「い、いいえ。私は大丈夫です。それより、ルイード様には内密のお話なのでしょうか?」
「ああ。ルイードがいたら正直に話せないかと思ってな。……君とルイードの婚約の話なのだが、今の正直な気持ちを教えてもらえるか?
まだ婚約解消したいと思っているか?」
陛下の優しい顔を見ると、言いにくいけど……正直に言うしかないよね。
「……はい」
「そうか。ルイードのことが嫌いか?」
「そんなはずありません!!
ルイード様はとても魅力的な方です。ですが、私は……」
「嫌いでもないが、男性として好きというわけでもなさそうだな。ふむ……。では、今好いている相手はいるのか?」
「い、いいえ」
好きな相手?
処刑エンドを逃れることばかりで、そんな事考えてなかったわ。
陛下は何かを考え込みながら私を見つめている。
優しいとはいえ、やはり陛下の目に真っ直ぐ見られると威圧感がすごい。
まるで心の中を透かして見られているようだ。
「よし! では、半年の猶予を与えるとしよう。
半年経ってもリディアに好きな相手が現れなければ、その時はルイードと結婚してもらおう」
は!?
ちょっと。陛下が何かおかしなことを言い出しやがりましたよ?
話が違くないですか!?
「あ、あの陛下。私が望めば婚約は解消してくださるのでは……」
「でもリディアはこの国の巫女だからな。本当ならば、有無も言わさずに結婚させるところなのだぞ?だがなんでも言う事を聞くという約束だからな。さらに半年待つとしよう」
「…………」
陛下は笑顔のまま、少しの脅しと少しの仁義をアピールしてきた。
約束が変わってしまった事に対する申し訳なさはあまり感じない。
確かに、普通なら陛下に命令されたら私に拒否権はないけど!!
いきなりそれってズルくない!? 選択肢があるようでほぼないじゃない!
これだから王族ってやつはぁーーーー!!
……はぁはぁ。落ち着け私! どんなにイラついても、私の答えは1つしかないんだから。
「わかりました……」
あああーーーー。私の平和なほのぼのライフが!!
好きな人ができたって振られたら意味ないし、要は恋人を作れたらって事でしょ!?
この世界って、恋人=結婚相手じゃん!
16歳にして婚活かよ!!
「はぁ……」
家に帰ってきてからも、ついため息ばかりついてしまう。
いつもの庭の木陰に座り、先程のやり取りをずっと考えてしまっていた。
陛下との話をエリックに伝えたら、なんとも言えない顔してたなぁ……。
あれ、もう諦めたみたいな顔よね。
そんな事を考えていると、イクスがこちらに近づいて来ているのに気づいた。
「リディア様、戻っていたんですね」
「あ。イクス。用事は済んだの?」
「はい。……なんか落ち込んでます? 何の話だったんですか?」
「……半年以内に恋人ができなかったら、ルイード様と結婚する事になったわ」
「はあぁ!? ……あ。すみません。それに承諾したんですか?」
イクスは一瞬素の男子みたいな反応をしたが、すぐに普段通りの真顔に戻った。
「承諾するしかなかったわよ……。
私は一応巫女だし、本当なら私の意思なんて聞かれずに結婚する事になっててもおかしくないわけだし」
「まぁ……それはそうですけど……」
私が半泣き状態でシュンとしているからか、イクスはそれ以上何も聞いてこなかった。
無言のまま私の隣に座り、静かに空を見上げている。
……イクスのこういう所好きなのよね。
一緒にいても疲れないし、落ち着くわ。
端正な顔で何かを考え込んでいる横顔とか、ずっと見つめていたいくらいカッコいいし……。
その時、空を見上げていたイクスが、急に視線を下に向けて険しい顔をした。
まるで何かを真剣に考え出したように見える。
そしてボソッと呟いた。
「半年か……」
半年?? もしかして、私の事考えてくれてたの?
こんなに真剣に考えてくれてるなんて……。
イクスの優しさにもジーーンとしてしまう。
その素敵な横顔に釘づけになっていると、急にイクスが私の方に顔を向けた。
深い緑色の瞳と間近で目が合い、心臓がドキッと跳ねる。
「半年後に恋人がいれば、ルイード様と結婚しなくていいんですよね?」
「え? ええ、そうね」
「なら、俺の恋人になりますか?」
「えっ!?」
な……何言っちゃってるの!? イクスさん!!
イクスは真面目な顔で私をジッと見つめていた。




