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76話:壊れた街で人探し

 ――パチリ。

 本日2度目の目覚めを迎えた時、そこには蜘蛛の巣が張られたボロボロな天井があった。

 

(この荒れ具合は……ボク等の部屋か?)


 パルフェに抱き着かれて気絶した後、どうやらこの部屋に移されたらしい。

 まぁ実際のところは「コノハに追い出された」と言った方が、表現としては正しそうな気もするけれど、それはこの際どちらでもよい。


 ぬっと、寝起きの視界に「顔」が入って来た。

 今にも鼻がくっつきそうな至近距離に“目を瞑った”パルフェの顔がある。


 ……“口が半開き”だ。

 そこからタラリと垂れた“粘性のある液体”がボクの口に入って来たのは、これはもう見間違いなわけがない。


(蜂蜜だ。甘くて美味しいなぁ……じゃなくて)


「何してるの?」


「わわッ!?」


 驚き、飛び跳ねるようにパルフェが上半身を起こす。

 が、ボクの上から退くことはせず、馬乗り状態のままボクの両頬をむにっと掴んだ。

 それから大きく息を吸い――



「無理しちゃ駄目でしょ!!」



 ――いきなり怒鳴られてしまう。


「えっと……」


「何で一人で全部抱えて突っ込んだの!? 相手は凄い賞金首だって聞いたよ!? もし死んでたらどうするの!?」


「いや、でも状況的に……」


「言い訳は聞きたくない!! もっと自分の命を大事にしてよ!! ドラの助の命は、ドラの助だけの物じゃないんだよ!?」


「それはその、ごめ――」


「謝らないで!! 謝るくらいなら最初から無茶しないでよ!! だけどッ、生きてたから今回は許す!!」


「え? あ、ありが――」


「2度目は無いからね!? また勝手な事したらッ、一生鎖に繋げてッ、この部屋で飼い殺しにするんだから!!」


「………………」


 怒涛の叫び。

 心からの大声を張り上げ、パルフェが「ふぅ~」と落ち着いた。

 ただただ呆気に取られていたボクだけれど、それでも彼女の言葉はきちんと心に届いている。


(飼い殺しは、流石に勘弁だね……)


 パルフェなら、嘘や冗談ではなく本当にやりそうで怖い。

 テテフの仇を打つ為・街を守る為に戦ったボクが、どうしてそんな目に合わなければならないのか――というのがボクの言い分だけれど「しかし」だ。

 状況的に止むを得なかったとしても、それでも。

 詳しい事情を説明しないまま、ピエトロに挑んだのは自分勝手が過ぎたかも知れない。


 実際問題。

 最終的にボクが勝ちはしたものの、一度は負けて死にかけている。


 もしもあの時、テテフの“魂乃炎アトリビュート”が発動しなかったら……それを思うとゾッとする。

 加えて、ボクが勝てたのは、そんなテテフの加勢もあったおかげで――ん?


「そう言えば、さっきからテテフの姿が見えないけど……」


 ふと気が付いたので、何気なく尋ねる。

 すると急にパルフェの顔が暗くなった。


「……出て行っちゃったの」


「出て行った? この隠れ家(アジト)を?」


「うん。最初はね、テプ子と一緒にドラの助を看病してたの。でも今朝になって、思いつめた顔で急に飛び出して……私、すぐに追いかけたんだけど、空を飛んでったから追いかけようがなくて」


 そして、パルフェはボクにお願いをする。

 毎度の様に自分勝手で、だけど奇遇にも、ボクが今からやろうとしていた事を。


「お願い、テプ子を連れ戻して」



 ■



 3日ぶりに目覚めた身体。

 まだまだ痛みは残っているものの(主に腹部に)、ある程度慣れれば動けない程では無い。


 パルフェに“とあるお願い”を託した後。

 ボクはテテフを連れ戻す為、痛む身体に鞭を打って隠れ家(アジト)を出た。

 悲惨な現状を映し出す、崩壊した街中へと――。


「……酷いなコレは」


 予めわかっていたことだし、自分でも一度は目にしていた光景。

 それでも改めて見ると、容赦なく破壊された街の惨状に言葉を失う。


 最初に訪れた街と同じ――いや、それ以上か。

 ボク等が『Lawless World (無法世界)』へ来た時、無法集団アウトライブに略奪されて破壊されていた街があった。

 アレも十分酷い有様だったけれど、それでもまだ建物の原型を留めているモノは多々あった筈。


 ここにはそれが無い。見通しが良すぎる。

 隠れ家(アジト)のあるブロック以外、ほぼ全てが壊滅状態だ。


(……こうなってくると、無事だった隠れ家(アジト)に違和感を覚えるレベルだね。少々特殊だってコノハも言ってたし、何かしらの力で守られてるのかな?)


 原型を留めている建物は隠れ家(アジト)を含めて極僅か。

 これをただのラッキーと考えるか、何かしらの力が働いていると思うべきか、今ここで考えても答えはきっと出ないだろう。


 状況確認は早々に切り上げ、ボクは破壊された街でテテフの捜索を開始した。



 ――――――――



「はぁ、はぁ……駄目だ。何処にもいない」


 瓦礫ばかりの街中を回り、わかったことは2つだけ。


 1つ、テテフが全く見つからないこと。

 2つ、多くの人が街を去っていること。


 ベックスハイラントを目指す際に、ボク等が辿って来たゴミ街方面――南側の線路は損傷が激しく、復旧の目途も立っていない。

 逆に、地下へと続いていた反対の北側線路は、瓦礫を退かせば何とか運航が出来るレベルだったらしい。


 あれから三日が経ち、大勢の人が北側の線路で他の街へと移っていた。

 ここで街が復興するまで頑張るより、さっさと別の場所に移った方がメリットも多いと踏んだのだろう。


 現実的な問題として。

 この街に思い入れがあって出て行きたくない人がいたとしても、物資が運ばれてこない限り、こんな山の上での生活は困難を極める。

 街が経済活動を出来なければ住み続けることも敵わず、人が出て行くのも自然の流れ。


 正に今も、広場へ到着した列車に、大勢の人が大きな荷物と共に乗り込んでいる真っ最中だ。


「さぁさぁ皆さん、間もなく北の街へ向けて出発しますよ!! 乗り切れない人は次の列車に乗って下さい!!」


 大声を張り上げ、車掌が混雑しない様に皆を誘導している。

 それを無視し、「我先に」列車へ乗ろうとする人達がなんと多いことか。

 真面目にちゃんと並んでいた人達が、順番通りに乗車出来ることを願うばかりだけれど、実際は他人を押しのけて乗った者が、そのまま我が物顔で乗り続けるのだろう。


 ちなみに。

 当然のことながら、大声を張り上げる車掌は初めて見る顔だ。

 ボクが戦った車輪を操るディグリードではない。


「そう言えば、コノハからピエトロの話は聞いたけど……ディグリードはどうなったんだろう? 誰か拘束してくれたのかな?」


「奴なら既に連行されたぞ」


「ん?」


 振り返った先にいたのは、誰かわからない人だった。

 スーツ姿で大きな旅行鞄を携えているけれど、ビジネスマンにしては無駄にガタイがいい。

 年齢は30代半ばといったところか。


「えっと……」


「ハハッ、ただの“しがない警備兵”を覚えてる訳もねぇか。お前さんが老人と一緒にいる時、一度声を掛けたんだが」


「おじいちゃんといる時に? ――あぁ、ボクに入場許可証タウンパスを見せろって言ってきた人?」


「おっ、よく覚えてたなチビ助。街の英雄に覚えてもらっていたとは俺も鼻が高いぜ」


 鼻の下をこすりながら、男性は眩しいほどの笑顔で快活に笑った。


 彼との邂逅は、ほんの僅かな時間の話。

 思い返して、「そう言えばそんな人がいたかも?」程度の相手だが、人が去り行く寂しさにあふれた街では、その笑いが少しだけ頼もしくも思える。


「この惨状でボクを“英雄”と呼ぶのは流石に褒め過ぎだけど……それより、さっきの話は本当? ディグリードが連行されたって」


「あぁ、確か二日前だったか。この街に管理者連中がやって来てな、俺達が拘束していたディグリードをそのまま連れて行ったんだ。その内の一人は、無法集団アウトライブの残党かと思うくらいに柄が悪かったが、まぁ一応本部の管理者だったしな。素直に身柄を引き渡したよ」


「ふ~ん? まぁ連行してくれたならそれでいいけど」


 ガラが良かろうが悪かろうが、仕事をしてくれるなら別にいい。

 むしろ厄介事しかない『Lawless World (無法世界)』によくぞ来てくれた、という感じか。


「それじゃあチビ助、元気でな。また何処かで逢ったらジュースの一杯でも奢らせてくれ」


「そこは普通お酒じゃない?」


「ハハッ、チビ助が言うねぇ。その台詞はもっと大きくなってからにしろ」


 コツンと頭を小突かれ、それから男性は大きな旅行鞄を改めて背負い直した。

 その大きな、そして寂し気な背中にボクは思わず声を掛ける。


「あ、待って。テテフを――獣人族の少女を見なかった? 銀髪でボクよりも小さい子なんだけど」


「ん~~、悪いが見てないな。この状況だし、もう街を出たんじゃないか?」


「そっか……そうかもね」


「お前も街を出るなら早めにな。臨時の列車がいつまであるかわからねぇし、取り残される前にさっさと出た方がいい。先日降ったゴミの中には、“危ねぇモンが混じってた”なんて噂もあるからな」


 危ない物?


「何それ? どういうこと?」


「さぁな。俺も詳しくは知らねぇが、ディグリードを引き取った管理者がそんな話をしてたんだと。全く、物騒な話だぜ」


「そうなんだ……うん、一応気を付けるよ。ごめんね引き留めて。それじゃあまた何処かで」


「あぁ、また何処かでな」


 この言葉が別れの挨拶。

 男性は一度も振り返ることなく駅に向かって歩いて行った。

 廃墟と化した街このに、何一つ未練など無いかのように。

 もしくはそれを見せようとしないだけか、ただただ次の場所へと向かって歩いて行く。


「――さてと、テテフの捜索を再開しなきゃ」


 自ら鼓舞するように宣言したけれど、この街で彼女を見つけられなかった時点で、思いつく選択肢はそう多くない。

 先ほど男性が言った様に、本当にこの街を出て行ったか……もしくは、そうでなければ“1か所”に絞られる筈だ。

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