68話:頂きの開戦
今にも足が千切れそうだ。
3000メートル上の街まで、あとどれだけ全力疾走をすればいいのかわからない。
わからないけれど、とにかくボクは街を目指して螺旋街道を駆け上っていた。
「くそッ、まさか螺旋山の北側に“地下の鉄道”が走っていたなんて……ッ!!」
ゴミ山の住人が教えてくれたのは、ここら辺の人間なら“知っていて当然の話”であり、ボクが知らないということに思い至らなかった話。
螺旋山を登るこの鉄道は、ベックスハイラントを「始発駅」と「終着駅」とし“南北へと伸びている”。
ボクが今まで見て来たのは南側の鉄道で、実際は北側にも鉄道が伸びているという話だった。
だからこその二重螺旋。
勝手に一本道だと思っていた街道は、南側を運行する列車と北側を運行する2本の列車――2本の鉄道が通っていた。
――意味の無い言い訳だ。
ボクが最初に螺旋山を登った時も、街の北側にあったゴミ捨て場から降りた時も、北側へ続く線路を見かけることはなかった。
それでボクは必然的に、螺旋山の南側にだけ鉄道が走っていると思っていたけれど、そうではないらしい。
北側の鉄道は下のゴミ山から“地下へと入り”、ゴミ山の下を通って北の街へと続いていた。
(街を襲う無法集団は、北と南の両側からやって来る予定だったんだ。南側の無法集団は止めたけれど、北側から来る奴等は止められない……!!)
上を見上げても列車の姿は見えない。
既に街へと着いたのか、それともまだ登っている最中か。
「このまま街道を走って登っても駄目だ。崖を駆け上ろう!!」
力を出し惜しみしている場合ではない。
クロの右腕を伸ばして崖を掴み、跳ぶように崖を駆け上る。
小さい身体だからこそ出来る機敏な動きで、今のボクに出来る最速で螺旋山を登った。
そして――。
「遅かったか……」
街の駅前広場に辿り着いた時点で、既に街中には悲鳴と怒号が飛び交っていた。
パッと見ただけでも、無法集団の数は南のゴミ山で捉えた連中の倍以上いるだろう。
それら無法集団の連中が暴れまわり、手当たり次第に襲撃した家々から金品を強奪している。
「奪え奪えー!! この街はもう俺達のモノだ!!」
「辞めてくれッ、せっかく商売が軌道に乗って来たってのに――」
「うるせぇ!! もうテメェのモノじゃねぇんだよ!!」
「ぎゃあッ!?」
無法集団の足に縋り付いた男性が斬られ、それを見た者達が益々混乱する。
街の警備兵もいるにはいるが、この数が相手では多勢に無勢か。
ただただ悲鳴を上げる者。
抵抗して返り討ちにあう者。
信じられないと呆然とする者。
早朝の襲撃に人々は動揺し、成すがままに奪われていた。
「お前等、こんな事してタダで済むと思うなよ!? この街にはピエトロさんがいるんだかなら!!」
「そうだッ、お前等なんかピエトロさんがぶっ飛ばしてくれるはずだ!!」
「あの人は何処だ!? 早くピエトロさんを呼んでくれ!!」
「ピエトロさん助けてくれぇぇええーー!!」
この街に残された唯一の希望、人々は彼の名前を叫ぶ。
その彼こそが元凶であることも知らずに。
「ギャハハハッ、来るといいな。そのピエトロさんって奴がよぉ!!」
無法集団は嘲笑う。
全てを知っているからこそ、その男がここに現れないことを知っていた。
余裕の表情を浮かべる連中の態度に、街の住民達は益々声を張り上げる。
「おいッ、ピエトロさんは何してるんだ!? 俺は保険料を払ってるんだぞ!!」
「俺もだ!! 金を払ったら守ってくれる約束の筈だぞ!? 早くアイツらをやっつけてくれ!!」
「ピエトロさんは何処だ!? まだ屋敷で寝てるのか!?」
「俺が呼んでくる!! このままじゃあ街の全てが奪われちまう!!」
住民の一人が寝巻姿のままピエトロのいる屋敷へと走り出した。
傍目には勇敢にも見えるその行為だけれど、しかしボクはクロの右腕を伸ばし、彼の腕を引いて止める。
「無駄だよ。この無法集団はピエトロが招いた人達だから」
「はぁ!? そんな訳ないだろ!! ピエトロさんはこの街を守る市長だぞ!!」
「今まではそうかもね。でも、もう違うよ」
「おい、そりゃどういう意味で――なッ!? お前ッ、その右腕は何だ!?」
男性が今更ながらもボクの右腕に気付いたけれど、これ以上は話している時間が勿体ない。
左手のナイフを構え、連続で振るう!!
「“鎌鼬”:群れ」
「「「ぎゃぁぁああッ!?」」」
連続で生まれた風の刃に、無法集団の連中が斬り刻まれた。
次々と倒れゆく無法集団だけれど、流石に数が多いので一度では倒しきれない。
ならばもう一度とナイフを振るったところで――。
「“脱線輪”」
「ッ!?」
鎌鼬が弾かれた!!
その手に列車の車輪を持つ、“列車の制服を着た男”によって。
「助かったぜディグリード!!」
「やるじゃねーか!!」
「車掌ッ、そのままチビガキを頼む!!」
“その男”の登場に、無法集団の連中が歓声を上げ、街の住民達は動揺する。
無法集団を狙ったボクの“鎌鼬を弾いたのは、列車の車掌:ディグリードだ。
200~300キロはありそうな「列車の車輪」に腕を通し、風切り音を発しながら車輪を高速回転させている。
常人には到底不可能な所業だけれど、その胸に燃えている炎――“魂乃炎”による賜物なのは言うまでもない。
「車掌さんも、ピエトロの仲間ってことでいいんだよね? 分け前はどのくらい貰えるの?」
ボクが問うと、車掌はムッと眉根を寄せた。
「……不必要に、色々と知っているみたいですね。どうやってそのことを知ったのか問い詰めなくてはなりませんが、しかしその前に」
彼は振り返り、歓声に沸く無法集団に向けて口を開く。
「子供一人に何を手こずっているんです? あまりモタモタしていると全員殺しますよ」
「「「ひぃッ!?」」」
慄いた無法集団の連中が、我先にと手近な建物へ飛び込んでゆく。
アレがただの飛び込み営業なら放っておくところだけど、目的が「略奪」だとわかっているならそういう訳にもいかない。
「“鎌鼬”」
「“脱線輪”」
「くッ」
また弾かれた。
ディグリードの腕で高速回転する車輪によって、ボクが生み出す風の刃が全て弾かれてしまう。
何をするにも、まずはこの車掌をどうにかしなければならない。
(参ったな、この人結構強いかも……)
“鎌鼬”を軽々弾いたその男を前に、ボクはゴクリと唾を飲む。
車掌:ディグリード。
彼の強さは無法集団の連中とは明らかに一線を画している。
ピエトロ以外は有象無象の集団だろうと、そう考えていたボクとしては想定外の事態。
そして車掌の存在が想定外だったのは、街の人々も同じだったらしい。
「おい車掌さんッ、何で無法集団を守ってるんだ!?」
「それにさっき、そいつ等に指示を出していなかったか!?」
「一体どういうつもりだ!? アンタもグルなのか!?」
次々と出て来る住民達の声に、車掌は「ふぅ~」とため息を吐く。
そして――。
「“轍車輪”」
“街の人々に向け”車輪を放った!!
*2章完結まであと10話です。




