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65話:立場逆転

 破壊されたゴミ町。

 その一画で話しかけて来たおじさんの言葉に、ボクは思い当たる節があった。

 

無法集団アウトライブ……アレがそうか)


 ボクとパルフェが『Lawless World (無法世界)』に初めて来た時、街が空襲でも受けたかの様に破壊されていた。

 あの破壊が無法集団アウトライブによる仕業だという話は聞いていたものの、実際にこの目で無法集団アウトライブを見るのは初めてだ。

 タダのチンピラ集団とは違い、より組織化された荒くれ者の集まりらしい。


「どうして無法集団アウトライブがこのゴミ町に……奪うモノなんか何もねぇってのに」


 おじさんは心底やつれた顔でため息を吐き、隣のテテフはグイッとボクのパーカーを引っ張る。


「おい、もしかして鳩手紙ポッポレターに書いてあったのって」


「うん。多分アイツ等のことだね」


 車掌が鳩手紙ポッポレターで指示を出そうとしていた連中が、十中八九あの無法集団アウトライブに間違いない。

 ここで連中を待機させて、明日には街を襲撃させる算段だ。


(これまた随分大それた事を考えていたみたいだけど……逆を言えば、ここで奴等を止めればピエトロの計画を邪魔できる)


 そう思って前に出ようとしたボクの肩を、今度はグイッとおじさんが掴んだ。


「キミ、何を考えてる? 馬鹿な真似は止しなさい」


「大丈夫だよ。心配してくれるのはありがたいけど、これでもそこそこ強いから」


「馬鹿を言っちゃいけない、あの親玉は500万Gの賞金首だ。子供が敵う相手じゃない」


「500万?」


 どうやらただのチンピラではないようで、流石に警戒心を持たざるを得ない。

 これは一体どうするべきか……そうやって迷っている間に事態が動いた。


「ったく、ここのゴミ共は言葉も喋れねぇのか!? 酒を持って来いっつってんだろ!!」


「ひぃッ!?」


 親玉の前にいた男が足蹴にされるも、男は身を丸めたまま縮まるだけ。

 他の者も下を向いたまま震えるばかりで、会話にならない物言わぬゴミ町の住人を前に、親玉は「チッ」と大きな舌打ちをする。


 それからジロリと目の前の集団を一瞥し、とある一点で視線を止めた。

 ニヤリと、親玉は下品な笑みを浮かべる。

 

「ははっ、こんな糞みてぇな場所にもそこそこいい女がいるじぇねぇか。おい、あいつを連れて来い」


 親玉が顎で示すと、手下の男達が一人の女性を無理やり立たせた。


「いやッ、離して!!」


「辞めてくれ!! 私の妻なんだ!!」


 標的となった女性が金切り声を上げ、先程足蹴にされた男が足にすがりついて泣き叫ぶが、それで離すような相手ではない。

 手下達が足にすがりついた男を蹴飛ばし、立たせた女性を無理やり親玉の前に連れ出した。


 それで益々泣き叫ぶ女性とその夫を前に、親玉は愉快そうに笑い声を上げる。


「ガハハハッ、誰が誰の妻だって? こいつは今から“俺の女”になる。テメェはそこで泣き喚きながら見てな。――おい、服を脱がせろ」


(ッ――!!)


 これ以上は黙認出来ず、ボクは左手にナイフを構えた。

 すぐ近くにいたおじさんがハッと目を見開くも、それで止まるボクではない。


「キミ、辞め――」



「“鎌鼬かまいたち”」



 宣戦布告をする道理は無い。

 おじさんの静止を振り切り、ひっそりと生まれた風の刃が――親玉の身体を斬り刻む!!


「ぐぁぁああッ!?」


 血飛沫と悲鳴が同時に上がった。 

 それを間近で見ていた女性が再び悲鳴を上げ、無法集団アウトライブの男達は一斉に慌てだす。


「敵襲か!?」

「何処からだ!?」

「アイツだ!! あのチビだ!!」

「あんなチビに出来る真似じゃねぇぞ!!」


 失礼な。

 だけど油断してくれるなら手っ取り早い。



「“鎌鼬かまいたち”:群れ」



「「「ぎゃぁぁああッ!?」」」



 皆の注目を受けたまま連続でナイフを振るい、連続で生まれた風の刃に手下達が踊り狂う。

 数十名いた無法集団アウトライブの輩が全身血塗れで倒れるまでに、それほど多くの時間を必要とはしなかった。


「テメェ……チビが、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


「ん?」


 ガチャリと、血塗れの親玉が銃口をボクに向ける。

 流石は500万の賞金首だけあり、“鎌鼬かまいたち”を喰らっても尚立ち上がるらしい。


 ただ、これで分かった。

 “500万程度の相手ならボクは負けない”。


「死ねぇぇええ!!」


 親玉の怒声と共に銃声が鳴り響く。

 その弾丸がボクの脳天を貫く前に、彼の懐に潜り込み、地獄の熱をナイフに込め――振るう。



「“火葬地獄かそうじごく残火ざんか”」



「ぐぁぁぁぁああああああああッ!!!!」



 斬られた親玉が炎に包まれ、先程よりも盛大な悲鳴を上げた。

 手に持った銃は呆気なく手放し、身を燃やす炎に苦しみ地面をたうち回る。

 弱めた火加減のせいで下手に意識がある分「より地獄」かもしれないけれど、まぁ相手が相手なので別に気にしなくてもいいだろう。


 その後、追加の一振りで彼の身体は斬り刻まれ、その身体を包む炎は静かにゆっくりと消え去った。



 ■



「お前、やっぱり強いな。チビなのに」


 無法集団アウトライブを一掃した後、テテフが再度ボクのことを評価してくれた。

 明らかに余計な一言が入っていたけれど、それは聞かなかったことにしておこう。


「無人島で結構強くなったからね。身体能力が上がったおかげで、技の威力やスピードも前よりいい感じになってるよ」


「あいつにも勝てるか?」


「……そのつもりでやらなきゃね」


 実際に勝てるかどうかは対峙してみないとわからないけれど、戦う前から負けるつもりでは勝てるものも勝てない。

 やるからには勝つつもりで戦うけれど、しかし今はピエトロよりも目の前の無法集団アウトライブだ。


 ――立場は完全に逆転していた。

 無法集団アウトライブの連中はロープで縛られたまま集められ、それを数百人のゴミ町住人が取り囲んでいる。

 刃物も銃器も取り上げているので、先程まで震えていた住人達もこうなってしまえば震える必要がない。


「殺すべきだ。こんな糞みたいな奴等を生かしていたら、またいつ襲われるかわかったもんじゃねぇ」


 妻を辱められる直前。

 先程まで泣き叫んでいた男性が目を充血させながら提案した。

 彼の手には親玉が手放した銃が持たれており、いつでもそのトリガーを引くことが出来る。


 実際、彼には今すぐにでもトリガーを引きそうな気迫があった。

 他の住人も「そうだそうだ」と彼の意見に賛同し、男性の妻も「今すぐ殺して!!」と語気を強めている。


「なぁキミ、それでいいだろう?」


 無法集団アウトライブを倒したボクに一応訊ねてきたけれど、その目は完全に“答えを決めている”目だ。

 ボクが男性に何を言ったところでどうなるとも思えない。


 それに――。


「その人達の命に興味は無いから、貴方達の好きにすればいいと思う。だけど、その前に少しだけ話をさせて」



 ――――――――



 捕まえた無法集団アウトライブと話がしたい。

 銃を持った男性にそう伝えると「まぁ、それくらいなら……」と渋々ながらも了承してくれた。

 その様子から今すぐにでも殺したい気持ちがプンプンと伝わってくるけれど、彼の目的とボクの目的が違うのだからしょうがない。


「テメェ……調子に乗んなよ糞ガキが」


 全身火傷の状態で捕まえられた親玉の前に立つと、鬼の様な形相でギロリとボクを睨んで来る。

 流石は数十人の荒くれ者をまとめる親玉。

 この状況でも口調にはドスが効いていて迫力が凄いけれど、生憎とこの状況で怯む程ボクも弱いつもりはない。


 スッと、彼の喉元にナイフを添える。


「五月蠅いのはあんまり好きじゃないんだ。ちょっと小声でお話してくれる?」


「………………」


「単刀直入に聞くけど、ここに来たのってピエトロの指示?」


「……けっ、知らねぇな」


 答えた親玉の目は、一瞬だけだけど僅かに見開かれていた。

 恐らくボクの指摘通りなのは間違いない。


「今更知らない振りしなくてもいいよ。明日、ベックスハイラントを襲えって言われてるんでしょ?」


「ッ!?」


 この一言が決定的だったらしい。

 今後こそ誤魔化しようのない程に目を見開いた親玉は、悔しそうに歯を食いしばった。

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