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84話:展望台からの眺め

 幾重にも重なる鉄骨のアーチ橋。

 その上を行き交う多数のトロッコと、下を行き交う無数の人々。

 埃と雑踏と喧騒が入り混じる、汗臭くも賑やかな世界。


 ――ここは『センターコロニー』。

 岩盤をくり抜いて作られた建築物が並ぶ、『Closed World (閉じられた世界)』最大級の街だ。


 それは同時に「採掘目的の男性」が多く訪れる土地であり、人口の割合は「男性:8/女性:2」、もしくは「9:1」。

 不法な渡航でやって来たボクが言うのもなんだけど、必然的に血気盛んな人間も多く、トラブルが絶えないのは少々気が滅入る。


「は、離して下さい!!」


 声を上げたのは若いエルフ族の女性で、その前には彼女を足止めする中年のおじさんが二人。

 どうやら運の悪いことに、出勤途中で彼等に絡まれてしまったらしい。


「うひょー、やっぱエルフ族は美人だな。なぁ嬢ちゃん、ちょっと俺達と飲もうぜ?」

「ほら、換金したばっかで金もたんまりあるぜ? 悪いようにはしねぇからよ。いいだろ?」


「そう言われても、私これから仕事なんです。急がないと遅れちゃいますし……」


「別にいいじゃねーか、仕事なんて遅れてもよぉ。俺達がその分金をやればいいだろ?」

「そうだぜ嬢ちゃん。所詮は金が欲しいんだろ? だったら俺達と楽しく飲んで、それで金を貰えばいいじゃねーか。俺達は美人と楽しく飲んで、嬢ちゃんはタダで酒が飲めて、一石二鳥だろ?」


「いいから離して下さい!!」


 絡まれたエルフ族の女性が大声を上げるも、男性二人はそれを聞いて益々ニヤニヤと笑みを深めるだけ。

 周囲の人間は関わりたくないのか、スッと視線を逸らして足早にその場を去ってゆく。

 面倒事に首を突っ込みたくない気持ちはわかるけど、誰も助けの手を差し伸べないのは流石に彼女が可哀想だ。


「ねぇ、ちょっといい」


「あん? 何だチビガキ、テメェに用はギャンッ!?」


 ジャンプと共に股間を蹴り上げると、男が変な声を上げて地面をのた打ち回った。

 当然、もう一人の男がいい顔をしない。


「テメェ、俺のダチに何しやギャンッ!?」


 こちらも同じく股間を蹴り上げ、二人の悶絶タイムが幕を開ける。

 それなりに力は込めたので、当分は起き上がれないだろう。


「大丈夫? 災難だったね」


「あ、ありがとう……あの、お名前は?」


「それよりも、さっさと逃げた方いいよ。あ、でもその前に“ガルム展望台”が何処にあるか教えてくれない? あちこちに高台があるから困ってるんだけど」


「ガルム展望台? それならあっちの高台にあるけど……」


「そっか、ありがとね。それじゃ」


「あっ――」


 腕を伸ばし、エルフ族の女性が引き留めようとするも、それに捕まるわけにはいかない。

 公衆の面前で大の大人二人が股間を蹴り上げられるという、ある意味で由々しき事態だ。

 嫌でも人目を引いてしまう為で、ボクは「ありがとうございます!!」と今一度聞こえて来た声を無視し、早々にこの場を後にした。



 ■



「ホッホッホッ。少々来るのが遅かったな。寄り道でもしておったか?」


 メモ書きにあったガルム展望台。

 『Closed World (閉じられた世界)』を形成する外壁、その一角に設けられた展望台へと辿り着くと、おじいちゃんから幾分ふざけた台詞が返って来た。

 抵抗の為に「一人だけ逃げるなんてズルいよ」というジト目を向けてみるも、効果的だったとは言い難い。


「まぁそう怒るな。中々に良い眺めじゃぞ? ホレ、ここなら大穴がよう見える」


「………………」


 ボクの怒りなど眼中に無いらしい。

 これ以上の抵抗は無意味と諦め、大人しく展望に目を向け――息を飲む。


(なるほど、確かに凄い大穴だ。それに負けない“柱”も)


 渡航直後に間近で見ているとはいえ、やはりこの二つを抜きに『センターコロニー』は語れないだろう。


 空洞世界の中央にぽっかりと空いた「巨大な大穴」は、存在しないが故の大きな存在感を放っている。

 その大穴の中央にはこれまた立派な「石柱」がそびえ立ち、底の見えぬ穴の下から洞窟世界の天井までを繋いでいた。


 そして“繋いでいる”で言えば。

 大穴の端から中央の石柱を繋ぐ「巨大な4つの橋」も立派だけれど、やはり「世界の大黒柱」とでも言わんばかりの存在感を放つ「柱」と「大穴」の前では、影が薄くなるのも致し方ない。


「改めて見ても凄い世界だね。何がどうなったらこんな構造になるのか……いやまぁそれはともかく。結局、何の為に『Closed World (閉じられた世界)』に来たの? やっぱり採掘してお金稼ぎする為?」


「ホッホッホ。それが出来ればラッキーじゃが、余程珍しい鉱石でもないかぎり“物量”がなくてはビジネスにはならん。今回のメインは“組織の目的”を達することにある」


「目的……確か『世界管理術』だっけ? 新たな世界を創造出来る、神の“魂乃炎アトリビュート”があるって」


「それは最後の最後じゃ。その前段階として、旧世界である地球へ行かねば始まらん。――ここからは少し長くなる。歩きながら話そう」


 クルリと背を向け、おじいちゃんは急ぎ早に展望台を降りてゆく。

 高台に着いて早々の撤退に溜息も出るけど、後ろの方からはガヤガヤと賑やかな団体客もやって来た。

 大事な話をするなら別の場所がいいだろうと、小走りで後を追い、追いつくかどうかのところでおじいちゃんが口を開く。


「先に答えを言うておくと、隠された地球へ行くには“特別な扉”を使う必要がある。その名も『原始の扉』と言って、この『AtoA』に4つ存在しておる」


「4つ……結構あるんだね。滅茶苦茶重要そうなのに」


「26世界で4つしかない物を、多いと捉えるか少ないと捉えるかは人による。ただ、言うまでもなく『原始の扉』を見つけるのは至難の業じゃぞ。そう簡単に見つかる場所にはないし、実際ワシが把握しておるのも2つだけ。残り2つは何処の世界にあるか皆目見当もつかん」


「むしろそんな重要な物を、既に2つも把握してることに驚きなんだけど……どうやって調べたの?」


「ホッホッホッ。お主が組織に来る前からワシ等は動いておるからな」


 いつもの笑みを浮かべただけで、具体的な方法は教えてくれない。

 ここで食い下がっても時間の無駄だろうと、ボクは話を進めることにした。


「それで、場所がわかってる『原始の扉』は何処にあるの?」


「1つは『After World (はじまりの世界)』、更に言えば『全世界管理局』の本部じゃな」


「なるほど。まぁ当然と言えば当然か」


 旧世界:地球へ行ける扉。

 にわかには信じがたいそんな代物が本当にあるのだとすれば、『全世界管理局』としても最低1つは手元に置いておきたいだろう。

 ある意味では予想出来ていた答えで、問題はその先だ。


「まさかとは思うけど、『全世界管理局』の本部に突撃する訳じゃないよね?」


「それこそまさかじゃ。本部とガチンコ対決したところで、圧倒的戦力差を前に敗北するのは目に見えておる。最初から負けいくさとわかった戦いをするつもりはない」


「負けいくさって、おじいちゃんの力を持ってしても?」


「あそこには“ワシの天敵”がおる。なるべく相まみえたくはないのぉ」


 スッと目を細め、おじいちゃんはここではない何処かを見た。


 ――時間を止める“魂乃炎アトリビュート”。

 発動さえすれば、相手が誰であろうと問答無用でおじいちゃんの勝ち、という単純な話でもないらしい。


「となると、ボク等が狙うのはもう一つの『原始の扉』ってこと? それは何処に……あっ」


 尋ねた時点で答えは出ていた。

 コクリとおじいちゃんが頷く。


「ここ『Closed World (閉じられた世界)』にある。先ほど展望台から大穴を見たと思うが、“無数の横穴”があったことには気づいたか?」


「あ、うん。採掘の為に掘られた穴でしょ?」


「一部はな。ほとんどは天然の洞窟で、その中の何処かに『原子の扉』が隠されておる」


「そうなんだ? でも洞窟をにあるってわかってるなら、虱潰しに探せば見つかりそうだね」


「ホッホッホ。口で言うのは簡単じゃが実行に移すのは難しいぞ?」

 気軽な感じで答えたボクに、おじいちゃんは意地悪な笑みを浮かべる。

「大穴の底へ辿り着くまでに“万を超える”洞窟があり、更にその中でも無数に枝分かれをしておる。内部の構造が全てわかっておる洞窟は5%にも満たん。これで虱潰しに探すなどとよく言えたものじゃな」


「えぇ、そんなに大変なんだ……じゃあ何でボクだけ連れてきたの? 明らかに人手が足りてないでしょ」


「足手纏いが欲しいのか?」


 実にキッパリと、何の躊躇いもなくおじいちゃんは口にした。

 隠れ家(アジト)に残された面子的に、医者であるコノハを除いた二人を指しているのは間違いない。


「その言い方はどうかと思うけど……」


「言い方など問題ではない。それにどのみち“今回は様子見”じゃ。見るべきものを見たら今日はすぐに戻る」


「見るべきものって?」


 スッと、おじいちゃんが杖で下を指す。


「百聞は一見に如かず。実際に洞窟へ入ってみるぞ」

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