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9話:『Fantasy World (幻想世界)』幻想世界)』

「ぷはッ!!」


 少女が飛び跳ねる様に上半身を起こしたのは、ボク等が落ちた湖のそば。

 見渡す限りの広大な大地に咲き誇る、電球の様に発光する花々の丘陵地帯での出来事だ。

 深めの呼吸を「はぁ、はぁ」と繰り返し、周囲をキョロキョロと見渡して、そこで彼女の視線がボクと重なる。


「……どちら様?」


「いや、それはボクの台詞なんだけど。キミこそ誰?」


「私? 私は『パルフェ』で……あれ? ちょっと待って、何で私の身体が濡れてるの?」


「湖で溺れてたんだよ。覚えてないの?」


「私が溺れた? 湖で?」


 そんな馬鹿なと訝しむ顔をした直後、パルフェと名乗った少女は「あっ」と声を上げた。


「そう言えば空から湖に落ちたんだっけ? それで水草に絡まって溺れた記憶が……ってことは、キミが助けてくれたんだ?」


「えーっと……まぁそんなとこかな」


 とりあえず肯定はしたけれど、正直なところ確証はない。

 “アレ”が夢だったのか現実だったのか、今となっても釈然としていない。

 

(口から黒いヘビが出て来て、ボクと彼女を岸部まで運んでくれた――なんて言っても信じてくれないよね。そもそもボクが信じてないし)


 アレは現実世界でボクが見た夢、白昼夢。

 ユラユラと揺れる長い水草を、朦朧としたボクの頭がヘビと見間違えた、という線が濃厚だろう。

 彼女に絡まった水草も千切れ、ボクと一緒に運よく岸部まで流れ着いたと、そういうことにしておこう。


 むしろそれ以外に何があるのか、それはボクが聞きたいくらいだ。

 

(……地獄でボクが食べちゃった黒いスライムと、何か関係あるのかな?)


 ふと頭にそんな考えが過るも、結局のところ答えは知りようもない。

 わかっているのは何とか脱獄に成功し、そして何とかこうやって生きていることだけ。


「いやー、助けてくれてありがとね。流石の私も死ぬかと思ったよ」


 そう口を開いたパルフェに、パッと見たところ大きな傷も見当たらない。

 服はまだ濡れているけれど気温的には暖かいし、これ以上のケアは必要ないだろう。


「元気そうで何より。それじゃあボクはこれで」


 さぁここからは本格的に一人行動だ。

 予期せず『Fantasy World (幻想世界)』に来てしまったものの、本来は『Lawless World (無法世界)』に向かう予定だった筈。

 はてさてここからどう動いたものかと、とりあえず遠方の街に向けて足を踏み出したところで、「グイッ」とボクの腕が引っ張られた。


「ねぇ、街まで行くなら一緒に行かない?」



 ――――――――



「えっ、パルフェって地獄へ“遊び”に来てたの?」


「うん。地獄には秘湯が沢山あってね、それをコッソリと回ってたの」


 街まで一緒に、という彼女の提案を断ってもよかったけれど、逆に言えば強く拒否する程の理由も無い。

 歩き始めた今でも心の中では温泉に浸かっているのか、パルフェがのほほんとした顔で口を開く。


「まぁ私って別に管理者じゃないし、本当はそんな事しちゃ駄目なんだけどね。温泉も管理者用の物だし、そもそも勝手に地獄を歩き回っちゃ駄目だから」


「だよね。地獄へ遊びに行くなんて聞いたことないし……」


「えへへ、でもすっごく気持ち良かったよ♪」


 凄い大物か、ただの馬鹿か。

 どちらにせよ解けたアイスみたいに緩んだその顔を見て、こちらまで気持ちが緩みそうになる。

 ただ、それは流石に緊張感が足りないというか、そもそも今の状況を理解していないという他ない。


「あのさパルフェ、ボクの邪魔をしたってことわかってる? 行きたかったのはこの世界じゃないんだけど」


「わかってるわかってる、ちょー感謝してるって。私もさ、どうやって地獄から出ようかなー悩んでいたところだったし、感謝してもしきれないレベルだね」


「別に感謝されたい訳でもないんだけど……(はぁ~)」


 早くも頭が痛くなってきた。

 あまりの緊張感の無さに気が抜けそうにもなるけれど――。

 

(ん? っていうか、どうしてパルフェはあの時に“動いていた”んだ? おじいちゃんが時間を止めていた筈なのに)


 窮地を脱し、ようやくその事に頭が回る。


「ねぇパルフェ」


 どうしてあの時動いていたのか、それを尋ねようとしたところでボクの瞳が捉えた。

 花畑の丘にポツポツと点在する大きな岩、その岩陰に隠れている“全身を鱗で覆った巨大トカゲ”を。


「何? どうしたの?」


「――気を付けて、あそこに“幻獣:サラマンダー”がいる」


「え?」


 ギョッと目を見開く彼女を後ろに下げ、逆にボクが前に出る。


 繰り返しになるけれど、『Fantasy World (幻想世界)』は3つのお月様が照らす「常夜の世界」だ。

 三眼の如く世界を見下ろす月の光には“不思議な力”が宿っていて、この世界に生きる生物は稀に“異様な成長”を遂げる事がある。

 それら異様な成長を遂げた生物を、人々は畏敬の念を込めて『幻獣』と呼んだ。


 当然、岩場の陰に見つけた“サラマンダー”も、そんな幻獣の一種となる。


 死の淵から生還した直後の遭遇に辟易するものの、サラマンダーからすればこちらの都合など関係無い。

 目の前に食事が現れたから襲おう、くらいにしか思っていないだろう。


 パルフェが「ひッ!?」と怯えたのを好機と捉えたか、岩陰から飛び出したサラマンダーが大きな口をグワッと開く。

 野性味漂う口内が真っ赤に輝き、ボク等目掛けて“火炎”を放った!!


「危ない!!」


「きゃッ!?」


 問答無用でパルフェを押し倒し、花畑をゴロゴロと転がって火炎を回避。

 すぐさま立ち上がり、「伏せていて」と彼女に告げてからボクは腰のナイフを抜いた。


『グルルル……ッ』


 低い音で喉を鳴らし、火炎を避けたボクをサラマンダーが睨む。

 ナイフを片手にこちらも負けじと睨み返すも、その行為が気にくわなかったらしい。

 大きな咆哮の後、すぐさまこちらに突進してきた!!


(随分と攻撃的だけど、むしろ望むところッ)


 小柄なボクと、ボクの3倍はあるサラマンダー。

 正面衝突では勝てないので、身体を捻って衝突を避け、すれ違い様に一撃を入れる!!


「くッ、結構硬いな!!」


 多少の手ごたえはあったものの、最終的には硬い鱗によってナイフが弾かれた。

 その鱗に生まれた浅い傷がノーダメージでは無かったことを証明しているものの、この調子では倒すまでに何時間必要かわかったものではない。


(せっかくだし“アレ”を試してみるか。さっきは“火葬地獄かそうじごく”も問題なく出せたし、今のボクなら出来る筈だ)


『ガァアアア!!』


 鱗を傷つけられた事に怒ったのか、サラマンダーが再び火炎を放つ!!

 その火炎を走って避け、目の前まで近づいたボク目掛け、サラマンダーが大口を開けて噛み付く!!


 ガキンッ!!

 大きな牙が痛々しい音を立てるも、牙は空を噛んだ。

 身を屈め、牙を逃れたボクは僅かな隙を晒したサラマンダーの懐に潜り込み、“瞼を閉じる”。



 蘇るのは4000年前の記憶。

 ジーザスの策略によりボクは地獄に落とされた。

 あの日から4000年。

 殺し合いの4000年を経て、ボクは確かに成長した。

 地獄の日々を耐え抜き、そして今日“あの鬼”を超えたのだ。



 ――パチリ。 

 瞼を開き、全神経をナイフに集中させ、思いっきり振るう!!



 “鎌鼬かまいたち”。



 最速で振るったナイフ、その太刀筋から生まれた「斬撃」。

 ボクの教育係だった赤鬼の獄卒、その代名詞にしてボクが7回も殺された技。

 地獄で7度も苦しめられた忌まわしい斬撃が、鱗で覆われていないサラマンダーの喉元を斬り裂く!!



『ギャァァァァアアアアアアアア!!!!』



 盛大な悲鳴を上げてひっくり返るサラマンダー。

 狂ったようにその場でのた打ち回り、噴水の如き血飛沫で花畑を真っ赤に染め上げたところが、活動の限界。

 やがてピタリと動きが止まり、3つのお月様に見守られながら呆気なくその命を終えた。



 ――――――――

*あとがき

 脱獄編となる「序章」はこれにて終了です。

 次から「1章」の「『Fantasy World (幻想世界)』編(ジーザスへの復讐もここで)」に突入しますが、その前に一旦挿絵を挟みます。

 キャラクターのデザイン画と背景のイメージボードを載せていますので、興味ある方はご覧ください。

 なお、そういったモノを見たくない方は遠慮なく飛ばして頂いて大丈夫です。

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