70話:VS ピエトロ
パルフェの無事を確認する為、隠れ家に向かう最中。
瓦礫の化け物:廃棄怪物が現れ、ボクは大きく吹き飛ばされてしまった。
その放物線が描く先に、街の市長が待ち構えているとも知らずに――。
「ようチビガキ、少々調子に乗り過ぎだ」
「ピエトロ!?」
反応する暇も無い。
無防備な左足を掴まれ、そのまま駅前広場に投げ落とされる!!
(マズイッ!!)
咄嗟にクロの右腕を下に伸ばした。
クロの頭が石畳に噛み付き、それから強風に耐える枝の様にクロの身体がぐにゃりと“しなる”。
落下の衝撃をその“しなり”で吸収し、反動で大きく横に跳ねるボクの身体は、石畳の床を勢いよく滑り、車輪の轍に足が引っかかってようやく止まった。
すぐさま顔を上げると、瓦礫に乗ったピエトロが宙に浮いたままこちらを見下ろしている。
当然の様に、その胸には“魂乃炎”が燃えていた。
「テメェがドラノア、で間違いないな? 地獄からの脱獄囚らしいが……随分と変わった右腕だな。今までは隠してたのか?」
「欲しくてもあげないよ?」
「要らねぇよ、そんな醜い腕」
鼻で笑い、余裕の表情を浮かべるピエトロ。
彼の登場に街の人々が歓声を上げる。
「ピエトロさんだ!! ようやく来てくれたぞ!!」
「これで無法集団なんて怖くねぇ!! でも何で浮いてんだ!?」
「俺が知るかよ!! でもあのチビっ子とピエトロさんがいれば勝ったも同然だ!!」
未だ状況を把握していない住民達。
彼等をしり目にピエトロはボクから視線を外し、アチコチに倒れている無法集団の面々を眺める。
その鋭い瞳は、曇天の空みたいにとても酷く濁っていた。
「――全く、情けない奴等だ。頭が悪いと暴れ方も忘れるのか?」
「す、すまねぇピエトロさん。だけどこんなガキがいるなんて聞いてなかったし……」
「たかだかガキ一匹に気を付けろと、そう言わないと何もできない程のゴミクズなのか? あまりの使えなさに呆れるぜ」
やれやれと心底ため息を吐くピエトロ。
そんな彼の姿に、無法集団と普通に喋るその姿に、先程歓喜の声を上げた人々が困惑する。
「ピエトロさん、何を言ってるんだ?」
「そいつらは略奪しに来た無法集団だぜ?」
「さっさとやっつけてくれよ!! 何故ボーっとしてんだ!?」
人々は益々困惑するが、そんなことはピエトロの知った話ではない。
街の住民を無視したままジロリと駅前広場を眺め、それからピエトロの目が僅かに見開かれた。
視線の先には、気絶したまま捕縛されている車掌:ディグリードの姿がある。
「おい、起きろディグリード。昼寝にはまだ早えーぞ」
「アレは昼寝じゃなくて気絶してるんだよ。当分は起きないんじゃない?」
「……あぁ?」
ギロリ!!
ピエトロがボクを睨む。
「ただのチビガキに負けるほど、そいつは弱くねぇ筈だが?」
「それなら、ボクがただのチビガキじゃないってことかもね」
「……全く、とんだ誤算だな。無能ばっかりで嫌になる」
やれやれと、ピエトロはもう一度首を振った。
それから徐に両手を上げる。
――するとどうだ?
破壊された建物の瓦礫が勝手に動き出し、あっという間に“廃棄怪物の軍団”が現れた。
(1、2、3……6体!? この数を動かせるのか!?)
内心の疑問から間髪入れず。
廃棄怪物の軍団が無差別に人々を襲い始める!!
「「「うわぁぁぁぁああああ~~~~ッ!!!!」」」
街の住民、無法集団、関係無し。
標的は全ての人々で、街中に再び混沌が生まれた。
「おいピエトロ!! どうして俺達まで襲うんだ!?」
「約束が違うぞ!! 狙うのは街の奴等だけの筈だろ!?」
無法集団が戸惑いの叫びを上げ、
「助けてくれピエトロさん!! 俺は保険に入ってる!!」
「私もよッ、早く助けて!! お金は払ってるんだから!!」
街の人々も我武者羅に叫ぶ。
駅前広場に響く無数の悲鳴に、ピエトロは「ハハッ」と自嘲気味に笑った。
「全く、最初からこうすりゃ良かったんだ。略奪の手間を惜しんで無法集団を使ったが、ここまでの雑魚なら使う価値もねぇ。全員殺してから奪ってやる」
(いや、そうはさせない)
“鋸鎌鼬”!!
――今、この瞬間。
1つだけわかっているのは、手加減できる相手ではないということだけ。
無法集団はともかく、街の人達まで殺させるものかと、相手が死んでも「止む無し」のつもりで振るった風の刃は――
「この程度か?」
「ッ!?」
易々と弾かれた。
ただの鎌鼬ではなく、更に威力の高い風の刃でも駄目らしい。
一体何が起きたのかとよくよく目を凝らすと、小さな瓦礫がピエトロの周囲にいくつも漂っている。
(アレで斬撃を防いだのか。車輪よりよっぽど厄介だよ)
これでは1つ2つ瓦礫を吹き飛ばしたところで、すぐに代わりの“盾となる瓦礫”を補充されて終わりだ。
アチコチ破壊されたこの街で、奴が瓦礫に困ることなど永遠にないだろう。
「ピエトロ、今すぐ廃棄怪物を止めろ。お前が“瓦礫躁”で操ってるのはわかってる」
「ほう? 俺の“魂乃炎”を知っていたのか。よく勉強していたと褒めてやるが、止めろと言われて止めるくらいなら最初からやってねぇよ。そんなに止めて欲しけりゃあ、力づくで俺を止めてみろ」
「言われなくても!!」
ピエトロに鎌鼬は通じない。
ならば、奴を宙から引きずり下ろすか、ボクが跳んで近づくかの2択だ。
(戦いが長引けば廃棄怪物による被害も増える。ここは短期決戦しかない……ッ!!)
駆け出し、クロの右腕を真上に思いっきり伸ばす。
そして地面に叩きつける!!
「“黒蛇:跳躍”」
地面に叩きつけたその反動で、ボクの身体が宙に跳ね上がった。
そこから、
「“爆炎地獄”」
ピエトロの周囲に浮かんでいた瓦礫を爆炎で吹き飛ばす!!
更に、
「“黒蛇:喧嘩首”」
一時的に瓦礫の盾を無くしたピエトロを、クロの右腕で真上から叩く!!
奴が地面目掛けて吹っ飛んだ後、ポツンと宙に残った足場の瓦礫に噛み付き、
「“黒蛇:飛去来器”」
墜ちたピエトロ目掛けて瓦礫を投げ付ける!!
加えて、ナイフを空に向け、
「“爆炎地獄”」
反動で、一気に垂直下降!!
(うッ、身体が熱い!!)
車掌との戦いから続けざまで、流石に爆炎地獄を連発し過ぎた。
オーバーヒートを起こして身体から黒い煙が出ている。
頭もフラフラして今にも意識が飛びそうだけれど――でも、次で終わりだ。
無茶を通す価値はある。
「“黒蛇:顎”!!」
最後の力を振り絞り、ピエトロの喉に噛み付いた!!!!
――その筈だった。
「“瓦礫筍槍”」
「ゴフッ……(え?)」
血が出た。
ボクの口から出た、ボクの血だ。
そんなボクの身体が動かないのは、破壊された石畳から突き出る“瓦礫の槍に身体が貫かれている”為か。
「……なるほどな」
一人納得するピエトロの声が聞こえてくる。
それは目の前にいる『瓦礫の鎧』とでも言うべき、“全身に瓦礫を纏った怪物”の中から響いていた。
「確かに、チビガキにしては中々やる。いくらディグリードでも油断すると負けるかも知れん。――だが、俺は違う」
最早、廃棄怪物と区別のつかない姿となったピエトロ。
見上げる程に大きく武骨な両腕を、彼は静かに振り上げる。
「ガキが、大人の邪魔をするものじゃない」
一切の躊躇い無く、無慈悲にも振り下ろされた武骨な巨腕。
瓦礫の槍に串刺しとなって動けぬまま、ボクは瓦礫の腕に押しつぶされた――。




