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57話:明確な殺意

廃棄怪物ダスティードが出たぞぉぉおおーー!!」


 誰かの叫び声一つで、先程響いた轟音の正体が判明する。

 そしてその言葉を裏付けるように、路地の1つから瓦礫の身体を持つ化け物が姿を現した。


(また街中に? って、そうだ。おじいちゃんに廃棄怪物ダスティードのこと聞くの忘れてた)


 1か月前、駅前広場に廃棄怪物ダスティード出た1時間後、今度はゴミ山にも現われてボクを襲ってきた。

 もしやおじいちゃんが操っているのでは? と勘繰っていた部分もあるけれど、しかし今回はどうだ?

 おじいちゃんは野暮用とやらで出かけた筈だけど、その野暮用がもしかしてコレなのか?


(話を聞かないことにはわからないけど、少なくとも前回と同じ轍を踏む訳にはいかない)


 非常事態の対処を人任せにして、それで失うモノがあったら後悔は増すばかり。

 リベンジも兼ねて、今度こそボクの手で仕留めよう。


「二人共、ここでジッとしてて。すぐに片付けてくるから」


「待って」


 慌ててボクの右肩を掴み、パルフェが真っすぐに見つめてくる。

 ボクの瞳を、おふざけ無しの真剣な眼差しで。


「……倒せるの?」


「大丈夫だよ。世界最強には程遠いけど、これでも結構強くなったんだから」


 パルフェの腕を左手で退け、ボクは彼女を真っすぐに見返す。

 寂しい思いをさせてしまった1ヶ月で、ボクは右腕を失う前よりも確実に強くなった。

 だから心配は要らないと。


 それが伝わってくれたのか、パルフェは静かに頷く。


「無理だけはしないでね。テプ子、私と一緒に大人しく……テプ子?」


 気付いた時、テテフは震えていた。

 頭を抱え、前方を見つめ、青ざめた顔で震えている。

 廃棄怪物ダスティードが怖いのはわかるけれど、それは少々行き過ぎた“怯え”にも思えるが――。


「うわーッ!?」


(ッ――考えてる時間は無いか!!)


 廃棄怪物ダスティードが瓦礫を投げ、落下地点の近くにいた子供が悲鳴を上げる。

 今は1分1秒を争う事態。

 あの化け物を見て「怖い」と思うのは当然の感情だし、今は何よりも廃棄怪物ダスティードの排除を最優先すべきだろう。


「パルフェ、テテフは任せたよ」


 まともに返事を聞いている時間もおしい。

 返答も聞かず、ナイフを片手にボクは駆け出し――すぐに足を止める。


「……えっ?」



 足を止めたボクの前で、“廃棄怪物ダスティードの身体がガラガラと崩壊”。



(は? 一体何が……)


「見ろッ、ピエトロさんが来てくれたぞ!!」

「これで助かった!! 流石ピエトロさんだ!!」


「ん?」


 盛り上がっている人々に習い、崩壊した廃棄怪物ダスティードから視線をズラす。

 そこには“魂乃炎アトリビュート”を燃やす黒スーツの男性がいた。

 ボクの記憶が正しければ、1カ月前におじいちゃんと出掛けた際、駅前に現れた廃棄怪物ダスティードを倒した人物だ。


「またあの人か。確かこの街の市長だっけ?」


 どうやら今回も、市長:ピエトロの手により廃棄怪物ダスティードが倒されたらしい。

 相変わらずどんな能力かわからない“魂乃炎アトリビュート”だけど、まぁ何にせよボクの出番は今回も無しという訳か。


 先ほど「すぐに片付けてくる」なんて台詞を言った手前、このまま戻るのも少々気まずいけれど、大きな被害が出なかったのが一番。

 一件落着とナイフをしまってUターンするも、そんなボクに市長:ピエトロが声を掛けて来る。


「おい、そこのキミ。廃棄怪物ダスティードに近づいたら危ないじゃないか。何をするつもりだったんだ?」


「あ、えっと、ごめんなさい。さっきは気が動転してて」


「……そうか、今後は気を付けることだ。油断していると命は無いぞ」


「うん、そうする」


「………………」


 とっさに誤魔化したボクの答えを、彼がどう捉えたかはわからない。

 数秒ボクを怪しんだピエトロは、しかし怪しんだところで意味も無いと悟ったのだろう。

 すぐに踵を返し、街の人々から放たれる称賛の声を背に受けながら奥の路地へと歩いてゆく。


「ピエトロさんありがとう!!」

「アンタが市長で助かったぜ!!」

「ピエトロさんはこの街の守り神よ!!」


 いつまでも止むことの無い称賛の声。

 彼がどれほどこの街の人々から頼りにされているのかわかる。

 手も触れずに廃棄怪物ダスティードを倒すのだから、力の無い人々がピエトロを頼る気持ちは当然だろう。


(あの人がいるなら、この街でボクの出る幕は無さそうだね。残念ながら力試しは出来なかったけど、その分下手な面倒事も増えないし別にいいか)


 混乱は呆気なく収束。

 振り上げた拳の向ける先を失くしたボクは、すぐにパルフェ達のところに戻るつもりだった。


 しかし、ボクが戻る代わりに。

 テテフがパルフェを置き去りにして、小走りでこちらに向かって来る。


「何? どうしたの? 廃棄怪物ダスティードなら既に瓦礫になって――」


 声を掛けてもテテフが止まらず、そのままボクを通り過ぎる。

 通り過ぎ様に“ボクのナイフを奪って”。


(……えっ?)


 事態の理解に少し遅れた。

 ナイフを奪ったテテフが、ボクも置き去りにして全速力で駆けてゆく。



 ピエトロを目掛け、一直線に――ッ!!



(ッ!?)


 瞬間、背筋が凍る。

 それを解凍する時間も惜しいので、凍った背筋のままボクは咄嗟に動く。


「クロ!!」


 右肩から黒ヘビを出し、ナイフを構えてピエトロに迫る小さな身体を咥える!!

 傷つけないよう甘噛みで、しかし下手に逃げられないよう、そのまま強引にテテフの身体を引き戻す。


「ウゥゥーーッ!! ガァッ!!」


「大人しくして!!(くそッ、小さいのに何てパワーだ!!)」


 完全に我を失っているのか、見た目からは想像もつかないパワーで暴れるテテフ。

 ジタバタと暴れる彼女をクロの右腕で無理やり押さえつけ、ナイフを奪い返してから、小さなその身体を抱えて走り出す!!


「パルフェ、行くよッ」


「あ、えっと……」


 何が起きたか、起きようとしていたのか。

 彼女はそれをいまいち理解出来ていない。

 混乱する彼女の為にもテテフを問い詰めたいところだけれど、それを今すぐ始めるのは賢い選択とは言えないだろう。


「おい、さっきのちびっ子は何だ? ピエトロさんに向かっていきなり走り出したけど」

「ハハッ。街のヒーローを近くで見たかったんだろ。それより、何か黒くて変な物が見えなかったか?」

「何それ? 私はずっとピエトロさん見てたから知らないわ。何かの見間違えじゃない?」


 テテフの行動もボクの右腕も、時間にしたらほんの僅かの出来事。

 皆がピエトロに注目していたのが幸いし、ボク等のことに気づいていた人間は少ない。


 これ以上の詮索をさせる前に、ボクは二人を連れて急ぎこの場を離脱した。



 ■



 ~ 喫茶店の店内にて ~


 テテフを膝に乗せ、抱きしめた状態でパルフェが優しく声を掛ける。


「言いたくなかったら言わなくていいよ。でも、さっきは何で“あんな事”したのか、話してくれると私は嬉しいかも」


「………………」


 今や完全に平静を取り戻したテテフは、しかしパルフェの質問にも沈黙を決め込んでいる。

 大人しくなっただけでも御の字と思うべきか、それとも大きな不安材料を抱えてしまったと悔やむべきか。


(あの時、何が起きた?)


 整理する情報は多くない。

 テテフがボクからナイフを奪い、ピエトロ目掛けて突っ込んでいった。

 言ってしまえばそれだけだ。


 あの場では中々理解も追いつかなかったけれど、時間をかけて改めて考えてみれば、あの行動が持つ意味をわからない訳がない。



 “市長:ピエトロに対する明確な殺意”。



 それがわかっているからこそ、パルフェも「話さなくてもいい」と言いつつ「知りたい」と口にしているのだ。

 妹の様に可愛がっているテテフのことだからこそ、何故彼女がそんな殺意を抱いているのか、それを知りたいと。


「………………」


 テテフはまだ口を開かない。

 うつむいたまま、この時間が過ぎ去るのを待っているのか、それとも話そうかどうか迷っているのかはわからない。

 店に入ったので仕方なく頼んだホットのコーヒー(1杯770G……高い)も、このままでは氷の無いアイスコーヒーに代わってしまうだろう。


(う~ん、このまま待っても駄目そうかな?)


 窓の外には夜の帳が降り始めており、そろそろ食料品を買って帰らないとコノハも心配する。

 パルフェに目線でそう伝えると、彼女は苦笑いを浮かべるに留まった。

 ボクは浅く、息を吐く。


「ねぇ、何でピエトロを狙ったの? 廃棄怪物ダスティードから街を守る良い人なのに」


「違うッ、悪い奴だ!!」


 唐突にテテフが叫ぶ。

 驚くパルフェの腕の中で、美しくなった毛並みを逆立て、その理由を――。



「私のパパとママ、アイツに殺された……ッ!!」



「「ッ!?」」


 ――――――――

*あとがき

 次話、テテフの過去回となりますが、その前に挿絵を挟みます。

 興味無い方は遠慮なく飛ばして下さい。

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