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88話:『Closed World (閉じられた世界)』の覇者

 特大の斬撃:“黒蛇クロノ大鎌鼬デスサイズ”で、上下真っ二つにした岩奇獣ガンズマンの身体。

 その上半身が突如“四散”し、これは避けきれないと覚悟を決めた時だった。



「うおらッ!!!!」



 “大男が姿を現し”、拳一つで無数の岩を吹き飛ばしたのだ。


「……はい?」


 いきなり現れた男、それも大男。

 彼はそのまま岩奇獣ガンズマンの上半身を殴りつけ、続けざまに下半身の身体もゴンッと殴る。

 拳一つで硬い岩の身体を粉々に粉砕し、中から出て来た蓄熱光石レイジナイトをあっさり握り潰し、戦いにもならない戦いは呆気なく幕を閉じた。



 ――――――――



「えっと、これは……」


 事態を把握するのに少々時間を要した。

 こんな場所で誰かと遭遇するなんて想定していなかったし、その人物が化け物みたいな強さを発揮するとは、これまた夢にも思っていなかった為だ。


 くだんの男性はかなりガタイが良く、発達し過ぎた筋肉によって身体全体が岩の様にゴツゴツとしている。

 十中八九どころか100%鉱石ゴーレム族に間違いない。


(あれ? っていうかこの人、見覚えあるな。確か街中で宝石強盗を捕まえた人だ)


「おい、子供が一人でこんなところに何の用だ」


「え、一人?(あ、おじいちゃんがいない)」


 周囲を見渡して初めて気づく。

 先程までいたおじいちゃんの姿が消えていた。

 岩奇獣ガンズマンから逃げた、という可能性は実力的に皆無だろう。


(一体何処に消えたんだろう? 宝石強盗の時もしれっと一人で逃げてたけど……)


「おい、ボーっとしてどうした。怪我はねーか?」


「あ、うん、怪我はないよ。助けてくれてありがとう」


「礼は要らねぇよ。それより親御さんはどうした? まさか一人で洞窟に入った訳じゃねーだろ」


「それは、えっと……そう、途中ではぐれちゃってね。困ってたところだったんだ」


「ったく、こんな所までガキ連れてくるなんてどんな親だよ? しゃーねぇ、オレが入り口まで連れてってやる」


 ポリポリと頭を掻き、鉱石ゴーレム族の大男は腰にぶら下げた袋から“とある代物”を取り出した。

 パッと見は「貝」に似ていて、じっくり見ても「貝」に似ているけれど……。


「それは?」


番貝ナンバールさ。別名:“夫婦貝めおとがい”とも言ってな、角の先端が常に相方の方を指す珍しい特性を持ってる。洞窟の入り口に片方を置いておけば、もう片方で帰り道がわかるって代物よ」


「なるほど、方位磁石みたいなものだね。一応ボクも目印として、分かれ道に蓄熱光石レイジナイトを置いて来たんだけど……」


「おいおい、そんなもんアテになるかよ。岩鼠ガンチュー岩奇獣ガンズマンが喰ったら終わりじゃねぇか」


「あー、確かに」


 今更ながら、言われて初めてその可能性に気づいた。

 おじいちゃんの言うこと全てを鵜呑みにしていたらコレだ。

 何処に消えたのかは知らないけれど、次会った時はちゃんと文句を言わないとね。


「ところでアナタは? まだ名前も聞いてなかったけど」


「俺か? レオパルドだ。一応この世界の『覇者』をやってる」


「ふ~ん、覇者ねぇ……えッ!?」


 驚いた。

 そしてすぐに顔を逸らす。


(まさか覇者と出逢うなんて……本物なのか? ボクが賞金首だって知ってるのか?)


「嬢ちゃんは、何て名前だ?」


「え?」


「ん? あぁ、男だったか?」


「あ、いえ、女です」


 相手が覇者だと知って咄嗟に嘘を吐いた。

 手配書で顔がバレていたら意味が無いけど、どうやらボクのことは知らないらしい。

 まぁ性別を偽る必要性は全く無かった気もするけれど、今更「本当は男です」と口にするのも憚られる。


(ボクってそんなに女の子に見えるかな? ……いや、多分この人の感性がズレてるんだ)


 とりあえず、今はそういうことにしておこう

 なるべく身バレは避けたいし、勘違いを訂正する意味も無い。


「名前はドラ……じゃなくて、トラミだよ」


「トラミか、いい名前だな」


「え、そうかな?」


「スマン、適当に言っただけだ。気に入ってないなら謝るが」


「いや、別にそこまでは……」


「そうか。まぁどうでもいいけどな」


「………………」


 う~ん、中々につかめない人だ。

 自己紹介では覇者だという話だけれど、本当に彼が覇者なのかどうかは判断がつかない。

 全世界の覇者をボクが把握してる訳でもないし、おじいちゃんみたいに適当なことを言っている可能性もある。


「それじゃあ入り口まで行くか。尋ねるが嬢ちゃん、ここは何番洞窟だった?」


「え? 確か5408番だったと思うけど」


「ってことは中層か。まぁあの岩奇獣ガンズマンならそんなもんか」


 ん? この人、自分が入った洞窟が何処かも覚えてないのか?


(怪しいな、本当にこの人覇者なのか? もしかして勝手に採掘してる悪い人じゃあ――)


「わわッ!?」


「暴れるな。オレが担いでいった方が100倍はえー」


 断りなしにボクを担ぎ上げ、肩に乗せたレオパルド。

 その言葉に嘘偽りはなく、覇者(自称):レオパルドはボクを担いだまま、ボクが進む何倍もの速度で洞窟を逆走する。

 いやまぁ実際は「歩き」なので走ってはいないけど、身体が大きいので早歩きするだけでも走っている並の速度が出ている。

 このまま行けばあっという間に入り口まで辿り着くだろう。


鉱石ゴーレム族のレオパルドか……実力的には申し分ないし、もしかしたら本当に覇者なのかな? 破壊力は明らかにボクよりも上だったし、身のこなしもかなり素早かった)


 レオパルドが本当に覇者なら、管理者を相手に一つ“貸し”を作ってしまったことになる。

 ボクとしては非常に居心地が悪いけれど、まぁ相手はそんなこと微塵も思ってなさそうだし、この貸しは踏み倒しても問題無いか。

 それに――。

 

(運んでくれるのはありがたいけど、筋肉が固くてゴツゴツしてるからお尻が痛いんだよね。これでチャラにしておこう)


 適当な理由で「貸し」を無かったことにして。


 それから間もなく。

 あっという間に洞窟の入り口、巨大な石柱:神影柱の見える大穴の壁まで辿り着いた。

 歩幅の凄さをここまで実感したのは初めてかも知れない。


「さぁ、ここからは一人で戻れるな? 危ないから洞窟にはもう入るなよ」


「うん。運んでくれてありがと。レオパルドはこれからどうするの?」


 と尋ねた時、彼は既に“大穴に向かって飛び降りていた”。


「ちょッ!?」


「気を付けて帰れよー」


 慌てて大穴を覗き込むも、そんな声が上がって来る。

 突然の飛び降り自殺を慣行した訳ではなく、昇降機を使わずに下へと降りただけらしい。


「なんて無茶苦茶な……」



「ホッホッホ。どうやら無事だったようじゃの」



「あっ」


 レオパルドと入れ替わるように、おじいちゃんが姿を現した。



 ――――――――



 最初に「下見」と言っていた今回の洞窟探索は終わりらしい。

 遥か上を目指す帰りの昇降機の中で、ボクはここまで我慢していた文句をおじいちゃんに吐いた。


「ちょっと、何で急に隠れたの? 渡航直後もボクを残して消えちゃったし、もしかしてレオパルドっておじいちゃんの知り合い? それとも実はおじいちゃんがレオパルドだった的なオチ?」


「何馬鹿なことを言うておる。知り合いではないが、念の為に隠れただけじゃ。奴が“覇者”だと言う話は既に聞いたか?」


「あー、うん。まさかこんな所で覇者に出逢うとは思ってなかったけど……ってことは、レオパルドって本当に覇者なの?」


「あぁ、奴は紛れもなく『Closed World (閉じられた世界)』の覇者じゃ。その実力は既に垣間見たじゃろう」


「それはまぁそうなんだけど」


 あの大きな岩奇獣ガンズマンですら、小石を蹴散らす様に瞬殺した光景を忘れる筈も無い。

 実力は最初から折り紙付きで、おじいちゃんが肯定するのであれば彼は本当に覇者なのだろう。


「でも、覇者クラスの大物が洞窟で何してたんだろう? もしかして、さっきの洞窟の奥に『原始の扉』があったりするのかな」


「可能性がゼロとは言わんが、期待はせん方がいい。奴が変わっとるのは有名な話じゃ。『覇者』のくせに世界の統治には興味が無く、ただただ洞窟探索に勤しむ日々。『全世界管理局』への忠誠心も低く、重要な『原始の扉』の守護を任されておるとは考えにくい」


「そうなんだ? でも逆に言えば、忠誠心が無くても覇者になれるってことだよね」


「覇者とは『力の象徴』じゃからな。『全世界管理局』に対する不穏分子への抑止力が最大の目的、余程の危険思想を持っておらぬ限り選考基準は“強さ”が優先される。まぁその分変わり種も多いがな」


 ヒョイと肩を竦め、それからおじいちゃんは白い杖でボクに向ける。


「どころでドラノアよ、“海”は好きか?」


「……へ?」

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