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40話:お金と決断

 無人のホームに到着した列車、その車掌曰く。

 列車に乗るには一人「50万G」という破格の料金が必要らしいが、素直に「了解」と返す訳にもいかない。


「えっと、あの……50万ってのは何かの間違いだよね? ボク等は一人10万Gって聞いてたんだけど……」


「そうそう、私もそう聞いたよ?」


 最初に訪れた街、無法集団アウトライブに破壊された街のおじさんは確かにそう言っていた。

 普通に考えたら10万Gでも高いけれど、ベックスハイラントはお金持ちの街なので、そこへ行く列車に乗るだけでもそれ相応の金額が必要だと。

 しかし、そんなボク等の反応に車掌は渋い顔を返す。


「50万Gで間違いないですよ。この列車の料金は『天上街:ベックスハイラント』への入場許可証タウンパス代込みですからね。10万Gは乗車券で、40万Gは入場許可証タウンパス代です」


「何それ、街に入るのにお金が要るってこと?」


「そういうことです。何せここはルール無用の『Lawless World (無法世界)』。こんな世界で誰かれ構わず街に入れても治安が悪くなるだけですし、“最低限の金”を払える人しか街には入れない決まりなんです」


 そんなことも知らないのかと言わんばかりに「やれやれ」と肩を竦めた車掌。

 それから彼は、明らかに蔑んだ目をボク等に向ける。


「――で、金はあるんですか?」


 どうせお前等はどうせ持ってないだろうと、そんな決めつけた感じのある視線だ。

 ゴミ山から乗って来る奴等が、一人「50万G」の列車料金を払える筈もないと。

 しかし、幸か不幸かお金が全く無い訳でもない。


「一応、ここにギリギリ100万ならあるけど」


「おや、これは予想外。もしや偽札じゃあないですよね?」


「そんなに疑うなら調べてみれば?」


 売られた喧嘩を買うように、ボクは少々乱暴に100万Gの札束を車掌に渡した。

 その札束から数枚抜き取り、車掌がライトを当てたりしながらジロジロと確認してからボクに戻す。


「なるほど、どうやら本物の様です。でも、100万Gでは二人しか乗れませんよ?」


「ドラの助……」


 どうするの? と不安げな顔を向けて来た彼女に、ボクは致し方なしと「結論」を告げる。

 無いモノは無いし、最早“これ”しか手段は残されていないだろう。


「パルフェ、その子と二人で列車に乗って」



 ――――――――



 ~ 30分後 ~


 低い雲を優に超える、高さ3000メートル級の山。

 ネジをひっくり返した様な螺旋状の形をしている、その名も「螺旋山」。

 頂きに「天上街:ベックスハイラント」を有する螺旋山の崖を、ボクは今現在“左手一本で登っていた”。


 夜の帳は既に降り、傍から見ると軽く狂気の沙汰だけれど、決して気が狂った訳ではない。

 お金が工面できない以上、ベックスハイラントに行く方法がこれしかなかっただけだ。


(あの獣人族の子を病院に連れて行くなら、後はどちらが列車に乗るかの問題。パルフェをゴミ山へ置いてく訳にはいかない以上、ボクが残って自力でどうにかするしかない)


 だから今、ボクは崖を登っている。

 当初は列車が過ぎ去った後に、山頂まで続く螺旋状の道:“螺旋街道”を走っていくつもりだったけれど、それは諦めた。


 山を登り始める螺旋街道の入り口に、ランタンと槍を持った複数の警備兵がいた為だ。

 彼等を倒して無理やり進むことも可能だろうけど、もし通信機を持っていたら面倒な事態に成り兼ねない。


 勿論、このまま最後まで崖を登りきるつもりは無く、警備兵の目を誤魔化して螺旋街道に辿り着ければそれでいい。

 彼等に気付かれず一旦街道へ入ってしまえば、後は上まで道なりに沿って進むだけ。


「とは言え、やっぱ左腕一本じゃ厳しいね。何十メートルも片腕で登らないといけないし、握力も既に限界気味だけど……」


 それでも、人目につかないこんな場所で弱音を吐いてもしょうがない。 

 ここにボクを助けてくれる人は一人もおらず、状況を打破するには自力で何とかする他ない。


(それに、ボクがもっと周囲に目を向けていれば、あの子だって傷付かずに済んだ筈なんだ)


 あの子の傷も、この状況も、全てはボクの弱さが生んだ代物。

 直接の原因は廃棄怪物ダスティードだと、そんな責任転嫁をしたところで意味は無いどころか、厚顔無恥な人間を生み出すだけ。


 この苦行は自分への戒めだと、少なくとも今はそう思うことにして。

 ただひたすらに左腕と両足を動かし、ボクは黙々と螺旋山の崖を登り続けた。



 そして――。



「はぁ、はぁ……これで、半分以上は登って来た筈……」


 少々肌寒く、空気も薄くなってきた螺旋山の中腹で、ボクは久方振りにその脚を止める。

 崖を登って何とか螺旋街道へと入り、そこから鉄道のレールに沿って螺旋街道を走って来たところだ。

 山頂まではまだまだ距離が残っているものの、ボクが本気で走ればそんなに時間もかからないだろう。


 ただし、その為には少々休憩も必要か。


「流石に、今日は動き過ぎたね……。少し前まで下のゴミ山で一泊するかどうかを悩んでたのに、こんな場所まで来ちゃうんだもん」


 ゴロンと街道に寝ころび、「ふぅ~」と大きく深呼吸を入れる。

 見上げる空の半分は雲に覆われており、夜空の大パノラマを堪能とはいかなかったものの、まぁ身体を休めるだけなので別に景色なんてどうでもいい。


 息を整え、そのまましばらく休憩。

 身体はこのまま眠りに着くことを望んでいるけれど、そういう訳にもいかず、疲労の抜けきれぬ身体を再び起こす。


「さてと、パルフェも心配だし急がないと――ん? こんな山の中腹に“扉”?」


 暗がりの中で気づかなかったけれど、ボクが寝ころんでいたすぐ近くに扉があった。

 岩壁の中にひっそりと佇む、昼間でも目立たないだろう明らかに場違いな扉。

 どうやら螺旋山の中に続いているみたいだけれど……。


(何だアレ、こんな場所に誰か住んでるのか? いや、そんな訳無いか)


 列車が停まる場所でも無い。

 昇り降りだけでも苦労を伴うこんな場所に住むくらいなら、まだ下のゴミ山で暮らした方が幾分マシに思える。

 恐らくは鉄道の建設時に使われた休憩所とか事務所とか、多分そんな感じだろう。


「ここで時間使ってもしょうがない。さっさと上を目指さないと」


 時間は有限。

 心配な二人の少女と再会する為、疲労困憊の身体に尚も鞭を打って駆け上がる。

 何処までも続く坂道に果てしないやるせなさを覚えつつ、そのやるせなさが怒りに変わりかけたところで、ボクは遂に螺旋街道を登り切った。



 ■



 ようやく辿り着いた約束の地、天上街:ベックスハイラント。

 先んじて「この街の警備体制」にフォローを入れておくと、一応はグルっと街を囲む鉄柵があるし、いくつか見張り塔も確認出来た。

 ただし、実際に侵入者がここまで登ってくることはあまり想定していないらしい。

 

「よっと」


 緊張感のない警備兵の目を盗み、身軽な身体で鉄柵を乗り越える。

 街への侵入は呆気なく成功だ。


「さてと。街に入れたのはいいけど、パルフェは何処にいるんだろう? おじいちゃんと何処で落ち合うかも決めてなかったけど……まぁいいや。とりあえずパルフェと合流しなきゃ」


 列車で先に着いたパルフェは、かれこれ2時間近く待っている計算になる。

 何をするにも、まずは彼女と合流しないとボクも不安でしょうがない。


 コソコソと路地を移動し、街の中央にあった“駅”に行ってみたものの、彼女の姿はそこに無い。

 ゴミ山の無人駅で別れる際に「駅で合流」と打合せはしていたけれど、流石に時間を掛け過ぎてしまったらしい。

 

(一人で病院に行ってるならいいけど、こんな時間に見てくれるのか? 急患として対応してくれてればいいけど、本当に病院に行っているかどうかも怪しいな。とにかく早く見つけないと)


 これまで見て来た彼女の運の悪さを思えば、病院を探して路地裏に迷い込んで、変な輩に絡まれてる可能性もある。

 なるべく怪しそうな路地に入り、「いないかな~」と適当に奥を覗いてみたら――いた。


 まさかと言うか、案の定とでも言うべきか。

 正に今、パルフェがチャラそうな男に絡まれているところだ。


「ねーねー彼女~、これから飲みに行かない? 俺がもっと綺麗で可愛い服を買ってあげるよ」


「ちょっと退いてッ、私は病院探してるの!! アンタなんかお呼びじゃないんだから!!」


「ひゅ~、そういう気が強いところもいいね。だけど抵抗しない方が身の為だよ?」


 ギロリと、男はパルフェを睨む。

 睨んだまま、舐め回す様な視線を彼女に向ける。


「そのボロい服、下のゴミ山からこっそり上がって来たんでしょ? 警備兵を呼ばれて下に送り返されたくなかったら、俺の言う通りにした方がいいよ? ほら、背中の汚いのはさっさと捨ててギャンッ!?」


 後ろから股間を蹴り上げたら、チャラそうな男が変な声を上げた。

 自分で蹴っておいてなんだけど、コレはかなり痛い。

 ムカつく相手だったから謝らないでおくけれど、それでもこっちには謝っておいた方がいいか。


「ごめんパルフェ、遅くなった。背中の子は大丈夫?」


「ドラの助~~!!」


 ボクを見つけ、その顔にパァ~っと花を咲かせたパルフェ。

 獣人族の少女を背負ったまま、ニコニコと小走りで駆けてきたところで、“躓く”。


「きゃッ!?」


「おっと」


 倒れかけたパルフェを前から支えるも、相手の体重は二人分。

 何とか踏ん張ろうとしたものの、堪え切れずに重心が浮いたボクの背中を、「トンッ」と“何かが支えた”。


(んっ?)


 当然、パルフェではない。

 彼女はボクの目の前にいるし、そんな彼女も驚いた顔でボクの後ろを見ている。

 かと言ってチャラそうな男は股間を押さえたまま悶絶しているし、であれば「一体何者だ?」と慌てて振り返り、驚く。


「おじいちゃん!?」


 視界に映ったのは他でもない。

 数日前にボクの脱獄を手伝ってくれた――この街で逢おうと約束していた“長い白髭の老人”だった。

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