87話:岩奇獣《ガンズマン》
5408番洞窟を進み、ボク等はキラキラと揺蕩う水面が美しい「地底湖」に辿り着いた。
その美しい景色を堪能できなかったのは、水面から“岩が飛び出してきた”為だ。
「ッ!?」
轟音と共に降り注いだ一撃を避けつつ、一体何事かと岩の着地点を凝視。
すると、岩が“丸めていた身体”を開放し、4足歩行の獣っぽい形に姿を変えた。
顔には目玉と口らしき物もあり、そこには鋭い岩の牙も生えている。
(これは、まさか廃棄怪物?)
――いや、違う。
頭の中にはピエトロの“魂乃炎”が浮かんだものの、すぐさまそれを否定する。
奴は死んだ筈だ。
こんなところで再会する筈も無いし、そもそも“動きが自然過ぎる”。
廃棄怪物の動きは何処か機械染みたものだったけど、目の前の化け物が見せる動きは、どう見ても普通の生き物のそれだ。
「何アレ? 明らかに意思を持って動いてるんだけど」
「“岩奇獣”、洞窟に巣食うモンスターじゃ。ちなみに岩鼠同様に主食は洞窟内の鉱石じゃが、人を見つければ侵入者として襲って来る。非常に厄介な相手じゃから洞窟に入る際は気を付けろ」
「そういうのは先に言っといてよ……」
「ホッホッホッ。確かにそうじゃな。しかし、これでお主一人を連れて来た理由がわかったじゃろう?」
「……確かに」
こんなモンスターがいる場所に、パルフェやテテフをおいそれと連れて来る訳にはいかない。
ここまで隠していたのは「意地悪」と言う他ないものの、それをおじいちゃんに言ったところで始まらないのも今更の話だ。
ため息を「はぁ~」と一つ吐き、それから気を取り直してナイフを構える。
身体を開いた岩奇獣の全長は3メートル程。
4足歩行のゴツゴツとしたその身体目掛け、ボクは静かに、しかし力を込めてナイフを振るう!!
「“鎌鼬”」
まずは挨拶代わり。
様子見の一撃は、弾かれた!!
岩の身体だけあって中々頑丈みたいだけど、しかしその表面には確かな斬撃の痕が刻まれている。
完全にノーダメージという訳ではないらしく、その結果におじいちゃんが珍しく目を細めた。
「ほう、悪くない。昔のお前さんなら傷一つ付けるのも至難の業じゃったが、無人島での修行を終えた今なら問題無かろう。岩奇獣を倒してみろ」
「ボク一人で?」
「今の力をワシに見せてみろ」
「……りょーかい」
思い返せば、列車の車掌:ディグリードや市長:ピエトロを倒した時、おじいちゃんは街にいなかった。
ボクがどれだけ成長したか、それを見せる意味でもここはサクっと倒したいところか。
『ォォォォオオオオ~~~~ッ!!』
地鳴りの様な、遠吠えにも聞こえる咆哮。
それが止んだ後、岩奇獣がこちらへ突進してくる!!
身体を捻ってその一撃を避け、右肩からクロを出した。
「“黒蛇:顎”」
一撃!!
岩奇獣の首元に噛み付き、そのまま噛み砕き、ゴツゴツした頭がゴトリと地面に墜ちる。
正に「瞬殺」と言っても過言ではない。
「どう? 一撃で仕留めるなんてボクも中々やるでしょ」
鼻高々。
得意げに振り返ったのも束の間――背後からの殺気!!
(ッ!?)
咄嗟に身を屈めると、ボクの頭上スレスレを岩奇獣が通り過ぎた。
「あの状態でまだ動くの!?」
頭は完全に落とした筈。
それでも尚動くゾンビの如き姿に、ボクの額からツーッと冷や汗が流れる。
先ほど噛み砕いた岩奇獣の首元周りに、何やら光る石が見え隠れしているけど……。
「ホッホッホッ。頭を落としたからといって気を抜くなよ? 奴らは蓄熱光石に命が宿った“岩石生命体”じゃ。本体の蓄熱光石を壊さぬ限り動き続ける」
「だから、そういうのは先に言って――よッ!!」
先の一撃で丸見えとなっていた蓄熱光石。
それを、クロで噛み砕く!!
赤く光る石がパキンと割れ、岩奇獣の動きがピタリと静止。
そのままバタリと倒れたと思ったら、岩奇獣の身体を構成していた岩がガラガラと崩壊。
これで一件落着かと安堵したところで、崩れた岩の中から色彩豊かな石がゴロゴロと出て来た。
「わわっ、何か沢山出て来たんだけど?」
「ほほー、これはラッキーじゃな。岩奇獣が喰らった宝石が運よく残っておった。タイミングが悪ければ完全に分解され、一銭にもならんところじゃったぞ」
「やったね。これで大金持ちになれるかも?」
「いや、残念ながら全部売っても10万Gに届くかどうかじゃな。形が残っておるとはいえ、分解が進んだ鉱石は質と共に売値が落ちる。喰った直後であればもう少し金になったじゃろうがな」
鉱石をいくつか拾い上げ、おじいちゃんがポイッと雑に投げて来た。
残念ながら、あまり質が良い代物ではなかったらしい。
ただ、「おじいちゃんにボクの成長を見せる」という当初の目的は果たされた訳で、尚且つ10万Gを採れたと思えば悪くない。
残りの宝石も拾い、それから地底湖の先に続いている道へボク等は足を踏み入れた。
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――
―
「ねぇ、今更だけど何処まで進むの? 今回は下見って言ってたよね?」
「とりあえずは“行き止まり”にぶつかるまでじゃ。あと1分か、もしくは1時間か、それ以上か」
「………………」
洞窟に入って既に1時間以上は経過しているだろうか?
時たま出会う鍾乳石の滝や、棚田の様な地形に目を奪われていたのも最初だけ。
この景色の終わりを聞いたら、終わりが分からない答えが返って来た。
特に目的が無いならもう帰りたいところだけど……。
「お? この先は開けてるみたいだけど……かなり暗いね。蓄熱光石がほとんど無いや」
「気を抜くなよ。こういう場所は岩奇獣の寝床になっている場合も多い。足場の悪い道だと思ってうっかり踏んづけでもしようものなら――“こうなる”」
「こうなる?」
――グラリ。
地面が動き、嫌な予感を覚えると同時。
下から突き上げる様に、“地面だと思っていたモノ”が起き上がる!!
「ちょッ、このサイズは聞いてないんだけど?」
素早く避難し、離れた位置から暗闇に目を凝らす。
手持ちの蓄熱光石では全容がつかめないけれど、こんな場所で動いているのだから岩奇獣に間違いない。
「ホッホッホ。洞窟の奥に行けば行くほど、岩奇獣はより大きく、賢く、凶暴になる。いくら中層の洞窟でも、ここまで進めば下層レベルの岩奇獣が出てくるじゃろう。進む際は気を付けろよ」
「だから、そういうのは先に――あぁもういいや」
言っても始まらないのは今更の話だし、そもそもわざと教えずにボクの反応を楽しんでいる節もある。
性格の悪いおじいちゃん相手にリアクションを返すだけ無駄。
面倒な連戦だけど、終わらせてしまえば過ぎた過去だ。
「“火葬地獄”」
地獄の炎を放ち、燃やす!!
悲鳴一つ上げないところを見るとノーダメージらしいけど、今回はダメージに期待していないので問題は無い。
暗闇に紛れる岩奇獣を燃やし、その灯りで全容を掴むのが目的。
(う~ん、これまたデカいな)
先程の岩奇獣は体長3メートル程だったけど、今度の奴はその倍以上。
暗闇の中に浮かび上がった炎のシルエットは、ボクが怯むのに十分過ぎるサイズだ。
(狭い洞窟なら身動き一つとれないだろうに……)
広い洞窟で意味の無い感想を覚えた後。
左手のナイフをクロに咥えさせ、思いっきり振るう!!
「“黒蛇:大鎌鼬”!!」
斬ッ!!
特大の斬撃によって岩奇獣の巨体にひびが入り、
「もう一発!!」
追加の2撃目で、身体が上下真っ二つに割れた!!
(蓄熱光石は……無いかッ)
このサイズ相手に出し惜しみはしない。
さっさと弱点の蓄熱光石を見つけようと切断したけど、残念ながら切断面には見当たらない。
ただし、下半身の方が動いたのは確認出来た。
蓄熱光石があるとすれば下半身。
上半身はもう警戒する必要が無い、という考えが間違っていたらしい。
下半身に狙いを定め、上半身から目を逸らした瞬間に“上半身が四散”する!!
「なッ!?」
完全に油断していた。
全方位を破壊する岩の砲弾がまき散らされ、注意を怠っていたボクの間近に迫る!!
最早避けきれる距離ではなく、何とかガードで凌ごうとした――その時。
「うおらッ!!!!」
“大男が姿を現し”、拳一つで無数の岩を吹き飛ばした!!




