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74話:決着

「“瓦礫流竜巻ル・ダストロン”」


 ピエトロの一声で始まった、圧倒的な破壊劇。

 その攻撃範囲は“ベックスハイラント全域”だ。

 街のアチコチから響き渡る数多の悲鳴、それらを全てかき消す「瓦礫の竜巻」――無差別の殺戮兵器が、街中のあらゆる建物を破壊する!!


 瓦礫が建物を破壊し、破壊された建物の瓦礫が、更に別の建物を破壊する魔のループ。

 街中にいれば悪夢とでも言うべきをその光景も、上空の安全地帯から見下ろすピエトロには無害か。


(コレは流石に破壊が過ぎるが……四の五の言ってられる状況じゃねぇ。最低限、馬鹿共の金庫さえ無事ならそれでいい。どのみち換金が面倒な品は、無法集団アウトライブにくれてやるつもりだったからな)


「お前ッ、この竜巻を今すぐ辞めろッ!!」


 無差別の殺戮。

 それを止めようと、死に体の少年が黒ヘビをバネにして跳び上がって来るが、処理は簡単だ。

 渦を巻く瓦礫をいくつか操り、それをぶつけるだけ。


 爆炎を出して瓦礫を避けたり、黒ヘビの右腕で瓦礫を弾いたりと、少年に出来るのは防御一辺倒。

 腹の激痛で動きも鈍っているのか、上空のピエトロまでは全くと言っていいほど届かない。


「理解出来たか小僧、これが“実力の差”だ。多少トリッキーな動きが出来たところで、本物の強者には敵わねぇんだよ」


「……うん、確かにそうかもしれない。ボク一人なら厳しかったよ」


「あぁ?」


 一体何を言っているんだと、ピエトロが眉をひそめた直後。

 “殺気”を感じ、彼は咄嗟に身体を捻ったが――。



「ぐッ!?」



 右肩にナイフが突き刺さる!!

 それも“真上から”。

 彼は一瞬でその犯人を理解する。


「またお前かッ、テテフ!!!!」



 ■



 ~ テテフがピエトロの右肩を刺す、その少し前 ~


「……生きて」


「ッ~~!!」


 “この時”、確かに「死」を覚悟していたテテフは泣いた。

 ピエトロに投げ捨てられ、螺旋山の頂上から3000メートルを落下する最中。


 今に死に絶えてもおかしくない少年から聞こえて来た擦れ声に、死を覚悟していたテテフは泣いた。

 こんな絶望的な状況下で、自分に「生きろ」と投げかける少年の言葉にテテフは泣いた。


 ボロボロと止めどなく涙が溢れて来る。

 それは同時に、心の内から湧き上がった“とある思い”を増幅させる。

 

 僅か数秒後には「墜落死」――その未来を前にして、彼女は叫んだ。



「……嫌だ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないッ、アタシはこんなところで死にたくないッ!!!!」



 ドクンッ!!!!



 心臓が大きく脈を打つ。

 胸が燃えるように熱くなり、その身が焼けたのではないかと錯覚すら覚えた。


 そして気づいた時、テテフは少年を抱きかかえたまま“宙に浮いていた”


「え? これは……?」


 にわかには信じ難い光景。

 しかし、自分の胸で確かに“魂乃炎アトリビュート”が燃え上がっている。

 とても綺麗で、温かくて、でも同じくらい怖くて冷たい炎を見つめている内に、忘れていた筈の記憶も蘇ってきた。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ~ 2年前 ~


 螺旋街道でピエトロに追い詰められたテテフは、母親:エクドレアと共に螺旋街道から吹き飛ばされた。

 廃棄怪物ダスティードの一撃、その盾になったエクドレアは気絶するも、テテフは意識を保ったまま自由落下を始める。


 このまま下のゴミ山に叩きつけられれば、自分も母親も父の後を追うことになるのは明白だったが、そうはならない。

 母親から「生きて」と言われ、例えそれが無かったとしても死にたくなかったテテフは空中で暴れ、墜落寸前でエクドレアの手を離れる。


 直後、彼女の“魂乃炎アトリビュート”が発動。

 自分一人だけが墜落を逃れて、自分一人だけが生き残ったのだと、それがわかったのは――“変わり果てた母親の遺体”を眼下に捉えた時か。


「……え? ……え? やだ……あ……あぁ、いやァァァァアアアアアアアア!!!!」


 目の前で母親が死んだ。

 その現実と、母親を見殺しにしてしまった事実に、幼い少女の心は耐えられなかった。


 “魂乃炎アトリビュート”の発動すら無かったことにして、テテフはその時の出来事を頭の隅に追いやった。


 本能的に悟ったのだ。

 記憶の封印が必要だと。

 これ以上「心」が壊れない方法が、ただ唯一それだけなのだと――。



 ―

 ――

 ――――

 ――――――――



(……そうか、アタシはあの時……)


 ギュッと唇を紡ぐテテフ。

 突然思い出した2年間の出来事に、今にも大声を上げて泣き出したくなるが、しかし今はその時ではない。

 2年前は母親と別れてしまったが、今は自分の腕で少年を抱き留めている。


「まだ終わりじゃない。アタシも、こいつも、生きてるッ」


 “魂乃炎アトリビュート”の使い方は直感で分かった。

 瀕死の少年を抱えたまま、テテフは3000メートル上空の街を目指し、急上昇を始める。


 思い通りに“魂乃炎アトリビュート”を操れているのは僥倖。

 しかし、このままピエトロの元に向かったところで、実力的に返り討ちにされるのは目に見えている。

 宙に浮いたところで、ピエトロに勝てる未来がテテフには見えない。


「早く、コノハに見せなきゃ……ッ!!」


 かつて自分を助けてくれたあの医者なら、きっと少年のことも何とかしてくれる筈だ。

 それを願って上昇を続けるテテフの耳に、再び先程の擦れ声が届く。


「時間が……惜しい。このままボクを……ピエトロの、元に」


「何言ってる!? お前死にかけだぞ!! 腹にだって穴が開いて――ッ!?」


 ここでテテフは気づいた。

 少年の腹に空いていた穴、背中まで貫かれたその穴が“真っ黒な物体で塞がれている”事実に。

 これが凝固した血液でなければ、残る可能性は一つしかない。


「お前、それって……」


「ボクなら、大丈夫……まだ戦える」


「嘘つけッ、その身体で戦える訳ないだろ!! それにピエトロの方が実力は上だ!!」


「今度は、負けない……考えもあるんだ。お願い……ピエトロの元に……ッ!!」


 脅しか、懇願か。

 どちらにも思える瞳で自分を見つめる少年。

 文字通りの命を懸けたその瞳に、テテフは抗うことが出来なかった。


「ッ~~あぁもうッ、わかった!! わかったから喋るな!! 奴の所までアタシが連れてってやる!! だけど絶対に死ぬなよ!?」


「……ありがと」


「だから喋るなって!!」



 かくして。

 九死に一生を得たテテフは、同じく九死に一生を得た少年を抱えて3000メートルを一気に上昇。

 約束通り少年をピエトロの元に届け、二人の戦いを“更にその上空から見守りつつ”手助けする機会を伺うこととなる。



 ■



 ピエトロの右肩にナイフを刺したまま、テテフは叫んだ。


そらが得意なのは、もうお前だけじゃない!! アタシはッ――アタシ達は勝つ!!」


「ほざけッ、所詮は死にぞこないのガキ二人だ!! 雑魚が手を組んだところで俺に勝てるものか!!」


「それでもアタシ達は勝つ!!!!」


「なら、まずはお前から――ッ」


 ゾクリと、ピエトロの背筋が凍る。

 目を離したのは一瞬だった筈だ。


 しかし、その一瞬が命取り。

 振り返った先には、蜷局を巻いた黒ヘビを構える少年の姿があった。


 ピエトロは咄嗟に足場の瓦礫を「盾」に出すが、


(くそッ、瓦礫が足りねぇ!!)


 足場の瓦礫1つというその貧相な「盾」は、黒ヘビによって呆気なく弾かれる!!


「これで終わりだピエトロ!!」


「まだだ!! “瓦礫ルブル――”」


 瓦礫の竜巻を動かして彼にぶつけようとするも、間に合わない。

 盾を失ったピエトロに、顎が外れる程に大きく口を開けた黒ヘビが迫り、



「“黒蛇クロノ大暴食(グラトニー)”!!!!」



 ガブリと噛み付いた!!



「ぐぁぁぁぁああああああああッ!!!!」



 バキバキと響くのは、身体中の骨が折れた音。

 大の大人が意識を失うのに十分過ぎる痛みだが、それでもピエトロの意識は耐える。


(クソがクソがクソが!! こんなところで負けてたまるか!! 俺は“あの人”の為に金を集めなきゃならねぇ!! “あの人”の夢を叶える為にッ、俺は――)


 そうやって激痛に耐えたところで、彼に出来ることは何も無かった。

 噛み付いた黒ヘビに大きく振り回され、ゴミでも放り投げる様にブンッと宙に放り出されたピエトロ。


 そこに。

 爆炎を上げて飛んで来た少年が、疲労困憊の身体に鞭を打ち、細い左腕でナイフを振るう!!



「“鎌鼬かまいたち”」



「ッ~~!!」


 防げた筈だ、本来のピエトロであれば。

 たかだか斬撃1つ程度、瓦礫で弾けばそれで終わる。

 しかし、全身の骨を砕かれ、右肩にナイフが突き刺さった状態では、最早彼に出来ることなど何一つなかった。



 斬!!



 風の刃に身体を斬り刻まれ、彼は遂に意識を失う。

 全てを破壊した瓦礫と共に、ピエトロは3000メートルものそらを落ち続けた。

 落ち続け、落ち続け、落ち続け。


 途中で奇跡が起きることもなく、彼の身体はゴミ山に墜落。


 奇しくも。

 彼の身体が落ちたその場所は、並ぶように作られた2つの簡素なお墓の前だった――。

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