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60話:お前、ピエトロに勝てるか?

 ~ ドラノア視点:喫茶店の店内にて ~


 沈痛な面持ちでテテフは2年前の出来事を語った。

 父親を殺され、その後に殺された母親と共に、螺旋山から弾き出された“その後を”――。


「気づいたら、アタシはゴミ山の上で眠ってた。すぐ近くには、パパとママもいたけど、でも、もう……」


「テプ子……」


 悲しい最期を迎えた彼女の話に、テテフを抱きしめるパルフェの力が強まる。

 彼女の体温で少しでもテテフの心が温まるといいけれど、それが心の芯まで温めることになるのかどうかは不明で、だからと言ってボクに出来ることも無い。

 せいぜいこの気まずい雰囲気を誤魔化す為、苦し紛れの言葉を発したくらいなものだ。


「その状況でよく生きてたね。螺旋街道からゴミ山まで落ちて、助かっただけでも奇跡だよ」


「――うん。あの時の事は自分でもよく覚えてないけど、でも、きっとパパとママがアタシを生かしてくれたんだ。いつかあの男に復讐出来るように……その為に、アタシは2年間一人で生きてきた」


「周りの人には頼らなかったの?」


「……最初は、頼ろうとした。でも、パパとママの誤解がゴミ山にも広がってて、誰もアタシを助けてくれなかった。アイツのせいで……アタシはずっと……」


 そして唇を噛みしめる彼女の頬を、静かに流れた涙の意味を疑う気にはなれない。

 街に現れた廃棄怪物ダスティードを倒し、街の英雄だと思っていた市長:ピエトロが、テテフの両親を殺害し、ゴミ山に落とした張本人。

 これで奴を恨むなと、そう口にする方がお門違いで、それは翻って“ここに至るまでの流れ”にも繋がる。


「それでさっきはピエトロを見て、ついカッとなったんだ?」


「久しぶりに見て、頭に血が上って……我を忘れてた。でも、本当はわかってる。今のアタシじゃアイツに勝てないって。だけどいつか、必ずこの手で殺す。それが……それが――アタシの夢だ」


「「………………」」


 ボクもパルフェも黙る他ない。

 これが先の出来事、そこに至るまでの経緯だった。

 チラリと周囲を見て、今の話を誰にも聞かれていないことを確認してから、ボクは内心で深くため息を吐く。


(う~ん、参ったなこれは……)


 復讐なんて止めよう。

 悲しみの連鎖は何処かで止めなくちゃ。

 人を殺すことが「夢」だなんて、悲しいことを言わないで。


 ――そんな薄っぺらい言葉を掛ける気にはなれなかったし、かける資格もボクには無い。


 ボク自身、復讐の為に一度は命を投げ出している。

 そんな奴が何を言ったところで、復讐を決意した少女の想いを止めることは出来ないだろう。

 むしろ止めてはいけないのだと、心のどこかでそう思っている自分がいる程だ。


「……店を出ようか。そろそろ食料品を買って帰らないと」


 この場を誤魔化すしか出来なかった己の無力さ。

 そこに不甲斐なさを覚えつつ、「そうだね」と同意してくれたパルフェに感謝して、ボク等は喫茶店を後にした。



 ■



 ~ 翌日 ~


 朝食の為にボクがキッチンに降りてゆくと、朝っぱらから「お肉、お肉」と騒いでいるテテフに遭遇。

 それも彼女一人ではなく、セクハラ医者のコノハがお肉を焼いてあげている場面だ。


 昨夜は憂鬱な表情を浮かべていたテテフだけれど、それでもパルフェの包容力が良い方向に働いたのだろう。

 仲の良い姉妹みたいに一晩一緒に眠ったら、憂鬱な表情も何処かへ消えていた。


 無論、それが「ただの強がり」だとは重々承知しているものの、明るく振舞っている彼女にわざわざそれを指摘する意味も無く、ボクに出来ることは普段通りに接することだけ。


「おはよう、相変わらずテテフは朝早いね。そしてコノハって料理出来たんだ?」


「あぁ? 何だその反応は。キッチン爆破させる馬鹿と一緒にすんじゃねーよ。失礼な奴は女装させんぞ」


「何その脅し……」


 流石に冗談が過ぎる、と思っていたら。


「ちょっとスカート持ってくる!!」 


「テテフ!?」


 大人の戯言を真に受けた子供を止める為、ボクは慌ててキッチンを飛び出した。



 ■



 ――3日が過ぎた。

 テテフが過去を語ってくれたあの日から、この3日間は実に平穏な日々が続いている。


 昨日、お湯を沸かそうとしたら鍋底を溶かし、パルフェから「料理禁止」を命じられた以外は、特にコレといった特筆すべき出来事もない。

 基本はベッドの上でゴロゴロするだけで、休養を告げられていたボクは完全に暇を持て余している状態だ。


「あまり間を開けずに戻る」と言っていたおじいちゃんも未だ隠れ家(アジト)には戻らない。

 本棚にあった本を読むのも飽きてきたし、そろそろ身体を動かしたいところだけど……。


「ねぇねぇ、ドラの助はなんの本を読んでるの? もしもイヤらしい本だったら、私の監査が入ることに――」


「“絵本”だよ。悪いドラゴンを退治する魔女のお話。本棚にあったから適当に読んでただけ」


「ふ~ん、絵本なんかあったんだ? それはつまり、私に魔女のコスプレをして欲しいってこと? そういうのが好きなの?」


「………………」


 その耳、予備があるなら早めに取り換えた方がいいだろう。

 まぁ彼女がロボットでもない限り、そんな予備の耳なんてある訳も無いけれど。


「あっ、デート行こうよ!!」


 名案を思い付いたとばかりに、パルフェが「パンッ」と手を叩く。

 コスプレ云々よりはマシな話題だけど、それでもボクは「はて?」と首を傾げざるを得ない。


「買い物ならこの前行ったし、当分は出掛けなくても大丈夫だよ」


「買い物じゃなくてデートだよ。ずっと部屋に居ても退屈でしょ? 本ばっかり読んでたら、頭が固くなって馬鹿になっちゃうし」


「そんな理論は初耳だけど……確かに近頃は隠れ家(アジト)から一歩も出てないし、退屈は退屈なんだよね。でもおじいちゃんから身体を休めろって言われてるし」


「だからこそ、だよ。休むって動かないことだけじゃないし、身体だけじゃなくて心もリフレッシュしなきゃ。ドラの助だってそろそろ身体を動かしたいでしょ?」


「う~ん、まぁ多少はね」


 これだけ隠れ家(アジト)に籠っていると、そろそろ外の空気を吸いたくなってくるのは確かだ。

 無人島で負った傷もほぼほぼ完治しているし、おじいちゃんから「決して外に出るな」と言われている訳でもない。

 単に都合のいい解釈をしただけかも知れないけれど、身体が回復しているのは間違いないし、久しぶりの外出は悪くない提案だろう。


「よーし、そうと決まれば早速テプ子を誘って来るね。多分キッチンでお肉のつまみ食いしてる頃だから」


 デートと言いつつ3人なのはご愛敬。

 とか思っていたら、事態は思わぬ方向に転がった。

 パルフェがテテフを誘い、準備を済ませていざ出かけようかという直前で、テテフが奇妙なお願いを口にしたのだ。


「パルねぇは留守番してて。アタシとこいつ、今日は二人で出掛ける」


「えぇ~? いくら可愛いテプ子の頼みでも、それは流石にちょっと……急にどうしたの?」


「頼む、今日だけでいい」


 真っ直ぐにパルフェを見つめるテテフの顔は、至って真面目。

 最近、口を開けば「お肉」しか聞いていないテテフにしては珍しく、そんな彼女のお願いにパルフェが「はぁ~」とため息を吐く。


「しょうがないなぁ。テプ子がそこまで言うなら、今日一日だけドラの助を貸してあげる。夜までにはちゃんと返してね?」


「わかった。夜までにはこいつを返す」


「絶対だよ? お姉ちゃんとの約束だからね?」


「わかってる。こいつはちゃんとパルねぇに返す」


(……ボクは犬か何かかな?)


 その扱いには非常に疑問が残るものの、テテフの真剣さに気圧けおされたのは間違いない。

 何となく口を挟む気にもなれず、言われるがまま、流れのままにボクはテテフと街に出た。



 ――――――――



「「………………」」


 テテフと街に出てからしばらく、互いに無言の時間が続いた。

 彼女とは確かに知り合いだけど、だからといって特別「仲が良い」という間柄でもない。

 そんな彼女がパルフェに頼み込んでまで、ボクと出掛けた理由がわからない。


 何を口にすればいいのか迷う気まずい時間が流れ――そして、ようやくテテフが口を開く。


「“アレ”からずっと考えてた。お前のこと。お前の“強さ”」


「ボクの強さ? 何でまた」


「お前は強い。そうだな?」


「……まぁ、強い・弱いで言えば、少なくとも弱くは無いと思うけど」


 それが自分のおごりだとは思わない。

 事実、右腕を無くすまでは地獄の咎人の中で一番だったし、右腕を無くした今でもクロのおかげで以前よりも強くなれたと思う。

 無人島で餓者髑髏ガシャドクロと戦ったボクの姿を見ていたテテフは、身を持ってそれを知っている筈だ。


 そしてだからこそ、こんな台詞を口にする。


「お前、ピエトロに勝てるか?」

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