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86話:いざ、洞窟探索へ

 ~ ドラノアとグラハムが洞窟に入ったその頃 ~


「んんッ~~」


 小さな犬歯をむき出しにし、可愛らしいあくびと共に獣人族の少女:テテフが目を覚ました。

 相変わらずドラノアのぬいぐるみで溢れた部屋の中。

 板が打ち付けられ、常に閉ざされている窓から外の様子を眺めることは出来ないが、それでも彼女は知っている。


 2年間、ゴミ山で太陽と共に行動していた彼女の中には、自然のリズムが刻まれている。

 自分が起きたと言うことは、外は既に日の出の時間だ。

 目の前には「姉」と慕う大好きなパルフェの、パジャマのはだけただらしない寝姿が映っているが、それでも眠りの時間は終わった。


「……おしっこ」


 誰に告げるでもなく呟き、自分を抱きしめるパルフェの胸と腕を退けてベッドから降りる。

 ペタペタと歩いて扉に手を掛け、廊下に出ようとしたところで――彼女は気づく。


 “何者かの視線”に。


「ッ!?」


 咄嗟に振り返ったテテフ。

 彼女の視界に明らかな人影は無かったものの、それでも彼女は見逃していなかった。

 自分が振り返るかどうかギリギリのタイミングで、大量に積まれたドラノアのぬいぐるみ――その隙間で光っていた“二つの赤い目玉”に。


「………………」


 テテフの眠気は完全に吹っ飛んだ。

 ぬいぐるみの隙間で光った二つの赤い目玉を見て、それから彼女は思い出す。



『最近の話なんだけどさ、夜な夜な“変な夢”を見るんだよね。皆が寝静まったあと、部屋の壁から“尻尾の生えた幽霊”が現れて、その尻尾をボク等にプスッて刺すんだ。まるで大昔にいた『吸血鬼族』みたいに、その尻尾で血をチューチューとボクの血を吸って――』



 昨日、ドラノアが話していた“真っ赤な幽霊”の話だ。

 ブルルッと身体を震わせ、改めてゾッとし、彼女は慌ててベッドに引き返す。


「大変だパルねぇ!! 部屋に何かいるぞ!! 肉じゃない何かだ!!」


「ん~……ん~~?」


「起きろパル姉!! 赤い目玉がいた!! 肉じゃない!!」


「ん~、何~? お肉がどうしたの?」


「だから肉じゃない!! 肉じゃない何かがいたんだ!!」


「……お肉じゃない何かを食べたいの?」


「だから肉は関係ないって!!」


 不用意な発言でパルフェの理解が遅れたものの、それから何度も同じ話を繰り返す。

 その甲斐あって「ぬいぐるみの隙間に赤い目玉の何かがいる」という話を理解したパルフェは、しかしそれよりも先に別の事実に気づく。


「あれ、ドラの助がいない。トイレかな?」


「アイツは今どうでもいいッ。それよりも赤い目玉、どうするんだ?」


「ん~、どうするって言われても……あの辺から見てたんだよね?」


「うん、ぬいぐるみの隙間からアタシを見てた。きっと“きゅーけつ幽霊”だ。あのバカが話すから出て来たんだ。アイツ殺す」


「こ~ら、そんな言葉使っちゃ駄目だよ」


 テテフの唇を人差し指で抑えて「めっ」と叱るパルフェ。

 ちょっと不服そうなテテフが「ごめんなさい」と謝ってのを確認し、はだけていたパジャマを着直してから壁の方に視線を向ける。


「あの辺りって確か……ちょっと見てくるね」


「ち、近づいて大丈夫か?」


「多分ね。私の記憶が正しければ……ほら、きっとコレだよ」


 パルフェがぬいぐるみの壁が崩し、その奥から出て来たのは“一枚の絵画”。

 大き過ぎず小さくも無い額縁に飾られている風景画で、その半分ほどは染料が剥がれている。


「そんなところに絵があったのか。で、赤い目玉は?」


「え?」


「赤い目玉。その絵には描かれてないぞ」


「確かに、それもそうだね。じゃあテプ子が見た赤い目玉って何だろう?」


「えぇ……」


 何かわかったのかと思ったら、何もわかっていなかったパルフェ。

 その後も二人で議論を重ねたものの、赤い目玉の正体がわかる筈もなく、最終的には“絵を裏返して壁に戻す”ことでこの件は終わった。


 “数時間前にドラノアが絵を裏返していた”事実も知らぬまま。

 つまりは、裏返されていた筈の絵が、この数時間で“勝手に表を向いていたこと”も知らぬままに――。



 ■



 ~ ドラノア視点::パルフェが二度寝に入ったその頃 ~


 『Closed World (閉じられた世界)』の大穴:5408番洞窟。


「へぇ~、結構中は広いんだね。流石に外よりは暗いけど……」


 洞窟に足を踏み入れ、ボクが最初に思ったのはそれだ。

 何となく「狭い」イメージを洞窟に持っていたけれど、この5408番洞窟はかなり中が広い

 光量に関しても真っ暗という程ではなく、ところどころ顔を覗かせる蓄熱光石レイジナイトが“日没前”程度の光をボク等に与えてくれている。


 コツンッ。

 おじいちゃんが杖で蓄熱光石レイジナイトを叩くと、手のひらサイズに砕けた石がキラキラと光を発しながら地面を転がった。


「それを持っておれ。場所によっては完全な暗闇となる所もあるじゃろう」


「りょーかい」


 これがライト代わりらしい。

 松明やヘッドライトの方が「洞窟を冒険している感」が増すけれど、別に遊びに来た訳ではないので周囲を照らせれば問題無い。


「パッと見た感じ、人の手が入ってる感じはほとんどないね。大がかりな採掘はされてなさそうだし、もしかして宝石が採れるチャンスかも?」


「なんじゃ、石っころに興味があったのか?」


「別に興味あるって程でも無いんだけど、でもほら、お土産に何か持って帰らないと文句言われそうだし。ダイヤモンドとか凄い宝石が採れたらラッキーかなって」


「ホッホッホッ。それは最早お土産の域を超えておるな。まぁ採れる可能性がゼロとは言わぬが、確率的にはもっと下層で狙うべきじゃろう。下の方ほどレアな鉱石も多い」


「まぁそうだよね。ボクも簡単に宝石が見つかるとは思ってないけど――ん?」


 スッと、視界の隅を何かが横切った。

 決して大きなモノではなく、ネズミサイズの小さな何かだと思ったら、その感覚通り“ネズミ”だ。

 ただし、身体は僅かに青みを帯び、心なしか岩の様にゴツゴツと角ばった身体で、小さな蒼い石をカジカジと齧っている。


「アレは……ネズミでいいんだよね?」


「左様。その名も岩鼠ガンチューと言ってな、鉱石を喰らう『Closed World (閉じられた世界)』にしか生息しないネズミじゃ。鉱石や宝石類を好んで喰らう為、この世界では“害獣”扱いされて忌み嫌われておる」


「そうなんだ? ただ生きてるだけなのに可哀想だね。見た目も案外可愛らしいのに」


「そう思うのは勝手じゃが、しかしあの岩鼠ガンチューが齧っておるのが、“宝石のサファイア”だとしても同じセリフが言えるか?」


「え?」


 サファイアを、食べてる?



「“鎌鼬かまいたち”!!」



 前言撤回。

 可哀想などという気持ちが掻き消えた一撃は、しかし、小さくてすばっしこい生き物には命中しない。


 僅かに逸れた一撃が、岩鼠ガンチューのすぐ横で「ガキンッ」と弾かる。

 その音に吃驚した岩鼠ガンチューは、小さく跳び上がって暗闇へと逃げてしまった。


「くっ、逃げ足の速い奴め!!」


「ホッホッホ。つい先ほど“可哀想”などというセリフを吐いた人物とは思えぬな」


「時間を止めておじいちゃん!! 今ならまだ間に合うかも!!」


「……おい、ワシを過労死させる気か? 本気でキレるぞ?」


 冗談半分・本気半分で放った台詞に、本気のジト目が返って来た。

 やはりおじいちゃんの“魂乃炎アトリビュート”はそう簡単に使える代物ではないらしく、ここは素直に引いた方が身の為だろう。



 それからしばらく――。 

 洞窟内部を道なりに、分かれ道では砕いた蓄熱光石レイジナイトを目印として残しながら進んだ。

 そして、これまでの暗がりが嘘の様に「明るく開けた場所」に出る。


「おぉ、“地底湖”だ。綺麗だね」


 高さ10メートル、幅30メートル以上はあるだろう円形に近い地底湖。

 岩肌からは多くの蓄熱光石レイジナイトが露出しており、水中にもある蓄熱光石レイジナイトが天然のライトアップを施している為かなり見栄えが良い。


「ここまでの道を整備したら観光資源にもなりそうだね」と、まともな提案をしたら「ホッホッホ」と笑われた。


「上層の洞窟ならいざ知らず、中層以降の洞窟を観光目的に利用するのは関心せぬな。死亡事故が多発するのは目に見えておる」


「え、そう? 道を整えて照明を設置すれば大丈夫でしょ。ここまでは落ちるような穴も無かったし、遭難もしないと思うけど」


「ふむ、早合点してもらっては困るな。中層以降の洞窟が危険なのはまた別の理由じゃ」


「別の理由? それって――」



 バシャッ!!



 予定外の音に振り向き、予想外の光景に目を見張る。

 水飛沫と共に、水中から直径2メートル程の“岩”が飛び出してきた!!


 しかもどういう訳か、ボク目掛けて突撃してくる!!

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