52話:三つ首の巨大骸骨:餓者髑髏《がしゃどくろ》
青い光を感じて振り返り、戦慄。
100を超える妖怪の死骸が集まり、“三つ首の巨大骸骨”に姿を変えたのだ。
『オォォォォオオオオーーーーッ!!!!』
「くッ、物凄い咆哮。まさかコイツが餓者髑髏?)
十中八九、おじいちゃんの手紙に書かれていた妖怪に間違いないだろう。
見たところ上半身の骨しか無いけれど、その上半身だけでボクの4~5倍はある。
これまで見て来たどの妖怪よりも圧倒的に大きく、その骨の全てが“蒼い炎”に包まれていた。
大きな頭蓋骨が横に三つ並んでいるので威圧感が半端ではなく、どう考えたって無視していい相手ではない。
というより、その巨大骸骨が“燃える骨”を投げて来る!!
(いきなりか!!)
慌てて骨を避けるも、しかしテテフが避けない。
ボクは咄嗟にナイフを振るう。
「“鎌鼬”」
斬撃で骨を弾き、続けざまに叫ぶ。
「何やってるの!? キミならそれくらい避けれるでしょ!!」
「お化け……」
「え?」
「お化け怖い!!」
叫んだのも束の間、テテフは耳と尻尾を丸めてその場にうずくまってしまった。
餓者髑髏に背を向け、丸めた両耳の上に両手を当て、目を瞑ったまま小さくしゃがんでいる。
(くっ、まだ子供に変わりはないか……ッ!!)
彼女の援護を期待した訳でもないけれど、やはり一人で何とかするしかなさそうだ。
「“鎌鼬:連”」
餓者髑髏目掛け、風の刃の連撃を放つ!!
が、しかし。
餓者髑髏に当たった瞬間、どちらも「ガキンッ」と弾かれた。
「結構硬いな。流石に並の妖怪じゃない」
攻撃は呆気なく弾かれたものの、これで餓者髑髏はボクに向き直る。
後は奴の意識がテテフに向かないよう、気を付けながら倒すだけ。
(おじいちゃんの手紙には「ボクじゃ倒せない」って書いてあったけど、それは1カ月前のボクに向けての言葉だ。今ならきっとやれる。身体に纏ってる“蒼い炎”は気になるけど……まぁ、倒しちゃえば問題無いよね?)
クロという『バグ』が身体に入った為か、もしくは全く別の要因かはわからないけれど、ボクの身体は“燃えても燃えない。
『Fantasy World (幻想世界)』で出場した剣舞会、その決勝の舞台で実証済みだ。
無論、熱による痛みは感じるけれど、一瞬だけ耐えれば大丈夫だろう。
「長引かせても良いことはなさそうだね。さっさと終わらせよう」
上半身の身体で、器用にゆっくりと近づいて来る餓者髑髏。
巨大な骨の右腕を振り上げ、ボク目掛けて振り下ろす!!
「よっ」
後ろに飛んで右腕を避け、砂を巻き上げたその右腕に乗り、そのまま骨の上を走る!!
「熱ッ!?」
蒼い炎がボクの足に燃え移り、それが予想以上に熱い!!
だけど、ここまで近づいたのも確か。
それを無駄にはしたくないと、餓者髑髏の三つ首目掛けて跳ぶ!!
(これで終わらせる!!)
三つ首の真ん中。
その首元に左手のナイフで一撃を入れて、首を落とす!!
という予定が、弾かれた。
「直接攻撃でも駄目なの!? それなら――」
ニュッと、右肩からクロの右腕を出す。
数日前に眠ってしまったクロだけど、ボクの意思でクロを出すのは既に朝飯前。
“拳”代わりの“頭”を構え、クロの口を大きく開く。
狙うは一点。
先と同じく、頭を支える首の骨:頸椎。
そこに向け、大きく口を開けたクロの右腕を伸ばす!!
「“黒蛇:顎”」
噛ッ!!
頑丈な頸椎が、クロの牙で噛み砕かれた!!
(いけるッ、やっぱりクロならやれる!!)
と、そう喜んだのも束の間。
蒼い炎が勢い良く燃え上がり、噛み砕いた筈の骨が“再生”した。
「……えっ?」
クロの牙は、確かに頸椎を噛み砕いた筈だ。
しかし、先程の「噛み砕き」が無かったかのように、粉々に砕いた筈の頸椎が元通りになっている。
「ちょッ、それは聞いてないんだけど!? っていうか熱い!!」
足に燃え移った“蒼い炎”が刺す様に痛い。
堪らず餓者髑髏から距離を取り、バタバタと手で炎を振り払うも、むしろ全身に燃え広がった。
すぐさま砂浜に寝っ転がり、砂の上をゴロゴロと転がるも、蒼い炎は消えない!!
(熱い熱い熱い!! 何でこの炎は消えないんだ!? こんなのどうすれば――って、海があるんだった!!)
冷静さを保っていたように見えて、そんなことにも今まで気づかないほど気が動転していたらしい。
堪え切れない熱さに悲鳴を上げつつ海に飛び込むと、一瞬にして“蒼い炎”は消え去った。
「はぁ、はぁ、海があって助かった……だけどマズイ。骨が再生するなんて厄介過ぎる」
おじいちゃんが「勝てない」と言っていた意味がようやくわかった。
図体がデカいだけで大して素早くもないし、むしろノロマとすら言える餓者髑髏だけれど、あの再生能力は反則。
肉を切らせて骨を切る覚悟で、蒼い炎に身を焦がしながら攻撃を入れても、簡単に再生されては敵わない。
(何か、何か良い手段はないか?)
思案しつつ、餓者髑髏が投げてくる骨を避け、ナイフでもう一度反撃を入れる!!
が、弾かれる。
やはり通用しない。
叩きつける腕を避けつつ、クロでもう一度反撃!!
だけどやっぱり、噛み砕いた筈の骨が再生される。
――無駄な攻防だ。
このままでは埒が明かない。
(どうする、テテフを連れて逃げるか?)
ノロマな餓者髑髏から逃げるだけなら、テテフを抱えた状態でも失敗する方が難しい。
これまでだって何度も妖怪から逃げて来たし、勝てない相手から逃げるのは賢明な判断だ。
「でも、このままじゃ森が……どういう訳か浜辺の地面まで燃えてるし……くッ、一体どうすれば?」
アチコチに飛び火した蒼い炎が、勢いを緩めることなく拡大しようとしていた。
その間も餓者髑髏の攻撃は止まらず、骨を投げ、腕を叩きつけ、三つ首で頭突きまで繰り出してくる!!
(マズい、予想外にマズいなこれは……ッ!!)
ゆっくりと、しかし確実にボクを海へと追い詰める餓者髑髏。
奴の背中に回りたくても、その視界にテテフの姿を入れる訳にもいかない。
良い手が思いつかず、ギリリと歯を食いしばったその時、空が光った。
――「雷」。
天を貫く稲妻が走り、ゴロゴロと雷鳴が轟く。
それを合図に、空を覆う低い黒雲から大粒の雨が降り出し、あっという間に世界の色を一変させる。
「よしッ」と、ボクは心の中でガッツポーズを取った。
(ナイスタイミング!! これで蒼い炎が消えれば、もしかしたら餓者髑髏が倒れるかも?)
そんなボクの甘い考えは、所詮甘い考えに過ぎないらしい。
どれだけ雨が降ろうが、餓者髑髏はお構いなしに動き、森や砂浜に飛び散った炎もお構いなしに燃え広がる。
バケツをひっくり返したような土砂降りなのに、それでも蒼い炎だけは依然として勢いを落とさない。
「普通の炎じゃないのか? っと!!」
両手の叩きつけを避けつつ。
今更ながらの感想を抱くも、それで解決できる事は何もない。
餓者髑髏の攻撃を避けながら、一歩、また一歩と後ずさりし、とうとう打ち上げる波に足が捕らわれてしまった。
(くッ、いよいよ逃げるしかないのか!?)
内心では既に諦めていたが、しかし“それ以上の攻撃が来ない”。
先程まで途切れなく攻撃していた巨大な骨の腕が、ボクを足が海に囚われた瞬間止んだ。
餓者髑髏はボクを睨みつつ、歯がゆそうにたじろいでいる。
「何だ? やっぱり水が苦手なのか? いやでも、雨の中でも関係なく動いているし……」
となると、海が苦手?
雨は大丈夫でも、海は駄目?
その差は何だ?
水の量か?
――いや、違う。
『もしも妖怪を倒せるようになったら、死骸の上に土を盛り、その上に塩を盛って成仏させてやれ』
おじいちゃんが寄越した手紙に、既に答えは書いてあった。
(つまり、妖怪の弱点は『塩分』!! こいつを海に引きずり込めれば、倒せる!!)
そうと決まれば話は早い。
ノロマな餓者髑髏の背後に回り、左手のナイフに意識を集中させる。
「“爆炎地獄”」
振りかざしたナイフから生まれた火花。
それが餓者髑髏にぶつかり、炎が爆ぜる!!
三つ首の一つがグラリと揺れて後ろに逸れるも、振り子の様に元へと戻るのに大した時間は掛からない。
(単発じゃ駄目か。だったら――)
「“爆炎地獄:参列”」
1発で駄目なら3発同時。
三つ首の頭にそれぞれ爆炎を叩き込み、今度こそグラリと餓者髑髏の身体が仰け反る――が、まだ倒れない。
あと「一押し」が必要だ。
(はぁ、はぁ……流石に連発が過ぎる。これ以上、雨の中で“爆炎地獄”は出せない。次で終わらせないと!!)
仰け反った餓者髑髏の身体が元に戻るまでが勝負。
間髪入れずに駆け出し、仰け反ったまま投げてきた太い骨を避けて、跳躍。
身体を捻り“大きくしならせた”クロの右腕を、勢いそのままに叩きつける!!
「“黒蛇:首喧嘩”」
土砂降りの雨音、そこへ轟く破裂音!!
痛撃の音が絶海の孤島に響き、餓者髑髏の巨体が更に大きく仰け反った!!




