45話:山頂とゴミ山の廃棄怪物《ダスティード》
ベックスハイラントの駅前広場に、突如として現れた廃棄怪物。
その近くで不運にも倒れてしまった女性が狙われ、もう駄目だと思ったところに一人の男が姿を現した。
見たままを表すなら、黒のスーツに身を包んだ中年の男性。
加えて“魂乃炎”所持者らしく、その胸にはメラメラと炎が踊っている。
先ほど廃棄怪物の腕を落としたのは、彼の仕業であることを疑うまでも無いだろう。
(一体何をしたんだ? 触ったようには見えなかったけど……でも、とにかく女性は無事だ)
間一髪のところで彼女の命は救われたが、ここで安心してはいけない。
片腕を失った廃棄怪物が、ならばともう片腕を振り上げる。
「ひぃッ!?」
再び絶望色に染まる女性の顔。
その顔面を押し潰す為、振り下ろされる廃棄怪物の腕。
しかし、瓦礫の腕が振り下ろされる前に、これまた「ガシャンッ」と崩れ落ちた。
そして、スーツの男性は崩落した瓦礫の腕を軽々と持ち上げ、廃棄怪物目掛けて放り投げる!!
――轟音!!!!
直撃だ。
自身の腕が当たった廃棄怪物は盛大に転倒。
そのままガラガラと崩壊し、あっという間に物言わぬ瓦礫の山と化した。
途端、車内が「わぁああ!!」と盛り上がる。
「ピエトロさんだ!! ピエトロさんが来てくれたぞ!!」
「市長が出てくればもう安心だな!!」
「安心って言うか終わったんだよ!! わははははッ」
「あの人が市長で助かったぜッ、街の英雄だ!!」
(ふ~ん? あの人が市長なのか。随分と強いみたいだね)
何の“魂乃炎”かはわからないけれど、彼が簡単に廃棄怪物を倒せることは理解出来た。
あの男性は街の人達にとっての「守り神」、心の拠り所といったところだろう。
助けられた女性が何度もペコペコと頭を下げるも、ピエトロと呼ばれた市長は「気にするな」とぶっきらぼうに告げるだけ。
そのまま何事も無かったかのように広場の奥へと消えて行った。
■
市長:ピエトロの活躍により、駅前広場に現れた廃棄怪物の混乱は収束。
予定より数分遅れで鉄道用のゲートが開き、動き出した列車は難なく街の外へと出る。
かくして螺旋街道を下り始めた列車直角の、直角に切り取られた車窓から見える景色は、低い高度を漂う雲と一面に広がるゴミの山。
遠方に見える山のすそ野辺りまで、何十キロにも渡って延々とゴミ山が続いている。
「何故、螺旋山の上に街が出来たと思う?」
不意に、おじいちゃんが問いかけて来た。
眼下に見えるゴミ山から一旦視線を外すも、しかしどう転んでもゴミは絡んで来るだろう。
「山上に街を作ったのは……下がゴミばかりで臭うから? 衛生的にもよくないだろうし」
「外れではないが、根本の問題はそこではない。――丁度いいタイミングじゃ」
スッと視線を逸らしたおじいちゃん。
それに倣って窓の外に目を向けると、空中に“リング状の青い光”が出現していた。
一体何事かと注視していると、リングの中から大量のゴミが出現し、そのまま真下に向かって落下を始める。
つまりは「ゴミの雨が降る光景」が目に飛び込んで来た。
「コレは……昨日のゴミの雨も、こうして空から降って来てたのか」
「ここ『Lawless World (無法世界)』は、今や“世界のゴミ捨て場”になっておる。高度2500メートルに設置された『世界扉』を通じて、ありとあらゆる世界から処分に困ったゴミが捨てられておるんじゃ」
「高度2500メートル……ベックスハイラントが3000メートルだから……あっ、そういうことか」
ベックスハイラントがあれだけの高所にある理由はただ一つ。
“ゴミが降ってこない場所に街を造った”のだ。
「人目を逃れ、秩序無きこの世界に流れ着く者達が、それでもまだ人の上に立とうとした結果、あの街は生まれた。逆を言えば、あの街にすら住めないゴミ山の住人は、『AtoA』26世界の中でも最底辺に位置しておると言える。あらゆる病気・犯罪が蔓延する無法中の無法地帯。毎日多くの餓死者が出るが、それ以上の“敗者”がゴミ山には流れ着くという」
そして吐き捨てる様に、おじいちゃんはこんな言葉を付け足した。
“あそこは地上の地獄じゃ”と。
――――――――
振り続けたゴミの雨を横目に、列車は淡々と螺旋山を下る。
何事もなく順調に下山した列車は、昨日パルフェと別れたゴミ山のホームに到着。
まさかここで降りる訳もなく、何処まで行くつもりなんだろうなと思っていたら、そのゴミ山の駅でおじいちゃんが席を立つ。
「降りるぞ」
「えっ、ここで? ゴミしかない場所だよ?」
「いいから来い」
言われるがままおじいちゃんに付いて列車を降り、ボク等を降ろした列車は呆気なく進み始める。
周囲は相変わらずゴミ山に囲まれているものの、線路とホームにだけはゴミ一つ落ちていない。
「ここは不思議と綺麗なんだよね。さっきもゴミの雨が降ったのに」
「この辺りにゴミが降ったのは随分昔の話じゃ。2500メートル上空にある『世界扉』の位置的に、今この周辺にゴミは降らぬ。風で飛ばされてきたゴミ、崩れて線路に落ちたゴミも清掃員が見回って逐一拾っておる」
「ふ~ん、清掃員がいるんだ?」
「ゴミ山の連中じゃがな。線路の整備をする代わりに、僅かな賃金を得て暮らしておる。――行くぞ」
会話もそこそこにゴミ山の中へと入ってゆくおじいちゃん。
その小さな背中を追いかけ、相変わらずの匂いだなと思いつつ足を進めること10分。
前方から漂って来た悪臭にボクは思わず顔をしかめる。
(うッ、酷い臭いだ。ここまでで一番酷いかも……)
ただの「臭い」というレベルを超えている。
腐敗臭と刺激臭が混ざって、そこに汚物を足したような本当に酷い臭いだ。
臭いモノにある程度耐性があるボクだからギリギリ我慢出来るけれど、これがパルフェだったら失神していてもおかしくない。
こんな場所はさっさと通り過ぎたいと願ったものの、逆におじいちゃんはこの場所で足を止める。
「当初の予定より数日早いが、そんなモノは誤差じゃろう。コレより、お主の可能性を見極める」
「え? 何々、どういうこと? ボクの可能性って?」
「先刻、お主には馬車馬のように働いてもらうと言ったが、今のままでは話にならん。足手纏いじゃ」
「ッ~~!!」
そんなことない!! と言い返したかったものの。
事実として、今のボクは圧倒的に前よりも弱くなっている。
普通の人の価値観ならともかく、おじいちゃんの視点で考えれば「足手纏い」と言われても致し方ない。
「今のボクが、弱いっていう自覚はあるよ。でも、それはこれから時間をかけて強くなれば――」
「そんな悠長にしとる時間が、お主にあるのか?」
言うな否や。
近くのゴミ山がグラグラと揺れ、それらを構成していた瓦礫が「ガシャン、ガシャン」と音を立てて集まり始める。
これで嫌な予感を覚えない方がおかしく、予感が外れることもなく、案の定ボクの目の前に廃棄怪物が出現。
僅か1時間ほど前と、そして昨日に続き3度目の邂逅だ。
これをただの偶然だと、それで片付ける人間はいないだろう。
「まさか、おじいちゃんがコイツを……?」
「ホッホッホッ。そいつを倒すことが出来れば教えてやる。右腕を失ったお主に倒せれば、の話じゃがな」
「………………」
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ボクを助けてくれたおじいちゃんが、良い人だと思っていたおじいちゃんが、人を襲う怪物を生み出していた?
何故だ?
何の為にそんなことをする?
これも旧世界:地球を目指す為?
『世界管理術』を手に入れる為に必要なことなのか?
わからない。
わからないなら聞くしかないけれど、しかしそれは、ボク目掛けて腕を振り下ろす、廃棄怪物に打ち勝った場合の話か。
轟音!!
足元のゴミを吹き飛ばす、圧倒的な威力。
その一撃を回避し、ボクは身体に溜めた地獄の熱を解放する。
(ここで倒れてもいい。オーバーヒートしてでも廃棄怪物を倒す!!)
身体からコントロール出来ない黒煙を噴き出し、それを煙幕として廃棄怪物の懐に飛び込む。
そのまま真上に跳躍し、顔面を目掛け――
“竈蹴り”!!
――爆炎を伴う蹴り!!
昨日は廃棄怪物が投げてきた瓦礫を弾いた足技で、今日は直接“本体”を狙う。
効果無し、とはならず。
爆炎は確かに生まれ、廃棄怪物の頭は僅かに揺れたものの、それだけだ。
「これじゃ弱い……!!」
地獄の熱をコントロール出来ない為、生まれた爆炎が想定以上に弱い。
市長:ピエトロが投げ返した瓦礫、その威力の足元にも及ばないし、これならキッチンを爆破させた時の方がよっぽど高火力だった。
だというのに、それでも着地したボクの身体は呆気なく「グラリ」とよろける。
(くッ、思ったより堪えるな……ッ)
足を踏ん張って体勢を持ち直すも、身体が悲鳴を上げているのは明白。
このままオーバーヒートが続いてボクがぶっ倒れる前に、廃棄怪物を倒さなければ未来は無い。
時間との勝負だ。
短期決着を目指し、再び廃棄怪物の懐に飛び込む!!
(奴はデカい分、動きが遅い。次こそ全力で“竈蹴り”を――ッ!?)
見上げた先には「瓦礫の腕」。
こちらの想定以上に廃棄怪物の動きが速かった。
避ける暇も無く、勢いよく振り下ろされた無骨な腕が直撃!!
「がはッ!?」
ノーガードの状態でもろに喰らい、身体がゴミ山に叩きつけられる!!




