表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/237

7話:十王達を正面突破

 ~ 『全世界管理局』:地獄支部~ 


 閻魔王えんまおうが裁きを与え、秦広王しんこうおうがボクを人間の姿に戻した場所。

 その地獄支部の一角。

 赤い塀で囲われた建物群の中央に、不思議と目を引く「蒼い光の柱」が立っている。


 何を隠そう、アレが目的の『世界扉』だ。

 扉といっても家の出入り口みたいな代物ではなく、蒼い光を放つ巨大な鉱石がフワフワと宙に浮いている。

 アレに触れることが出来れば脱獄が可能となる訳だけど……しかし、そう簡単に話は運ばない。


(くッ、流石に来るのが遅かったか)


 赤い塀の隙間から中の様子を伺うと、ボクの「希望」とでも言うべき『世界扉』を“5人の十王”が仁王立ちで囲んでいた。

 閻魔王と秦広王以外は初めて見る十王だけど、その全員が見上げる程に大きく、そして間違いなく強い。

 先程の役人達によれば「赤鬼の獄卒1000人分の強さ」という話だったけれど、ボクの直感的に1000人では済まないだろう。


(さて、どうするべきか。十王とボクが戦って……駄目だ、勝てる気がしない)

 

 十王一人でも勝てる気がしないのに、それが5人だ。 

 死ぬ気で頑張れば何とかなる、みたいなレベルの話ではない。


 勝機は皆無。出て行くだけ無駄。

 あの5人の前に姿を晒すのは自首するのと同義。

 十王達の周囲には槍を手にした鬼の管理者も複数控えており、ボク一人に万全を期すにも程がある。


 せっかく獄卒を倒して首輪を外したというのに、今までの努力が水の泡となった。


(いっそのこと素直に自首して、十王に直接謝るべきかな? ……いやぁ、それで許してくれそうな雰囲気でもないし)


 もはやボクに「希望」は残されていないのだろうか?

 4000年もの地獄を耐え、ようやく訪れたジーザスへの復讐の機会も、その時を迎えることなく終わってしまうのだろうか?


「あぁ、結局ボクの人生って何だったんだろう? ……もういいや。これ以上足掻いても無駄だろうし……自首しよう」


 心がポッキリと折れ、完全に諦めた――その時だった。



「ホッホッホッ、困っておるようじゃの」



「誰!?」

 

 振り返った先にいたのは“老人”。

 口の悪い連中から「チビ」と罵られる小柄なボクよりも、更に背の低い一人の老人だ。


 夜の闇みたいな真っ黒いコートを纏い、背丈よりも長い真っ白な口髭を携えている。

 手にはこれまた真っ白い木の杖を持っているみたいだけれど……見覚えは無い。

 

「えっと、おじいちゃん誰? 地獄の管理者ではなさそうだけど」


「ホッホッホッ、ワシが何者かはどうでもよかろう。それよりお前さん、『脱獄』に興味は無いか?」



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 藁にも縋る思いでおじいちゃんの話を聞き終えたボクは、正直言って半信半疑の気持ちだった。

 いや、半信半疑というか、気持ち的には「一信九疑」くらいか。

 ボクを助けてくれると言うおじいちゃんのありがたい言葉に、しかし素直に首を縦に振ることは出来ない。


「本当にそんな事が出来るの? いくら『AtoA』が広いからって、そんな“魂乃炎アトリビュート”は聞いたことが無いんだけど」


 ハッキリと言って、おじいちゃんの話は奇想天外が過ぎる。

 素直に信じる方が馬鹿としか言いようがない「提案」だったけれど、それでもおじいちゃんは本気だ。


「広いからこそ聞いたことが無いのじゃ。お前さんが過ごして来た世界など『AtoA』の極々一部に過ぎぬ。多少地獄で長生きしたところで、それで全てを知った気になっては困るな」


「別に全てを知った気にはなってないけど……でも、流石にさっきの話は……」


「ふむ、そんなにワシを信じられぬか? ならば逆に問うが、今ここでワシを疑うことに何の意味がある?」


「それは……」


 続きの言葉が出て来なかったのは、ここで疑う意味など無いと自分でもわかっているからだ。

 5人の十王に『世界扉』を守られている今、ボクに残された唯一の道はおじいちゃんの提案に乗ることだけ。

 それがわかっているからこそ、これ以上疑う代わりに一つだけ質問した。


「どうしておじいちゃんはボクを助けるの? 初対面だよね?」


「ホッホッホッ。無論、助ける意味があるから手を貸すのじゃ。見事脱獄を果たした際には、ちょいとばかしお前さんに手伝って欲しいことがある。どうせ脱獄したところで行く当ても無く暇じゃろう?」


「いや、別に暇って訳じゃあないけど……ちなみに、おじいちゃんがボクにやって欲しいことって何?」


「“革命”じゃよ。この世界をワシと変えるんじゃ」


 言って、老人はニヤリと得意げに笑みを浮かべた。

 ボクは「ははっ……」と乾いた笑みを浮かべる。


「革命ねぇ。へぇ~、ふ~ん?」


「むむっ、全く信じておらぬ顔じゃな? まぁ気持ちはわからんでもないが、今は時間も無いから詳しくは脱獄が叶った時に教えてやる。まずはワシの作戦通り、お前さんは『世界扉』を使って『Lawless World (無法世界)』に渡れ。話の続きはそこで」


「えっ、ボク『Lawless World (無法世界)』に行くの? 正直気乗りしないんだけど……」


 革命云々はさておき、あまり良い噂を聞かないというか、悪い噂しか聞かないのが『Lawless World (無法世界)』だ。

 立場を追われた“ならず者”が流れ着くような世界であって、最初からそこで生まれた訳でもない限り、自ら好き好んで行く世界ではない。


 もしここでボクの希望が通るのであれば、死ぬ前にいた『After World (はじまりの世界)』に戻りたいというのが本音だ。

 今のボクでは十王に敵わないにしても、それでも地獄で相当強くなったのは事実。

 脱獄が叶った際は是が非でもジーザスに復讐したいし、その為だけに地獄を耐え抜いたと言っても過言ではない。


 ただ、残念ながらここで選り好み出来る状況下にボクはいなかった。


「『Lawless World (無法世界)』に来ぬなら手は貸さんぞ? お前さんが嘘を吐いて他世界に逃げようものなら、ワシが地獄へ連れ戻してやる」


「………………」


 完全なる脅しだ。

 老人にそう言われてしまえば、ボクの気持ちなどあったところで意味を成さない。

 長く「ふぅ~」と息を吐き、覚悟を決める。


「わかったよ。それじゃあ話の続きは『Lawless World (無法世界)』で」


「ホッホッホッ、それでよい。ならば早速“十王達を正面突破じゃ”!!」


 無謀にすら思えるおじいちゃんの掛け声と共に、ボクは塀の陰から飛び出した。


 『世界扉』まで目算で50メートル程。

 地獄で4000年も鍛えた今のボクならあっという間に到達出来る距離だけど、それを阻む鬼の管理者達と十王5人の壁が分厚い上に高過ぎる。

 ここを突破しなければボクに未来は無いのだから、相変わらずこの『AtoA』は生き辛いったらありゃしないけど、そんな愚痴を言っている暇は無い。


「いたぞッ、脱獄者だ!!」


 塀の陰から飛び出してすぐ、近くにいた鬼の管理者がボクの存在に気付いた。

 直後、間髪入れず隣にいた仲間の管理者に目配せし、手に持つその槍をボク目掛けて放つ!!


「「せいッ!!」」


「おっと」


 身を屈めて管理者達の“突き”を避け、


「「うらぁッ!!」」


「ほッ」


 その後の“薙ぎ払い”はジャンプで避けた。


(管理者をいちいち相手してたら時間が足りない。ここは『世界扉』まで一直線に行く!!)


 その後も次々と襲い掛かる管理者達の攻撃を躱し、無我夢中で足を前に進めるも、簡単にいったのはここまで。

 鬼の管理者軍団を通り抜け、さぁ「次は十王だ」と心構えて前を向いたところで、次の瞬間には“目の前に十王がいた”


「遅い」


「ッ!?」


 短い一言と共に、名も知らぬ十王の拳がボクの顔面にめり込む、その寸前。

 おじいちゃんの“魂乃炎アトリビュート”が発動する!!



「“時賭け三鐘ときかけさんしょう”」



 そして、地獄の時間は停止した――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■続きに期待と思って頂けたら、ブクマ・ポイント評価お願いします!!!!
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ