表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/237

39話:ドラノア VS 廃棄怪物

 移動に次ぐ移動で疲労もかなり溜まっているというのに。

 こんなボク等のコンディションを無視して、ゴミ山に生まれた瓦礫の化け物:廃棄怪物ダスティード

 そいつが足元の瓦礫を引っこ抜く時点で、次の行動はある程度予測出来ていた。


(やらせない!!)


 左手にナイフを持ち。

 視線は廃棄怪物ダスティードが持ち上げた瓦礫に向けて。


「“鎌鼬かまいたち”!!」


 渾身の想いでナイフを振るうが、不発。

 空を斬るだけで終わった。


(やっぱ左腕一本じゃ無理か。体術はそこまで得意じゃないけど、やるしかない)


 初手は失敗に終わるも「成す術無し」となった訳ではない。

 次なる一手でボクが駆けだすと同時、廃棄怪物ダスティードがこちらを目掛け瓦礫を投げてくる!!


 それを視認したボクの身体からは、“黒い煙が立ち昇る”。


 オーバーヒート。

 本来は身体を酷使し、コントロール出来なくなった地獄の熱が煙となって出て来る現象だけど、今回は違う。

 右腕を無くして身体のバランスが崩れた為、身体を酷使する前から、体内に溜めている地獄の熱がコントロール出来ていない結果だ。


 でも、それら一切を無視して躊躇なく跳び上がった。

 そして廃棄怪物ダスティードが投げて来た瓦礫に、“渾身の後ろ回し蹴り”を入れる!!



「“竈蹴かまどげり”!!」



 ボクの踵と武骨な瓦礫が空中で衝突し、爆発!!

 この衝撃で明後日の方向に飛んで行った瓦礫が、着地点のゴミ山を吹き飛ばして――悲鳴。


「ッ!! あっちに誰か居たのか!?」


 最悪だ。

 ゴミ山の住人達が居ない方角に吹き飛ばしたつもりだったけど、ボクの把握してないところに誰か居たらしい。

 後ろのパルフェにも聞こえていたのか、彼女が不安げな視線をこちらに寄越す。


「ねぇドラの助、今の声って……」


「ちょっと確認して来る!! パルフェは廃棄怪物ダスティードの攻撃に注意して!!」


「わ、私も行く!!」


 先の一撃で攻撃が終わりとは限らない。

 ならばとパルフェを先に行かせ、ボクは廃棄怪物ダスティードの動きを注意しつつ追撃を警戒。


 すると案の定だ。

 廃棄怪物ダスティードが再び瓦礫を投げて来たけれど、そこまでコントロールが良いわけでもないのか、今度は少し離れたゴミ山の衝突。

 それでもグラグラと足場が揺れたのは、不安定なゴミ山の上だからだろう。


「ドラの助ッ、あそこに女の子が!!」


 先を行っていたパルフェが指差す先。

 小さなゴミ山で囲まれた窪地に、幼い子供が倒れていた。

 ボクが吹き飛ばした瓦礫が直撃したのか、それとも着弾の衝撃で弾かれた瓦礫が当たったのか、もしくは足場が揺れて倒れただけか。


「ちょっとキミッ、大丈夫!?」


「………………」


 ゴミ山の上から声を掛けてみるも反応は無く、ボクは慌ててゴミ山を下り、倒れた少女の容体を確認。

 パッと見、一発でわかるような致命傷はなさそうだけど、褐色の小さな頭からは鮮やかな血が流れている。

 加えて、少し遅れてやって来たパルフェは、その頭にある“大きな獣の耳”を見て目を見開いた。


「わわっ、“獣人族”だ。随分と痩せちゃってるみたいだけど……生きてる、よね?」


「うん、息はあるみたい。でも意識が無いし、頭から血を流してるのはマズいね。なるべく早く医者に見せないと」


「でもでも、ここに病院があるとは思えないよ?」


「それはボクも同感。もしこの近くに病院があるとしたら――」


 チラリと、ボク等二人の視線が螺旋山の上へと向く。

 可能性があるとすれば“あそこ”しかない。


「私が運ぶよ」


「ボクも手伝う、って言いたいところだけど、何かあった時の為に左腕は開けておきたいんだ。悪いけどお願い出来る?」


「任せて!! ドラの助には助けて貰いっぱなしだし、今度は私が誰かを助ける番だよッ」


「ありがとう。でも無理はしないでね」


 そうお願いしたところで無理しそうな雰囲気だけど、それを止める状況でもなければ、それを止める立場にもない。

 仮にパルフェの意気込みを止めるモノがいるとすれば、後方にいる化物くらいなもの。


 廃棄怪物ダスティードの動きは全体的に遅いし、焦らず確実に進めば逃げ切れる筈だけど、逃げ切るまでは油断出来ない。


 ――ガシャン!!

 盛大な音を立て、3度目の瓦礫が隣のゴミ山に激突。

 三度みたびグラグラと揺れる足場の上で、ボクはギリリと苦虫を噛む。


(くそッ。今はゴミ山の窪地にいるし、ボク等の姿は見えてない筈なのに……この身体から出る黒煙がいい目印になってしまってる。早々にこの場から離れないと)


 負傷した少女を背負ったパルフェ、彼女を先頭に改めて螺旋山を目指す。

 廃棄怪物ダスティードの動きには引き続き警戒しつつ、投げて来た瓦礫が直撃コースだったらボクが弾く。


 これを数回繰り返し、何とか線路まで戻ったのが功を奏したのだろう。

 ゴミ山と比べてボク等の移動速度も上がったおかげか、しばらくすると廃棄怪物ダスティードの姿は完全に見えなくなった。



 ■



 ~ 2時間後 ~


 ボクの身体から出る黒煙も落ち着き。

 それと反するように空は少しずつ茜色に染まり、間もなくすれば太陽が姿を隠そうという時間帯。

 アレから廃棄怪物ダスティードが現れることも無く順調にゴミ山を進んだボク等は、螺旋山の麓近くにある“殺風景な人工物”を見つけ、パルフェが期待混じりに前方を指差す。


「見て見て、無人だけど“駅のホーム”があるよ」


「本当だね。まさかこんな場所にホームがあるとは」


「時刻表もあるみたいだし、ちょっと上がって見てみようよ。もしかしたら復旧した列車がやって来るかもだし」


「う~ん、あんまり期待しない方が良いと思うけど」


 過度な期待は外れた時のショックを増やすだけ。

 仮に列車が復旧していたとしても、このタイミングで都合よく来てくれる筈もないと、そう内心の期待値を下げるもののも、まぁ見るだけならタダか。


 何が減るわけでもないとホームに上り、寂れた時計付きの時刻表を確認すると、現在の時刻は午後5時55分。

 肝心の列車は1日に3往復しかしていないみたいだけれど、3本目となる最終列車が午後の6時と記されている。


「やったね、あと5分で列車が来るかも♪」


「復旧してれば、だけどね。まぁ列車が来ないと決まった訳でもないし、5分くらいなら待ってみようか」


 時間も時間だし、子供とはいえ人一人を背負うパルフェの疲労も相当溜まっている。

 このまま無茶を押して登山に挑むか、素直にこのホームで一夜を明かすか、その判断の瀬戸際にいたのは間違いない。

 獣人族の少女は変わらず目を覚まさないものの、既に血は止まって呼吸も安定しているし、休憩がてら5分だけ判断を遅らせることに問題は無いだろう。


 あとは本当に列車が来てくれたら――それを心の底から祈ったところで。

 ゴミ山の向こうから「ガタンゴトンッ」と独特な音が届き、ボクは思わず目を見開く。


「おぉ、まさか本当に列車が来るとは。どうやら復旧作業が終わったみたいだね」


「よかったぁ~。このまま3000メートルの登山ってなったら、正直ちょっと無理だったかも」


「列車に乗れれば随分と楽が出来るし、この子を病院に連れて行くのも最速だね。多分、ボク一人なら待たずに先へ行っちゃってたよ。ナイス判断パルフェ」


「えへへ、もっと褒めてくれてもいいよ?」


 疲れた顔でパルフェが威張り、それから間もなく。

 先の音から連想出来た姿を当然の様に見せたのは、ゴミ山の中にあるゴミ一つ無い線路を通る鉄の塊。

 3両編成の黒い列車がゆっくりとスピードを落とし、ボク等の立つ寂れたホームの前で停車する。


「………………。……あれ、誰も降りてこない」


 鉄格子がついた窓の向こう。

 列車の中には座席に座る乗客の姿がチラホラと見て取れるけれど、誰も降りないどころか扉が開く気配すらない。

 先頭車両の窓越しには帽子を被った車掌が見えるので、ボクは車掌の所まで行って鉄格子付きの窓をコンコンと叩く。


「あのー、扉を開けて貰えません?」


 声を掛けると、車掌は驚いた顔を見せた。

 直後、こちらを品定めする様な顔で窓を開ける。


「もしかしてですけど、乗るつもりですか?」


「もしかしなくてもそのつもりだけど……」


「あー、そうなんですか。臭そうな人達だったので、つい乗らないものだとばかり」


「うわッ、ひっど~~い!! 何なのアンタ!?」


 唐突な「臭そう」発言に怒りを隠さないパルフェ。

 そんな彼女の対応を「面倒くさい」と言わんばかりに、車掌は気だるそうに口を開く。


「こんなところから乗る人なんて滅多にいないのでね。金を払うなら客なので乗せますけど、本当に金はあるんですか? 一人50万Gですよ?」



「「50万G!?」」



 ボクとパルフェ、二人の声が見事に重なった瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■続きに期待と思って頂けたら、ブクマ・ポイント評価お願いします!!!!
小説家になろう 勝手にランキング ツギクルバナー

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ